アジャイル・ブームの再来
アジャイル・ブームの再燃
「試行錯誤の時代」を経て、2000年代の後半、アジャイルは再び着目されるようになりました。現在は、「Agile 2.0」や 「2週目の世界」と呼ばれます。この背景には、さまざまな要因が考えられます。
今回は、そのいくつかの要因のうち、3点を挙げます。1点目は、コミュニティ活動や情報共有サービスの発展です。2点目は、アジャイルのプラクティスを実践/サポートするツールの一般化と充実です。3点目は、アジャイル適応プロジェクトの多様化です。
1.コミュニティ活動や情報共有サービスの発展
「試行錯誤の時代」には、XPJUG以外にも、アジャイルに関するコミュニティが立ち上がりました。首都圏を中心としていたイベントも、地域性を富んで開催されるようになりました。さらに、アジャイルに限定しない開発者向けのイベントでも、アジャイルが取り上げられるようになりました。こうして、これまでアジャイルに興味を持たなかった人がアジャイルに触れる機会が多くなりました。
アジャイルを取り上げたイベントの開催後には、参加レポートがブログを通して報告されるようになりました。こうして、イベントに参加していない人も、イベントの情報を得られるようになりました。最近ではTwitterなどの簡易コミュニケーション・サービスや、UstreamやSlideShareなどの動画配信/資料共有サービスも登場しており、コミュニティ活動はオンライン上でも盛り上がっています。
このようなコミュニティ活動の発展は、情報共有サービスの誕生とともに、アジャイルをより身近にしたと言えるでしょう。
2. アジャイルのプラクティスを実践/サポートするツールの一般化と充実
例えば、以下に示すようなツールを利用できます。
- TracやRedmineに代表される、課題管理システム
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- イテレーション計画や、イテレーション中の課題やバグ、タスクの管理を実現する
- HudsonやCruiseControlなどの、継続的インテグレーション・ツール
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- 継続的インテグレーション(システムを1日に何回も結合するが、いつでもビルドは壊れずテストはパスする、という状態を保つプラクティス)を支援する
- コードの共同所有(コードはチームで所有し、問題を見つけたらいつでも修正するプラクティス)を支援する
- SubversionやGitなどの、バージョン管理システム
これらに関する情報は、Webサイトや書籍から得ることができますが、「コミュニティ活動や情報共有サービスの発展」でも触れたように、イベントや勉強会を通して、これらのツールの利用方法を学ぶことができます。イベントなどで得た知見を現場で活用することで、最終的にはチームや組織にもツールやノウハウが広がります。
このように、ツールが一般化することは、アジャイルを実践するうえでの敷居を大きく下げると考えられます。
3. アジャイル適応プロジェクトの多様化
海外でブームとなっているアジャイル手法の1つに「Scrum」があります。最近では、ScrumとXPのプラクティスを組み合わせた手法が、大規模プロジェクトや遠隔地との分散開発など、これまでアジャイルでは苦手とされていた分野で使われるようになってきています。実際、多くの成功事例を聞くようになりました。
ここでは詳しくは述べませんが、大規模プロジェクトや分散環境での成功例は、それが故にアジャイルでの取り組みを断念していた企業やプロジェクトに対しても、大きく影響を与えたことと思います。
このように、XPの導入直後に先人たちが実践していたアジャイルは、まずは開発現場に広がり、次に組織に広がり、今では業界全体に広がろうとしています。こうした現在の状況を「アジャイルブームの再燃」と呼んでも、過言ではないでしょう。
図3: 日本でのアジャイルの流れ |
10年代への突入
2010年現在、時代背景は、経済的にも厳しい状況にあります。この"10年代"に私たちは「第2の試行錯誤の時代」を迎えるのではないかと思います。
前述した、ユーザー・サイドにおけるアジャイルの認知や意識の高まりを背景に、開発者とユーザーがともにアジャイルを実践してモノ作りをする状態へと導けるかどうかは、まさにこの10年代にかかっているのではないでしょうか。
アジャイルでは「フィードバックをもとに次につなげる」ことを繰り返すことが大切です。次回からの3回の連載では、筆者が経験した3件のプロジェクトの事例を通し、筆者が学んだことを皆さんにフィードバックしたいと思っています。ともに、10年代のアジャイルな開発を目指しましょう。