UMLスケッチから始めよう

2010年9月28日(火)
近藤 寛喜

3. 分散開発におけるUMLスケッチ

筆者が所属するチェンジビジョンでは、ペア・プログラミングの最中、ペア・ボードと呼ぶA3サイズのホワイト・ボードに、UMLスケッチを描きます。

しかし、筆者が現在参加しているプロジェクトは、福井と東京にまたがって分散開発を行っているため、物理的にペア・ボードが使えません。そこで、分散開発においてもUMLスケッチを共有できるように、いくつかのツールを導入しました。

分散開発の環境にUMLスケッチを導入したことは、結果として、同一拠点でUMLスケッチを導入すること以上の効果を生みました。

なぜなら、分散開発の環境では、開発者間で受け渡しできる情報量が限られるからです。仕様書を正しく理解できているのか、画面の向こう側で話されている内容を正しく理解できているのか、不安になることもあるからです。

こうした場面では、仕様書を読んで理解した内容からUMLスケッチを描いたり、話を聞きながら解釈したことからUMLスケッチを描いたりすることが有効です。描いたUMLスケッチを相手に見せて説明することで、お互いが間違った解釈をしていないかを確認できます。

筆者が参加する分散開発のプロジェクトでは、具体的に下記のツールを活用しています。

  • Skype(音声通話、開発会社はルクセンブルクのSkype Technologies)
  • Mikogo(デスクトップ共有ツール、開発会社はドイツのBeamYourScreen)
  • astah* professional(モデリング・ツール、開発会社はチェンジビジョン)

特に、Mikogoは有益です。Mikogoを使って画面を共有すると、リモート側から画面の場所を指し示すことができます。この機能を利用すれば、「この部分は、もっとこうした方がいい」とか「この部分がよく分からない」など、指摘することができます。また、画面を公開しているユーザーが、画面を共有しているユーザーに、操作を委譲できます。

astah*は、解釈モデルを描く際に使います。打ち合わせの最中、解釈に相違がありそうであれば、astah*を用いて解釈モデルを描き、どこが異なるのかを議論します。口頭で解釈がうまく伝わらない場合は、画面を公開しているユーザーから、解釈を伝えたいユーザーへ、操作を委譲します。こうすることで、解釈を伝えたいユーザーが、解釈モデルを編集できるようになり、より意図を共有しやすくなります。

図3: 分散開発でのUMLスケッチ(Skypeで話しながら矢印で論点を指している)(クリックで拡大)

4. 最後に

本連載は、4回にわたって、UMLの導入に敷居の高さを感じている方を対象に、手軽で有効なUMLモデルの利用方法を解説してきました。筆者たちが手軽なUMLモデルについて解説してきたのは、UMLモデルが意外と使えることを、できるだけ多くの方々に知って欲しいからです。

もちろん、厳密な設計情報を表すためのUMLモデルや、ソース・コードを自動生成するためのUMLモデルは、正しいUML表記を用いて厳密なモデリングを行う必要があります。

しかし、人と人とのコミュニケーションなどにUMLモデルを活用する場合は、厳密であることよりも、意図を伝えられることが何よりも求められます。

膨大なUML仕様やモデリング・テクニックの難しさにひるむことなく、まずは使えるところからUMLモデルを使ってみてはいかがでしょうか。本連載で紹介できなかった「最小限の知識で大きな効果を上げるUMLモデルの利用方法」が、まだまだたくさんあります。ぜひ、みなさん自身で、有効な利用方法を見つけてください。

本連載が、読者にとって、UMLモデルを使い始めるきっかけになれば幸いです。

株式会社チェンジビジョン

株式会社チェンジビジョンにて製品開発を行うかたわら、Eclipseプラグイン開発など、オープンソース活動に従事。OSGiなどアプリケーションのモジュール化技術に興味があり、趣味で実践し、仕事に生かしている。また、かんばんとスクラムなど、ソフトウェア開発に役立つ記事や書籍の翻訳活動にも従事している。

連載バックナンバー

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています