「ITパスポート」「基本情報技術者」「応用情報技術者」各試験の特性を知る
IT技術者としての知識やスキルの習得度合いを認定する国家資格「情報処理技術者試験」。エントリーから高度まで、その試験の傾向を分析しながら、本気で合格を目指す人のための攻略法について解説していく本連載。今回は、情報処理技術者試験のうち、ITパスポート試験、基本情報技術者試験および応用情報技術者試験について解説します。
情報処理技術者試験とは
情報処理技術者試験は、昭和44年より実施されている、経済産業省(旧通商産業省)主催の国家試験です。この試験は、情報処理技術者としての「知識・技能」が一定以上の水準であることを認定するためのもので、過去の応募者累計は1,700万人を超え、合格者は延べ200万人余りにのぼり、IT技術者にとっては定番中の定番の、伝統ある資格です。
情報処理技術者試験の開催などの業務は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)内の情報処理技術者試験センター(以下、試験センター)が担当しています。試験の情報はIPAのサイトに詳しく紹介されています。
試験の区分は、表1の通り、レベル別になっており、下に行くほど難易度が高くなっています。レベル4となる「高度試験」では、9つの科目に分かれていて、より専門性の高い知識力を問われ、合格すれば各分野のスペシャリストとして認定されます。
試験の開催は、毎年春(4月第3日曜日)・秋(10月第3日曜日)に実施され、受験者はいずれか一つの試験区分を選択して受験します。これまでのところ、試験が必ず年に1回、もしくは2回、定期的に実施されるので、受験志望者は決められた試験日に向かって、何をどれぐらい勉強すればよいのかなど、比較的学習計画を立てやすい試験だと言えます。なお、ITパスポート試験だけは随時受験できます。
試験合格のメリット
新卒や転職時にIT関連の仕事を探している場合は、情報処理技術者試験に合格していると、情報システムの開発・運用・保守およびパソコンを利用した業務に関する知識を有していることを、国家資格によってアピールできるため、かなり有利になると言えます。
また、情報処理関連企業の中には、この資格を昇進や昇給の条件にしていたり、資格手当を出していたりする例が多く見受けられますので、そうした企業に入社できれば、キャリアアップや収入アップができるといったメリットもあります。IPAのWebサイトにも一例が紹介されているので、確認してください(URL)。
こうした背景には、在職エンジニアのスキルが高いことを客観的な指標で証明することで、競合他社との差別化を図ろうとする、企業側の戦略があります。
さらに、IT系の公共事業や民間ITプロジェクトでは、情報処理資格取得者の有無や人数が、入札や受注の条件になっているケースがあり、資格取得者がいなければ入札にエントリーすることすらままならないため、企業にとっても資格取得者の獲得が重要な要素になっています。このようなことからも、資格の重要性、資格取得のメリットがうかがい知れると思います。
もちろん、実際の業務においては企業ごとに独自の業務手順やシステムがあるので、試験に出題されない知識が必要であったり、反対に業務では使用しないような学問的な内容も出題されていたりするため、「情報処理技術者試験に合格した人」=「実際の業務ができる人」とは一概に言えません。しかし、情報処理技術者試験にチャレンジすることで、ITに関する知識の底上げを図ることができ、応用力も身に付くため、資格非取得者に比べて、さまざまな面で有利になることは明らかです。
それでは、ITパスポート試験、基本情報技術者試験および応用情報技術者試験について、試験の概要と合格者像、取得メリットについて説明していきます。
ITパスポート試験の概要と合格者像
ITパスポート試験(以下、IP)は、試験センター公表の試験要綱において「職業人が共通に備えておくべき情報技術に関する基礎的な知識をもち、情報技術に携わる業務に就くか、担当業務に対して情報技術を活用していこうとする者」を対象としています。
IPはIT技術のエントリー要素の試験ではありますが、入門者向けとは言っても、ワープロや表計算、電子メールなど、パソコンの使用法を問う問題ばかりが出題されるわけではありません。むしろそのような内容は少ないと言っていいでしょう。IPには、「テクノロジ系(技術的要素)」以外にも「ストラテジ系(財務や企業経営的要素)」や「マネジメント系(IT管理やシステム開発的要素)」も出題されます。また、それぞれの分野ごとに合格最低点が決められており(各分野で30%以上)、それをクリアしなければ合格できません。IPは、パソコン技術を問う試験ではなく情報処理技術を問う試験なのです。
IPの合格率は41.0%(H24年度)でそのうち社会人は54.6%、学生は27.7%となっており、社会人の合格率は学生の合格率の約2倍です。このため、応募者の平均年齢は26.1歳なのですが、合格者の平均年齢はそれよりも高く28.7歳です。そして、社会人のうち業務経験がない人の合格率が47.8%とやや低く業務経験のある人の合格率が高いことがわかります。
すなわち、合格者の多くは何年間か企業などで何らかの情報処理業務を実際に経験した人たちであるとわかります。ただし、経験者有利とはいえ、情報処理全体で言えば、やはり情報処理のエントリー試験であることには違いなく、学生やIT業界の経験がまったくない志望者などは、無理して上位試験を狙わず、着実にIPからチャレンジしていくほうが早道です。
基本情報技術者試験の概要と合格者像
基本情報技術者試験(以下、FE)は、前述の試験要綱において「高度IT 人材となるために必要な基本的知識・技能をもち、実践的な活用能力を身に付けた者」を対象としています。
FEでは、情報システムを開発する業務では、なくてはならない技術的な知識や、業務で使用する用語などが多岐にわたって出題されます。特に、IPと異なる点は、試験が午前、午後とふたつに分かれていることと、午後問題は小問ではなく1問数ページ(B5判で2ページから5ページ)の文章を読解して解答する必要がある点です。また、午後問題ではアルゴリズムの知識が必須で、プログラム言語(C/COBOL/Java/アセンブラ/表計算)のいずれか1問を選択しなければいけないことも特徴的です。これらのことから、FEはコンピュータエンジニアの導入試験とも言えます。
FEの合格率は25.5%(H24年度)でそのうち社会人は26.0%、学生は25.0%となっており、社会人も学生も合格率はほぼ変わりません。応募者の平均年齢は27.0歳なのですが合格者の平均年齢はそれよりも低く25.0歳です。そして、社会人のうち業務経験がない人の合格率が34.1%とかなり高く、業務経験の必要性は感じられないことがわかります。
すなわち、合格者は業務経験の有無にかかわらず、机上の勉強だけでもクリアできた可能性があることがうかがい知れます。
応用情報技術者試験の概要と合格者像
応用情報技術者試験(以下、AP)は、前述の試験要綱において「高度IT人材となるために必要な応用的知識・技能をもち、高度IT人材としての方向性を確立した者」を対象としています。
また、APに合格すると、その後2年間は表1の④~⑫の高度試験の午前I試験が免除され、午前II試験から受験できます。APの合格者は、高度試験の午前I試験に出題される、高度情報処理技術者が持つべき基礎的知識を既に有しているとみなされます。
APはFEの出題範囲に加えて、計算に手間のかかる問題や用語などがやや増えますが、FEの内容がマスターできていればあまり心配はありません。特にFEと異なる点は、午後試験が択一式(マークシート)から記述式になることと、必須がなくなり選択問題のみとなることです。FEでは必須のアルゴリズムやプログラム言語がないため、FEより「解きやすい」と感じる人も出てきます。これらのことから、APはスペシャリストというよりゼネラリストの試験と言えるかもしれません。
APの合格率は21.5%(H24年度)でそのうち社会人は21.0%、学生は25.5%となっており、学生の方がやや合格率が良いことがわかります。そのため、応募者の平均年齢は30.2歳なのですが合格者の平均年齢はそれよりも低く29.0歳です。また、社会人のうち業務経験がない人の合格率が23.0%ですが、業務経験が1年未満の人の合格率が35.2%とかなり高く、入社間もない新人の合格率が高いことがわかります。
すなわち、合格者の多くはFEの資格を取得し、業務経験は少ないが、かなりハードに試験勉強を行いクリアした人であることがわかります。
次回は各試験の具体的な対策について触れていきます。
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