DellEMCのソフトウェアデファインドストレージのチームが来日、SDSの強化を解説
2016年9月に合併が終了したDellとEMCは、Dell Technologiesという持株会社の下に両社が存在しており、EMCが持っていたストレージ製品は、DellEMCのブランドの下で開発と販売が行われている。日本ではEMCジャパン株式会社として存続しているが、すでにDell側との営業部隊の統合なども進んでいるという。
元々EMCはストレージの老舗として長い歴史を持ち、その豊富な製品群は買収によってポートフォリオを充実させてきたものである。一方のDellもサーバーからストレージまでエンタープライズ向けの製品をラインアップしており、合併を期に製品も整理されつつあるという。その中で、EMC側のソフトウェアデファインドストレージ(Software-Defined Storage、以下SDS)製品の担当チームが来日し、日本でのSDS製品の本格的な展開にあたり、プレス向けブリーフィングを開催した。
今回、来日したのは、SDSのプリセールス担当Director、Roshan Pradeep Kumar氏、SDS担当のSE、Jonathan Asvestis氏、金融業界担当のSE、Cynthia L Passero氏、ScaleIO担当のSE、Joel Sprouse氏、ECS担当のSenior Director、Chris Arangio氏。それぞれシンガポール、香港、ニューヨーク、アトランタ、サンタクララという拠点から集まったSDSのエキスパート達だ。そして日本からは、SDS事業の担当ディレクター、林孝浩氏が参加した。
DellEMCとしてのSDSの製品の概要と位置付けなどを教えてください。
Kumar氏:まず前提として知っておいていただきたいのは、DellEMCの中には2つの部門があるということです。一つはCore Technology Division(以下、CTD)、これはVMAXやVNX、Unityなどの製品を担当しています。そしてもう一つがEmerging Technology Division(以下、ETD)、こちらにはSDS製品であるScaleIOやECS、Isilonなどが入っています。
CTDはミッションクリティカルなシステムとして従来型のワークロードを担う製品を、そしてETDのほうはWebスケールなよりモダンなワークロードを担う製品を作っています。もっと言えば、ETDの製品は将来的にCTDの製品を置き換える、破壊(Disrupt)するイノベーティブな製品であるということです。イノベーションが我々の製品を破壊するのであれば、その前に我々自身で破壊するような製品を作ろう、ということです。
その代表的な製品が、今回お話するSDSになります。ScaleIOはブロックストレージ、ECSはオブジェクトストレージです。ではScaleIOとECSについて、それぞれのエキスパートに説明を行ってもらいます。
Sprouse氏:ScaleIOについて説明します。ScaleIOは100%ブロックストレージです。これはx86サーバーで動くアプリケーションであり、ハイパーバイザーでもなければ特別なOSでもありません。サーバーのCPUの10%を使ってストレージのクラスターを作ります。コンピュートノードとストレージノードを分けて通常のストレージアレイとして使うこともできますし、ハイパーコンバージドインフラストラクチャーのように、一つのサーバーにコンピュートノードとストレージノードを共存させることもできます。
主なコンポーネントにはSDS、SDCの2種類があります。SDSはScaleIO Data Server、これはサーバーにインストールすることで、そのサーバーが持つストレージを分散型のストレージとして共有させられます。もう一方のSDCはScaleIO Data Client、これはクライアントとして機能するノードがScaleIOのストレージを使う際に必要になります。このようにScaleIOはモジュラー型のストレージであり、サイズが欲しかったら大量のHDDを搭載したサーバーをSDSとして追加すれば拡張できます。またコンピュートノードがもっと欲しいのであれば、サーバーを追加してSDCをインストールすれば良いわけです。
主な競合としては、SimpliVityやNutanix、IBMのSpectrumなどが挙げられますが、ScaleIOとまったく同じ機能を持った製品は存在しないと言えるほど、ScaleIOはユニークです。今、競合として挙げた製品はいずれもアプライアンスとして提供されており、データセンターの中ではまたストレージのサイロを作ってしまうことになります。一方ScaleIOはルーティングの機能も持っていますので、データセンターの中でバラバラに配置されていても一つのストレージとして使うことができます。最小3台のサーバーからスタートして、数千台と言うレベルの構成まで可能です。
オープンソースのCephなどと同じように、コモディティのサーバーを使った分散ストレージだと思えばいいんですか?
