Mirantisの強さはクリアなゴールと成長を支えるエネルギー

2016年5月25日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
OpenStack Summit Austinで目立っていたMirantisの製品企画VPと製品担当ダイレクターにインタビュー。強さとスピードを支える原動力は何か?

OpenStack Summit Austin 2016の第1日目に派手な演出でステージを盛り上げたのはMirantisのCMO、Boris Renski氏だったが、具体的になぜMirantisがもてはやされているのか、プロダクトマーケティングのトップであるKamesh Pemmaraju氏(VP of Product Marketing and Technology Alliances)と製品開発側の責任者であるCraig Peters氏(Director of Product Management)に話を聞いた。どちらも元DELL、元EMCといったエンタープライズソリューションを熟知しているベテランだ。

最初に話を聞いたのはKamesh Pemmaraju氏(VP of Product Marketing and Technology Alliances)だ。

MirantisのKamesh Pemmaraju氏

ーーまず簡単に自己紹介をお願いします。

私はプロダクトマーケティングのトップという仕事ともう一つはパートナーマーケティングのトップの2つの仕事をやっています。Mirantisに入る前はDELLで、そこでもOpenStackに関わっていました。最初にDELLがOpenStackを扱う時に担当をしていました。OpenStack Summitとも長い付き合いで今回のサミットで11回目の参加になりますね。その前は自分でコンサルティング会社を経営していました。主にSAPやOracleなどのITベンダーを相手にクラウドコンピューティングに関するコンサルティングをやっていました。そこからDELLを経て実際にクラウドコンピューティングをお客様に提供するMirantisに移ったわけです。

--今のMirantisのビジネスについて概略を教えてください。

Mirantisのビジネスには3つの柱があります。1つ目はトレーニング。これは年に4千人から5千人ほどのエンジニアを教育しているもので、毎年確実に成長を続けています。2つ目はOpenStackに関するプロフェッショナルサービスです。我々はOpenStackに対するエンジニアリングの経験をもっています。MirantisはOpenStackコミュニティにおいて最大のコントリビューションを行っている企業なのです。

その経験を元にしたエンジニアリングサービスですね。これは顧客と一緒に必要なモノを開発するという側面もあります。システムのコンサルテーションなども含まれます。3つ目はOpenStackそのものです。これはMirantisが検証を行ったOpenStackディストリビューションをサブスクリプションとして買って頂くサービスになります。ソフトウェアそのものはオープンソースですし、無料ですが、Mirantisがサポートを行うOpenStackはバグの修正や負荷テスト、動作検証などを行って安定して使って頂くために労力を使っています。現時点でもOpenStackそのものをダウンロードして自分で構成して導入することは可能ですが、それを行うには多くのエンジニアを抱える必要があります。そういうリソースを持っている企業はまだ多くはありません。そういう部分をMirantisが肩代わりして安心して使って頂く、ということを実践しています。更に導入の際の支援というだけではなくプロアクティブサービスという実際にMirantisのエンジニアがお客様のサイトに常駐してOpenStackの管理運用を行うというものもあります。これだと何かがおかしくなる前に経験を積んだエンジニアが対応できるわけです。またMirantisはStackLightというツールを開発しています。これはOpenStackの監視モニタリングツールです。これを使えばシステム全体のモニタリングを行って何かが起こる前にシステム管理者にアラートを行うことができるのです。

--単にOpenStackをパッケージ化して売っているだけではないというわけですね。

その通りです。実際にお客様がOpenStackを使って何をしたいのか?を理解した上で正しいツールやサービスを提供するというのが我々の使命なのです。ですから例えばAT&TにとってOpenStackは複数のサーバーで構成されるクラウドではなくてサービス全体を構成する大規模なクラウドで無ければいけないということを理解した上で構築を行うのです。現在は72箇所のデータセンターでOpenStackが稼働していますが、それをFuelで管理しています。

--パートナーマーケティングの一環では何がMirantisの強みなんですか?

パートナーエコシステムという意味ではMirantis Unlockedというプログラムがあります。これはサードパーティのプラグインなどをMirantisのOpenStack環境の中で検証を行って安心して使ってもらうためのプログラムです。特にFuelについてはサードパーティがインストーラーに対してプラグインを作ることで簡単にFuelの中に取り込むことができます。様々なストレージやネットワークなどをFuelで一元的に管理、運用することができます。そういう意味ではパッケージソフトウェアを売るだけで終わってしまうベンダーとは対極にありますね。

次に話を聞いたのはCraig Peters氏だ。Pemmaraju氏がマーケティングとセールスに近い立ち位置だとするとPeters氏はもっと開発に近いという。OpenStack専業ながらコンサルティングとシステムのインテグレーションまで出掛けるMirantisだが、そうなっていったルーツはどこにあるのか?その辺りを聞いてみた。

Craig Peters氏(Director of Product Management)

