連載 [第3回] :
  Zabbix Summit 2024レポート

Zabbix Summit 2024、CEOのAlexei Vladishev氏にインタビュー

2025年1月20日(月)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Zabbix Summit 2024の会場で、CEOのAlexei Vladishev氏にインタビューを実施し、Zabbix CloudやWeb Monitoring、そしてZabbixの未来について語ってもらった。

Zabbix Summit 2024からZabbixの創業者でCEOのAlexei Vladishev氏のインタビューを紹介する。

インタビュー後に持ち込んだ日本からのお土産を吟味するVladishev氏

インタビュー後に持ち込んだ日本からのお土産を吟味するVladishev氏

今回は例年にない大きなプロダクトZabbix Cloudのアナウンスがありました。Zabbix CloudはZabbixが管理するモニタリングのためのクラウドサービスとして提供されますが、価格がUSドルであること、アジアにはシンガポールしかリージョンの設定がないことなど日本のエンドユーザー、パートナーにとってはまだ日本のビジネスにはアジャストしていないという状況だと思います。AWSが日本にやってきた時もかなり苦労して日本の商習慣や企業の要求仕様に合わせるために時間が必要だったと思います。それについては?

Vladishev:日本のエンドユーザーやパートナーが必要と思う仕様については十分に理解しています。ただ、Zabbix Cloudを5年前に発表した時からかなり時間も経っていますし、顧客の期待に応えるためにもこの時期に製品として発表することを選びました。

円ベースの価格や長期の契約でのディスカウント、そして日本でのリージョンなどが具体的な日本向けの仕様として挙げられると思いますが、それらについても了解しているということですか?

Vladishev:そうです。日本の商習慣にあったクラウドサービスというものを提供したいとは思いますが、まずは製品を使える状態で提供することを選択したわけです。必要な機能をすべて用意してから発表するというのがZabbixのやり方でしたが、今回はそれを変えたのです。

クラウドサービスとして提供する際の細かな話になりますが、FIDO Allianceが推奨するパスキー認証については今回のZabbix Cloudでは含まれていません。相変わらずユーザーネームとパスワードですよね。Googleなどのサービスはユーザーの利便性とセキュリティを担保する観点からパスキーに移行し始めていますが、それについては?

Vladishev:パスワードを使わない認証の必要性についても理解しています。今回はその機能を入れることはできませんでしたが、Zabbixにおいてもそれは必要だと考えています。先ほども説明しましたが、すべての機能を開発してからプロダクトをリリースするという方法を変えたということです。

もう一つの大きな機能であるWeb Monitoringについても質問があります。Web Monitoringは言ってみればWebサイトをスクレイピングする発想ですよね? 必要なデータ、例えばユーザーネームとパスワードを入れてその結果をモニタリングするという説明がありました。スクレイピングは数年前であればありがたがられたかもしれませんが、実際にデータを獲得するにはWebサイトの構造に大きく影響を受けますよね? ECサイトであればそのサイトをデザインしている部門はシステムの運用管理部門とは別でしょうし、モニタリングがWebサイトのスクレイピングをやっているのであれば、変更には調整が必要になると思います。他のAPMベンダーがやっているようなエージェントを使うという選択肢はなかったんでしょうか? Webサイトのモニタリングであれば従来のZabbixの機能だけで可能ですよね?

Vladishev:Web MonitoringについてはWebサイトの死活管理的な発想よりも多くの情報を得るための機能です。なので単にWebサーバーのモニタリングよりもよりアプリケーションに近い部分のモニタリングを提供しようとしている訳です。Webサイトのスクリーンショットを取る機能を追加したのはその発想からです。単にサーバーのモニタリング機能であればこのサミットに来ている人はほぼ全員が知っていると思いますので、その部分は省きましたが、その部分についてもちゃんと説明したほうが良かったかもしれませんね。次回以降の参考にしますよ。

さらに細かい話で恐縮ですが、Proxyのロードバランシングの機能について、複数のProxyが実装されている時に一つが停止するとそのProxyがモニタリングしていたオブジェクトのモニタリングを他のProxyが補うという機能だと思いますが、これはアメリカのベンダーなら「機械学習でやっています!」と宣伝しそうな機能ですが、そうではないのですか?

Vladishev:Proxyのロードバランシングにはちゃんとしたアルゴリズムを開発して実装しています。機械学習でもAIでもありません。我々はアメリカの企業ではなくヨーロッパの企業なので。ヨーロッパの企業であれば先に宣伝してあとから実装するなんていうことは起こらないと思います。ProxyのロードバランシングではProxyとモニタリングするオブジェクトをなるべく変えない、他のサーバーに移動しないというスティッキーネスが必要だと考えていますので、ロードバランシングのためにProxyを他のサーバーに簡単に移動するということは起こらないようなアルゴリズムになっています。

では最後の質問です。これから5年後にZabbixのプロダクトはどうなっていくんでしょうか? いつもZabbixはユーザーから出された細かな機能追加についてちゃんと約束した通りに実装していくという姿勢ですが、もう少し長い視野でプロダクトロードマップを聞きたいのです。

Vladishev:我々はいつもユーザーの期待に応えるために開発を行っています。なのでユーザーからのリクエストには実直に機能を実装することで応えています。5年後については具体的には答えられませんが、今より多くのプロダクトがリリースされていると思いますね。今のZabbixというプロダクトよりも多くのプロダクトが開発され、リリースされているはずです。それ以上のことは言えません。

アメリカの企業ではないから?

Vladishev:そうです(笑)。

会場の片隅でサミットに参加したパートナー企業の人とチェスをするVladishev氏

会場の片隅でサミットに参加したパートナー企業の人とチェスをするVladishev氏

インタビューするたびにそのまじめな性格や口調からアメリカのITベンダーとは大きく異なる印象を受けるZabbixのCEOのAlexei Vladishev氏。大きなプロダクトラウンチとなったZabbix Cloudについては「日本で必要と思われる部分が欠けているというあなたが言いたいことはわかるし、認証などの必要な機能も検討もしている、だが何よりも今回はプロダクトとしてリリースする方法を選んだ」と何度も答えてくれた。こういうまじめな姿勢がユーザーとパートナー、そして何よりもZabbixを使う多くのエンジニアの信頼を得ている部分だろう。日本に合ったプロダクトとしてZabbix Cloudが成長していくのを注視したいと思う。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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