Sprouse氏:分散ストレージという意味では同じですが、Cephは基本的にはオブジェクトストレージです。それをブロックストレージやファイルストレージとして使っていますので、どうしてもオーバーヘッドが出てしまいます。またCephは、サーバーに対する負荷も相当大きいのが特徴です。
ScaleIOが使われるユースケースとしては何が一番多いのですか?
Sprouse氏:クラウドネイティブなアプリケーションプラットフォームにおいて使われることが最も多いですね。具体的にはVMwareのvSphere環境のストレージ、それとOpenStackのストレージとして使われています。OpenStackのLibertyリリースからは、Cinderのドライバーがデフォルトで提供されていますので、ScaleIOをOpenStackのブロックストレージとして利用することは多くのユースケースがあります。
しかしOpenStackのストレージとして一番多く利用されているのはCephですよね?
Sprouse氏:それは確かにその通りです。しかしCephは、ScaleIOと比べると多くのサーバーリソースを用意する必要があります。
現在、ScaleIOに足らない部分は何ですか?
Sprouse氏:2つだけまだ実装されていない機能があります。一つはレプリケーション、もう一つはストレージエフィシェンシー、ストレージを効率良く使うための機能です。ですが、これらの機能も近い将来実装される予定ですので、そうなれば他のストレージ製品と機能的にはイーブンになるはずです。
であればDisaster Recoveryサイトに複製する際には他の製品を使うことになるのですか?
Sprouse氏:その通りです。例えばDellEMCのRecoverPoint、もしくはOracleであればGoldenGateなどのアプリケーションレベルのレプリケーション機能を使うことになります。
では次にECSについて解説してください。
Arangio氏:ECS(Elastic Cloud Storage)はオブジェクトストレージです。元々オブジェクトストレージは、15年ほど前には企業のデータの監査やコンプライアンスのためのデータストアであり、当時の製品は第1世代に相当します。EMCは当時Centeraという製品を持っていました。
次の第2世代は2006年、これはAWSがS3というオブジェクトストレージを発表した時と言えます。それ以降、オブジェクトストレージはAWSのS3とAPI互換であることが業界標準になりました。EMCではAtmosというオブジェクトストレージがこの第2世代に当たります。当時、オブジェクトストレージの多くはサイズの大きいイメージデータや動画のデータを格納するために開発され、未だにそこから進化をしていないというのが我々の認識です。
それに対して、2012年に発表されたECSはオブジェクトストレージの第3世代と言えるほどの進化を遂げています。それは時代の要請として新たなユースケースが求められており、それに対応しているからです。昨今、オブジェクトストレージに格納されるのは大きなサイズのデータだけではなく、IoTデバイスから出てくるセンサーデータやサイズの小さなテキストファイルなどにも対応しなければいけません。それに対応するため、他社製品のように後からイレイジャーコーディングを追加するのではなく、最初からイレイジャーコーディングをベースにしたデータの分散機能を搭載しています。
イレイジャーコーディングはサイズの小さなパケットには効率的ではないことから、ECSでは128MBというチャンクに効率良く小さなファイルの断片を格納して、それをイレイジャーコーディングによって12分割し、パリティのデータ4つを加えた16の断片としてネットワーク上のストレージに分散させます。ECSは一つのデータセンター内だけではなく、複数のサイトに分散したオブジェクトストレージを構築することができるのです。
実際にECSを使っているユースケースはどのようなものですか?
