ストレージ仮想化装置によるフェデレーション
VPLEXが備えるストレージ・フェデレーション機能の特徴
ここまでは、ストレージ・フェデレーションの概要と、ストレージ・フェデレーションが登場した背景について、一般論を解説してきた。以降は、ストレージ・フェデレーションの仕組みを提供する具体的な製品の例として、EMCのVPLEXが備える機能を解説する。
VPLEXは、複数のストレージを束ねて、論理的に1台のストレージとして使えるようにする、ストレージ仮想化装置である。ストレージ・リソースを仮想化して、共通プール化する。SAN(Fibre Channel)で接続した構内のストレージだけでなく、遠距離のデータ・センターにまたがったストレージも共通プール化できる(図3)。
VPLEXの特徴の1つは、配下のストレージ間でアクセス負荷を分散したり、冗長化によって可用性を高めたり、ストレージ間でデータを移動させたりできる点である。さらに、ストレージが持つ各種の機能(第2回で解説した「FAST」など)を損なうことなく、そのまま利用できる。
図3: ストレージ仮想化装置「VPLEX」の特長。透過的なデータ移行と負荷分散 |
ストレージ・フェデレーションとVPLEXの優位性
ストレージ製品がストレージ・フェデレーションの機構を備えることの一般的なメリット、および、実際にフェデレーション機構を備えたストレージ製品の1つであるVPLEXのメリットは、以下の通りである。
- サーバーのCPUリソースを消費しない
- ストレージの性能に与える影響が少ない
- 仮想サーバーの移動時間やデータの移動時間が短い
では、実際問題として、ストレージ・フェデレーション機構を備えたストレージを利用した場合と、ソフトウエア側で提供するストレージ連携機能のみを利用した場合で、どのくらい性能が異なるのか。この疑問に答えるため、EMCでは、ストレージ製品であるVPLEXと、ソフトウエアであるStorage VMotionの性能を比較する実証実験を実施した。
実験の前提となるシナリオは、「距離が離れたデータ・センター間で、仮想サーバーとデータを同時に移動する」というもの。具体的な実験の内容は、「それぞれ26Gバイトのデータを持つ26個の仮想サーバーを、41キロ・メートル離れた場所へオンラインのまま移動させ、かかった時間を計測する」、というものである。
この実証実験の結果(遠隔地に仮想環境のデータを移行するのにかかった時間)は、以下の通りである。
- 「Storage VMotion + VMotion」は、2.6時間
- 「VPLEX Metro*2初期同期 + VMotion」は、42分
- 「VPLEX Metro*2事前同期済みアクティブ・アクティブ構成 + VMotion」は、9分
*2: VPLEXは各サイトごとに1台で、サイト間で分散クラスタ構成をとる。
図4: データ・センター間の移動時間の比較(VMwareミドルとVPLEXの比較) |
図4の左に示したグラフは、VMotion実施中(データ移動中)の応答時間の推移を示している。青色の線が「Storage VMotion + VMotion」の応答時間、赤色の線が「VPLEX + VMotion」の応答時間である。VPLEXを使うことで、レスポンス性能で約3.6倍高速になり、移動完了までの時間は2.6時間から9分へと17倍短くなった。
移動完了までの時間が短くなる理由は、いくつかある。第1の理由は、ストレージとソフトウエアというアーキテクチャの違いである。ソフトウエアであるStorage VMotionとは異なり、VPLEXはサーバー機のCPUリソースを消費しない。第2の理由は、VPLEXに固有の、キャッシュ制御技術の効果である。キャッシュ制御によって、ストレージ間でのオンライン・コピー時に問題となるネットワーク遅延の問題の多くを回避する。
なお、VPLEXが備えるキャッシュ制御技術を「分散キャッシュ連携技術」と呼ぶ。同機能は、複数のVPLEX同士を、それぞれが備えるデータ・キャッシュを用いて連携させる機能である。遠隔サイト同士など複数のVPLEXにまたがるストレージ群を共有プール化しつつ、不必要なネットワーク通信を抑制する。これにより、距離が離れたストレージ間でありながら、レスポンス遅延を少なく、データの一貫性を保持したまま、データを移動できるようになる。