--では自己紹介をお願いします。

私はProduct ManagementのDirectorとして製品開発に近い立場ですね。Kameshがマーケティングとすると私の役割はもっとエンジニアリングに近いということです。経歴ということでは色々なことをしてきましたが、EMCで長いことエンジニアリングの仕事をしてきました。その後、Yahoo!に行ってWebベースのシステムの開発、特に社内向けのHadoopシステムの開発を経験しました。その後、Stravaというサイクリングのためのスマートフォンアプリのベンチャーでエンジニアリングの仕事を行いました。ここでは短いサイクルでアプリを改善してデプロイする今の流行りの継続的インテグレーションを実際にやっていましたね。その後、HGSTで社内のクラウドを構築する時にMirantisのお客としてシステム構築を行っていました。その時にHGSTをクラウドネイティブな会社にするには相当時間がかかる、でもMirantisならそもそもクラウドネイティブなソリューションを売っている、ということに気づいて上司と一緒に転職をした、ということですね(笑)。

--多様な経験をお持ちですね。さて今回、色々な方に話を聞いてMiraitisはパッケージソフトウェアの会社ではないというのがよくわかりました。でもそれはなかなかスケールしないビジネスのように思えます。その辺りはどうお考えですか?

そもそもの経緯をわかって頂けると嬉しいのですが、Mirantisは最初からOpenStack専業だったわけではありません。当初はカスタムメイドのソフトウェアを開発して提供する会社だったのです。それがたった2年前にOpenStack一本で行こうと決めて方向を転換したのです。ですので、今でも会社のどこかに「お客様が欲しいものが無ければ作ればいい」という発想もあります。なので我々もMirantisのOpenStackのディストリビューションが広く使われるように会社の意識や体質を変えなければいけないと思っています。なのでそのための長いジャーニーの途中である、といえるんじゃないですかね。売上をあげて利益率をあげる、そのためにはサービス中心の会社からサブスクリプション中心の会社に変化していこうとしています。サブスクリプションのベースとなる製品に関して顧客の声を聞いてエンジニアリングに届けるというのが私の役目です。

実際にボリスのキーノートを入ればわかると思いますが、今のビジネスの現場でテクノロジーそのものがハードルになってビジネスの改革が進まないというのは少ないのです。実際には90%が既存の組織構造や業務プロセスそのものが改革を阻むハードルなんですね。ですので、実はこれはMirantisでも同じことが言えるわけで過去のやり方に囚われていては我々自身の改革ができない、ということになりますよね。なので我々も色々とチャレンジしながらサービス中心のビジネスからプロダクト中心のビジネスに移行しようとしている、ということになります。

初日のキーノートに登壇したBoris Renski氏

ただ我々はプロダクトをパッケージと言う言い方はしません。我々にとってプロダクトとはすなわちパッケージソフトウェアではない、ということです。ここは重要なポイントだと思います。プロダクトとは顧客の問題を解決する一つの方法である、と思っています。

--ところで日本法人の下平さんからMirantisでの仕事の進め方について、Mirantisでは全てがJIRAのチケットを切るところから始まる、と伺いました。営業のための見積もり作成も顧客訪問も全てがJIRAのプロジェクトの中でチケットを発行してそれをベースに仕事を進めると。これはMirantisの方法論なんですか?

実際にその通りです。これは笑い話ですが、まだ会社に入って間がない頃に会社で使っていたイヤフォンがデスクの上から無くなってしまったことがありました。誰かがちょっと借りただけなのかもしれません。まぁ、大したことはないんでですが、ヘルプデスクに行って「イヤフォンが無くなったんだけど」と報告をしたら、これからはそういうのも全部JIRAでチケットを切ってくれと言われたんです。最初は、ちょっとびっくりしましたが、これはMirantisが会社の中で行われていることを全て可視化する、数値化するための努力の一つだったんです。すべての活動がひとつのツールの中で可視化されることで仕事の改善もやりやすくなりますし、分析にも使えるわけです。そういう意味でMirantisは自分自身を分析してどこを直せば良くなるのか、常に考えているという証拠でしょうね。

これらのエピソードから判るように、いわゆるパッケージソフトウェアのベンダー、OpenStackディストリビューションを作っている会社という見方でMirantisをみるとだいぶ勘違いしそうである。ただし、この方法論がすぐに全世界で実行可能かと言われると難しいと言わざるをえない。今の北米での案件にすらヨーロッパに展開するエンジニアリングチームと協働で行っているようにやはりかなりの人的リソースがかかる方法論だからだ。ビジネスの一つの柱でもあるトレーニングについても常に進化するソフトウェアを追従する必要があるし、日本語化に関しても重要性は重々承知しているという。Peters氏はEMC時代に日本市場に対する日本語化の必要性を痛いほど思い知ったと語った。日本で同じことをするには、トップセールスをやり切るスタッフとアーキテクチャーを含めたコンサルティング能力が必要になるだろう。それは容易には手に入らないはずだ。

北米とヨーロッパにおいて若い力と経験豊富なベテランがタッグを組んで自社を改革しつつ、全力で目標に向かって突き進んでいるMirantis。このエネルギーとクラウドネイティブなデータセンターを顧客に提供することで顧客のビジネス革新を目指すという明確なゴールがMirantisの強さだろう。このままのスキームで日本市場にも旋風を巻き起こせるか、要注目だ。

派手な造りのMirantisブース
著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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