Arangio氏:アメリカのサービスプロバイダーで、4つのサイトがそれぞれ170ノードを保有しています。ストレージのサイズは100PB程度になります。これはモバイルデバイスのバックアップサービス、写真共有サービスなどを統合しています。
ECSの競合は?
Arangio氏:ScalityとIBMが買収したCleversafe、それにSwiftですね。しかしそれらの製品は第2世代のオブジェクトストレージにイレイジャーコーディングを追加したもので、ECSとは比較にならないと思います。オブジェクトストレージは単に大きなサイズのコンテンツを入れるものではなく、IoTや分析などのユースケースに使われるようになっており、そのためにはECSのほうが優れていると思います。
ETDの製品であるIsilonとはどう違うのですか?
Arangio氏:Isilonはスケールアウト型のNASであり、WindowsやLinuxにも対応したファイルストレージです。イレイジャーコーディングもファイル単位で行いますので、先ほどの小さいサイズのパケットには効率が悪いという特性を持っていますが、主に使われている動画などのファイルサーバーには適しています。一方ECSはNFSだけでHTTPでアクセスするオブジェクトストレージですので、ユースケースが違うと思います。
Dellの製品との棲み分けは?
林氏:DellEMCはポートフォリオカンパニーですので、そのデータの特性にあった正しい製品を使うということに尽きます。実際に日本のデルとEMCの統合において当初は若干の混乱もありましたが、営業部門も一緒に動いていますし、その辺はだいぶ整理されてきています。
ScaleIOとECSの値段の考え方はどういうものですか?
Kumar氏:これはライセンスとして購入していただく製品になりますが、使われるストレージのサイズに応じて価格が決まります。それをアップフロントに支払っていただくこともできますし、使う分だけを申告していただいてサブスクリプションモデルで支払うというものも可能です。サービスプロバイダーなどはサブスクリプションモデルを選ぶことが多いですね。また提供形態も、ソフトウェアオンリーでも可能ですし、アプライアンスとして購入していただくことも可能です。
サポートもその価格には含まれていますよね?
Kumar氏:その通りです。よくオープンソースソフトウェアによるSDSを検討している顧客から聞く意見ですが、オープンソースソフトウェアの場合、何か障害が起きた場合にサポート窓口がない、最悪の場合、自分で解決しなければいけないということに懸念を示す人が多いのです。その点は、DellEMCがサポートを行うSDSであるScaleIOとECSには重要です。
将来的にScaleIOとECSを統合する計画はありますか?
Kumar氏:ブロックストレージとオブジェクトストレージは、まったく別のユースケースであり続けるだろうと思います。良い例がAWSです。未だにAWSの大部分のユースケースはEC2、S3それにEBS(Elastic Block Store)が占めていると思います。それはつまりオブジェクトストレージとブロックストレージ、それにコンピュートがクラウドにおいても主要な必要要件である証拠と言えるでしょう。唯一、一つのストレージでブロックとしてもオブジェクトとしても使えるのはCephですが、Cephは我々の製品とはデザインのポイントが違います。ブロックストレージとして使う場合は、ScaleIOほどの性能を出すことができませんし、オブジェクトストレージとして使う場合もECSと比較できるような信頼性、対故障性は達成できません。ブロックストレージに対するトランザクショナルなアクセスと、オブジェクトストレージに対するセマンティックでトランザクショナルではないアクセスというものは、今後も必要とされると思いますし、2つの製品が一つになることはないと思います。
今回は、統合されたDellEMCとしてエンタープライズ向けのブロックストレージ及びオブジェクトストレージのSDS製品、ScaleIOとECSを紹介したわけだが、実際により詳細な新機能などは5月にラスベガスで開催されるDellEMC World 2017でお披露目ということになるだろう。VMAXやUnity、XtremIOなどのハードウェア製品が目立つDellEMCだが、オープンソースソフトウェアプロジェクトである「{Code} by Dell EMC(旧称:EMC Code)」も含めて、ソフトウェアで自身のビジネスを破壊するまでイノベーションできるのか、引き続き注目したい。
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