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明日の運用現場のために - 運用フレームワークという視点

2010年12月16日(木)
波田野 裕一

「運用」とは何か

ここまで「運用設計」のあり方を中心に眺めてきました。では「運用」とは何でしょうか。

いまさら何を言うのか、と思われるかも知れませんが、実は「運用」という言葉の概念が人によって異なるのが現状です。このことは各ステーク・ホルダー間の「運用」への期待や評価を曖昧にし、議論が噛み合わず「運用」への理解を妨げるなど多くの弊害を招いています。

今回の「運用方法論」においては、「運用」とは「運用組織のリソースを活用し、 対価や評価を得ることを目的に、 外部に対して、継続的に何らかのサービスを提供し続けること」、つまり「サービスを継続的にデリバリすること」と捉えています。

図6: サービス「運用」全体の流れ

「運用」をサービス・デリバリと捉えることによるメリットは2つあります。

1つ目は、運用業務をQ(品質)、C(コスト)、D(納期)で評価できるようになることです。とかく稼働率とコストというマイナス要素で評価されることが多い運用現場で、Q(品質)、D(納期)という他の評価軸で考えられるようになることは大きな意味を持つのではないでしょうか。

2つ目は、「サービス・デリバリ」となれば、相手の期待値を適切にコントロールしつつその期待値を上回るサービスを提供する、という視点が生まれることです。とかくお役所対応になりがちな運用現場は、相手からはホスピタリティが低いと評価されることが多いように思われます。安定稼動のために必要という側面はありますが、それではあくまでも「道具のお守り」に過ぎず、コスト・センターと評価されても仕方なくなってしまいます。

過剰な期待に対する「運用でカバー」を適切に回避しつつ、「サービスを提供する立場」として自分たちのやっていることの価値や意味を見出すことは、その運用現場の存在意義をユーザーや経営層に対して認めさせる大きな切り口になるのではないでしょうか。

ネットワーク運用などの低レイヤーやバック・オフィス系の業務では「ユーザー」をイメージしにくいかもしれませんが、自分の仕事相手に対するQCDを考えることで、自分たちの付加価値や改善点として何か見えてくるものがあるのではないかと考えています。

「運用の品質」とは何か

「運用」をサービス・デリバリと捉えることでQCDで評価できるようになる、と書きました。このうちC(コスト)は金額、D(納期)は時間という物性により、それぞれ定量的な評価が可能です。しかし、運用の品質についてはどう定量的に評価すればいいのでしょうか。

製造業においては、製品の歩留まりという定量的な品質基準を元に、「製造工程に問題があるのか、原材料に問題があるのか」などの科学的な分析が可能であり、これらは生産工学という学問の中で100年以上にわたる知見の蓄積があります。その知見を実践するために「ISO9000シリーズ」「QC7つ道具」「原価計算」「サプライ・チェーン」などの品質/コスト分析改善フレームワークも確立されており、製造業における常識となっているようです。

図7: 製品の品質

しかし、運用現場を含むサービス業においては、「サービス工学」や「運用工学」といった学問は未だ確立されたものがないのが現状です。今後は、自分たちの蓄積された実績データを基に、今回の「運用フレームワーク」のような運用のための分析手法を通じて自分たちの運用現場の実績を定性的定量的な分析する力を養い、自分たちの売りとなる「品質」とは何かを追求していくことが必要となっていくでしょう。決して易しいことではないでしょうが、それができる運用現場は格段に高い強みを発揮することは間違いないでしょう。

図8: サービスの品質

前向きな「運用でカバー」

第1回で、「運用でカバー」には弊害が多いと書きました。それは多くの場合「マイナスをゼロにする活動」であり、「運用の見えない化」を促進するから、というのが理由でした。しかし、仮に「運用の見える化」を十分に実現し、ユーザーの期待値を上手にコントロールした上で、プラスの「運用でカバー」を実現できれば、事情はまったく異なります。

ユーザーが感じる「サービス品質」の大半が運用組織によって作られていることに異論を唱える人は少ないでしょう。ユーザーの要望が多様化し、個別化・特殊化している今日では、そのような個別なニーズに適切に応えていくことが、運用現場の強みにもなり、その組織全体の強みにもなります。

では、自分の運用組織の具体的な強みとは何でしょうか。その手がかりは、このページ冒頭に示したように、自分たちの業務を「サービス・デリバリ」と捉え、QCDで客観的に分析することで得られるのではないでしょうか。また、「運用フレームワーク」によって日常の運用業務を把握していく中で、そこで行なわれているプラスの「運用でカバー」に、先進的なユーザーのニーズや、ほかのサービスやほかの運用現場との差別化要素が潜んでいる場合もあるかもしれません。

いずれにしても、自分たちの運用現場において、比較優位な業務を見つけ出し、売りとなる「品質」を見い出し、追求していくことで、ほかの運用現場には無い特徴や、自分たちの運用現場発の新たな価値を生み出していくことができれば、それは十分に「武器」になりえるでしょう。

「運用方法論」の今後

今回まで3回にわたって、「運用方法論」について解説をしてきました。この「運用方法論」は、実に多くの方々の考えや助言をいただいて形作られてきています。今回の記事における多くの拙い部分は著者の力不足によるものとお考えください。

運用研究会は、今から半年後の2011年5月に最終報告を出して、いったんその活動を終えます。その成果は可能な限り公開する予定です。是非この記事を読まれたみなさんにも意見を伺えればと考えております。

またどこかでお会いしましょう。

運用設計ラボ合同会社 / 日本UNIXユーザ会

ADSLキャリア/ISPにてネットワーク運用管理、監視設計を担当後、ASPにてサーバ構築運用、ミドルウェア運用設計/障害監視設計に従事。システム障害はなぜ起こるのか? を起点に運用設計の在り方に疑問を抱き、2009年夏より有志と共同で運用研究を開始し、2013年夏に運用設計ラボ合同会社を設立。日本UNIXユーザ会幹事(副会長)、Internet Week 2013プログラム委員、Internet Conference 2013実行委員など各種コミュニティ活動にも積極的に参加している。

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