OpenStack Summit Austin 2016 真の勝者はユーザーだ
プライベートクラウドのインフラストラクチャーであるOpenStackのためのイベント、OpenStack Summit Austin 2016が終了した。半年1回開かれるこのイベントは毎回参加者が増え、今回は前回のTokyo Summitを超えて60ヶ国、7,500名を超える参加者がテキサス州オースチンに集まった。またスポンサーも120に及ばんとする巨大なイベントである。この記事では2日間に渡って行われたキーノートとアナリストブリーフィングから意味するものを考察してみたい。
まず4月25日の9時から行われたキーノートではOpenStack FoundationのExecutive Director、Jonathan Bryceがサミットの概略を紹介する部分から始まった。約2時間のキーノートは入れ代わり立ち代わり登壇するゲストスピーカーや、スポンサー枠で10分程度のプレゼンを行うベンダーのエグゼクティブなどが矢継ぎ早にプレゼンテーションを行うのため、飽きないが深い話をしようとしても時間の制限があって伝えづらい結果になる。また短い時間にトークを詰め込む代わりに丁寧に作りこまれた動画を使うベンダーも多い。そんな中、ひときわ目立ったのがMirantisのCo-Founder、Boris Renskiだ。
いきなりクマの着包みを引き連れて登壇し、チノパンにRUN DMCを模した黒のTシャツ、羽織っているジージャンの背中にはド派手なストリートペインティング風のイラスト、それにバッドボーイ風のベースボールキャップ。他の登壇者がビジネスカジュアルにほぼ揃った格好をしている中で圧倒的に目立つことを最優先した演出方法だ。ちなみにTシャツの文字はRUN MOS、つまりRun Mirantis OpenStackの略だ。
Mirantisの直前に登壇したユースケースはAT&Tのパブリッククラウドサービスで、その短い説明の中で明示的には語られてはいないがMirantisが開発をリードするインストーラー、FuelがAT&Tのプロジェクトでは必須のモジュールになっている。関係者なら「AT&TがMirantisのソリューションとサービスを使ったのだ」ということがわかることと合わせて考えると効果は抜群だったと言っても過言ではない。さらにキーノートの最後に登壇したフォルクスワーゲンのプレゼンテーションでは明確に「Mirantisと一緒に構築した」と語っていることが後押しとなり、この日のハイライトとなった。影の勝者はMirantisだった。
https://www.openstack.org/videos/video/mirantis-sponsor-keynote
フォルクスワーゲンの事例は、プレスリリースも出ているようにMirantisにとっては大きなトピックで、最終的に競合となったのがRed Hatだったという。Red Hatにとって不幸だったのはAT&T、Mirantis、フォルクスワーゲンという繋がりの中に埋もれてしまったということだろう。実際にはVerizonのOpenStackのユースケースは評価されるべき内容だし、MirantisがOpenStackの成功の秘訣はソフトウェアではなく人とプロセスだと断言する中で、いつもの様にコミュニティとUpstreamの開発を優先して信頼の置けるソフトウェアをコミュニティと一緒に作り続けるというRed Hatのメッセージは変わらない。今回登壇したチーフテクノロジストのChris Wrightのソフトな語り口もMirantisのBorisのマシンガントークに打つ手なしという印象だった。Red Hatの真面目なメッセージもせっかく登壇したVerizonの責任者も影が薄くなってしまった。
https://www.openstack.org/videos/video/trusted-cloud-solutions
今回の取材の中で分かったことはアメリカのIT業界、特にOpenStackに関わっている有力企業の中ではMirantisはソフトウェアの会社ではなくコンサルやインテグレーションを手掛けるサービスの会社である、という認識だ。そうみるとMirantisが発したメッセージが「OpenStackの成功の鍵は人の考え方、ビジネスプロセスの中身である、ソフトウェアは最後の10%で、Mirantisにとっては顧客が欲しいものを使わせれば良い」というのは必然だろう。
2日目のキーノートではOpenStack FoundationのCOO、Mark Collierが登壇し、ユーザーサーベイの紹介から始まりベンダーやユーザーを囲むコミュニティ、更にデモを配した内容であった。これは、OpenStackがコアなソフトウェアだけで成り立つのではなく、他のソフトウェアとのコラボレーションが必要だし、北米やヨーロッパ以外の市場への拡大も必要である、ということを明確にしつつ、参加者を飽きさせないための工夫が感じられた。インフラの構築だけに留まらず、IoTの実証実験であるチェコのスマートシティのデモを実際にコンベンションセンターの会議室にセンサーを設置するなど、既にインフラの構築だけではなく、その上で何をするのか?何とコラボレーションするのか?を考えるべき時点に来ていることを示したといえる。
もう一つのトピックは今回のサミットでOpenStack FoundationのGoldメンバーとして、中国のUnitedStack、EasyStackというどちらも歴史の浅いOpenStackに特化したベンチャーが加入したことだろう。これは今後の中国本土でのOpenStackの浸透を予想する上で重要な要因となるだろう。更に台湾で開催されたOpenStack Application Hackathonで優勝したチームを招いて壇上でデモをさせたのは、いつか開かれるであろう中国本土でのOpenStack Summitを予感させるものだった。実際にMarketPlaceと呼ばれる展示ブースでも中国や台湾の企業が複数出展しており、内容はともかく存在感を表したといえる。
最後にAnalyst Briefingの内容を簡単に紹介しよう。ここではサミットの概略と最新リリース、MITAKAの概要が紹介された。今回のサミットで興味深いのは参加者の増加もさることながら、半分以上の参加者が初めてのサミットだということ、参加者の中のUpstream Developerの割合が11%であること、などが解説されイベントそのものが確実にコードを書く開発者以外をも取り巻くお祭りに変化しているということだろう。
実際にサミットの後半に開かれるデザインサミットは次期リリースのことを議論する機会としては日程的に遅すぎる、サミットとは別に開催するべき、という声も挙がっているらしい。
更にOpenStack Certified Administrator試験も開始され、DevだけではなくOps側も巻き込んだ巨大なムーブメントになっていることが実感できる。MITAKAに関して言えば、2,336名のコントリビュータが345の組織から参加したこと、コミュニティ全体では50,000名の参加者数に近づいていること、ソフトウェアテストに至っては2015年の1年間で550万回以上のテストジョブが実行されたことなどが説明され、リリースとしても確実に拡大していることが理解できる。
ソフトウェアを開発者が開発者のために作る、ベンダーが自社のユーザーのために作る、そういう発想からOpenStack FoundationはDevとUserという2つの違う人種を無理やりにでも近づけていった。その結果がこのような大きなイベントに成長していった理由ではないだろうか。そういう意味では本当の勝者、このイベントで最も利益を得られるのはユーザーなのかもしれない。単に金を出すだけの立場からもっと開発にも運用にも踏みこんでいくことをFoundationが支援し、メンバーやコントリビュータが後押しをする。道のりは険しいが、DevとUserは一緒に歩んでいこうという意図を感じるのだ。ちなみにOpenStack Summitのロゴの”n”と”u”の上にDevsとUsersという文字が小さく書かれていることにお気づきだろうか。
この次のバルセロナで、サミットは、そしてOpenStackはどうなっているのか、興味は尽きない。
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