ネットワーク機器がクラウドを支える
IT資源のネットワーク・サービスが急伸
ITにかかわる者にとって、2010年がクラウド・コンピューティング元年であることに疑いの余地はないだろう。このコンピューティングの概念をどのように価値創造/価値競争の戦いに生かしていくのかは、各人に考えていただきたい。本連載では、クラウド・コンピューティングという概念が立脚するIT技術について、ネットワークの側面から解説する。
インターネットや雑誌などでも取り上げられているが、クラウド・コンピューティングの本質は、ビジネス・ロジック(SaaS)やコンピューティング・リソース(PaaS/IaaS)を、準動的に利用できることである。
- SaaS = ビジネス・ロジックそのものを提供するサービス
- PaaS = ビジネス・ロジックを構成するためのプラットフォーム・サービス
- IaaS = ビジネス・ロジックを処理するためのハードウエア・リソース・サービス
異論もあるかもしれないが、クラウド・コンピューティングをビジネスの側面から見ると、2つに大別できる(図1)。1つは、アプリケーションなどのソフトウエアをIaaS上の「仮想アプライアンス」で提供する形態である。もう1つは、スケール・アウトが可能なデータ・ストアやネットワーク・サービスのAPIを使う形態である。後者では、ユーザー独自のソフトウエアを動作させることができる。
XaaSは用途に応じて使い分ける
SaaSやPaaSの特徴は、Webベースのアプリケーションを想定した機能として、スケール・アウトのための特別な仕組みを持っている点である。昨今、雑誌でもよく取り上げられるKey-Value Store(キー・バリュー・ストア、以下、KVS)技術は、その一例である。
KVSのようなフレームワーク(特定用途のソフトウエア・ライブラリ群)は、複数システムにまたがるグローバルなアトミック操作(複数の操作を組み合わせた一連の操作)を犠牲にすることでスケーラビリティを得ている。アーキテクチャー上、既存のアプリケーションとは異なる制約がある。
一方、IaaSと仮想アプライアンスの組み合わせ、つまり、分散処理用フレームワークなどのミドルウエアの提供を前提とせずに素の仮想サーバー環境の上で仮想アプライアンスを利用するケースでは、スケーラビリティの制約こそあるものの、KVSに見られるようなアーキテクチャー上の制約はない。
XaaS(SaaS/PaaS/IaaS)は、いずれの形態を採用したとしても、ITに大きな変革をもたらす。例えば、ビジネス・ロジックをPaaSのフレームワークで構成すれば、最低限のIT基盤を保有するだけで済む。一方、IaaSと仮想アプライアンスを導入する場合であっても、カスタマイズを施すことで利用できる。
XaaSと従来のASP(Application Service Provider)との大きな違いは、ASPがアプリケーション層のマルチテナント機能を要求するのに対して、XaaSはアプリケーション層についてはシングルテナントを意識した構造でよい、という点である。
次ページ以降では、クラウド時代のデータセンターを構成するネットワークとインターコネクトのアーキテクチャーを示し、システムのボトルネックを回避するポイントを解説する。