OpenStackの最後の大物、日本に登場
OpenStackへの貢献を可視化できるサイトとして有名なStackalytics.comはOpenStackの各リリースに対して企業や個人がコミットやレビューなどの貢献を行っているのかを知るためのツールとして非常に役に立っている。その中に日本ではあまり知られていない企業名があることにOpenStackを追いかけている業界の人間であればお気づきだろう。
それはMirantisというOpenStackを専業にしている新興の企業で最新のKiloリリースではReview数をMetricsにするとHP、Red Hatに次いで3番目に大きい貢献をしていることになる。そのMirantisがOpenStack Days Tokyo2015で初めて講演を行った。今回はMirantisの講演と東京エレクトロンが代理店として販売を行うPiston OpenStackに関して紹介しよう。
今回、登壇したのはCo-FounderでCMOであるBoris Renski氏。まずはMirantisの名前の由来を冗談交じりに紹介しつつ、MirantisはOpenStackの専業であることを「Live and Die with OpenStack」と語り、本気度を見せつけた。更に企業のマントラとして「顧客が勝ち組になれる力を与える」ことがゴールであると説明した。
その中でOpenStackとは「Webサービスを構築するベストなプラットフォーム」であり、「仮想マシン管理ツール」でも「OralceやSAPなどのパッケージソフトウェアのためのプラットフォーム」でもなく、更に「PaaSでは全くない」と説明し、Web時代のアプリケーションを稼働させるためのプラットフォーム」であることを強調した。OpenStackがPaaSではないことは自明ではあるが、IaaSであるOpenStackとPaaSであるCloud Foundryを統合させたHPの戦略とはかなり異なる印象だ。単に顧客のニーズに従ってOpenStackを導入するだけではなくMirantisとしての経験を活かしたコンサルティングを通じてOpenStackを導入するという姿勢が明らかになった。単なるディストリビューションを作っているベンダーとは訳が違うということだろう。
更にMirantisの顧客事例としてシマンテック、ウェルズファーゴ、エクスペディアを挙げ、如何に米国の大企業に新興企業であるMirantisが食い込んでいるのかを紹介し、専業としての強みを強調した形になった。
OpenStackが様々なモジュールで構成されていることはOpenStackの基本だが、それをモジュールの依存関係や性能、可用性の観点からどの物理サーバーに配置するかというのはPoC(Proof of Concept、実証実験)レベルでは問題にはならないが、本番の環境でそれを検討するのは常に頭痛の種であるという。それに対してMirantisはFuelというインストール及び管理のためのツールを開発している。これがエクスペディアがMirantisのOpenStackを選択した理由であるとRenski氏は語る。
最後に今回設立した日本法人、ミランティス・ジャパン合同会社の代表、下平 中氏が登壇し、日本市場への意気込みを語り、セッションは終了した。
今回、Mirantis以外にもPistonのOpenStackディストリビューション、Piston OpenStackを日本の代理店である東京エレクトロンデバイス株式会社の春日井敦詞氏が紹介したセッションは、別の意味で興味深いものであった。
Piston OpenStackの開発元は正式には「Piston Cloud Computing」と言うサンフランシスコのベンチャー企業。元NASAと元RackSpaceの従業員が2011年に立ち上げたOpenStackの専業ベンダーでMirantisよりも少しだけ若い会社だ。Pistonが作っているPiston OpenStackはインストールが難しいという問題を今回の東京エレクトロンデバイスの春日井氏のデモでは、USBメモリ―からコマンド一つでインストールを行うというデモをビデオチャットを通して、実際のサーバールームに待機したエンジニアと会話を行いながら行うというもので、如何にPiston OpenStackが簡単に導入できるのか?を実証したものであった。
Piston OpenStackはある意味抽象化されたOpenStackのパッケージでシステム管理者にとってはどのリリースなのかすら明らかにされず、またチューニングなども出来ないのだと言う。あくまでも複雑な構成管理の労力を減らして、OpenStackによるプライベートクラウドを構築するという「OpenStackアプライアンス」とでも言っても過言でない製品になっている。これも一つの考え方であろう。
Piston OpenStackやMirantis Fuel、更にDELLとSUSEが提唱するCROWBAR、Canonicalが推すJujuなどこれからもOpenStackの複雑さをカバーする領域のイノベーションが続くことだろう。OpenStack導入を検討しているインフラ管理者は要注目のポイントであろう。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- OpenStackの市場動向と商用ディストリビューションの登場
- Mirantisの強さはクリアなゴールと成長を支えるエネルギー
- OpenStackディストリビューションの比較検証と最新技術トレンド
- IaaSからPaaS連携に目を移したHPのOpenStack戦略
- ジュニパーネットワークスとミランティス、大規模OpenStackクラウドを構築するため、 SDNソリューションにおける提携を拡大
- OpenStackに特化した米ミランティスが日本法人を設立
- Mirantisのレンスキー氏「来年初頭には日本での拡大戦略を発表」と語る
- OpenStack Summit Austin 2016 真の勝者はユーザーだ
- OpenStack Days Tokyo 2015、キーノートから見える今後の行く先
- OpenStack専業のMirantis、日本法人代表を発表