トラフィック傾向と現在の問題点、解決策としての100Gイーサネット回線
1)イントロダクション:専用線、イーサネットサービスの歴史と推移
情報通信における技術革新が盛んな現在において、イーサネットというコンピュータネットワーク規格は、一般家庭からはじまり、企業において一般的に利用されるようになったLAN(Local Area Network)で最も使われている技術規格です。いまや、世界中のLANの多くがイーサネット規格を採用しているため、企業がビジネスをするためのインフラストラクチャーに欠かせないライフラインになっています。
そもそも、イーサネットという技術はLAN(Local Area Network)という名にあるように、狭いエリアでの利用を前提としたもので、信頼性よりも利便性に重点がおかれていました。開発された当初は、地理的に離れた拠点を接続するという用途には設計されていませんでした。ところが、2000年頃より、Ethernet over MPLS(Ethernet over Multi Protocol Label Switching)や、Ethernet over SDH/SONET/DWDMなどの技術により、信頼性向上、トラフィックエンジニアリング、保守・管理機能であるOAM(Operation Administration and Maintenance)に関する機能がイーサネットにも実装され始め、企業が離れた拠点間を接続する「WAN(Wide Area Network)」への適用が盛んになり、企業ネットワークの通信インフラ、インターネットサービスプロバイダやコンテンツ配信事業者への導入が進んできました。
10Mbpsから出発したイーサネットの最高通信速度も年代と共に高速化し、現在では1Gbpsや10Gbpsのイーサネット専用線の利用も一般的となりました。
現在イーサネットは、家庭でパソコン・ルータ・家電製品をつなぎ、オフィスで多数の個人や業務用の、コンピュータ・プリンタ・通信装置間の接続、工場、学校、研究所、データセンターなどあらゆるところで利用されています。
2)最近のトラフィック傾向とその背景:サーバー仮想化、動画アプリケーション等を背景とするトラフィック増のデータ
近年、インターネットサービスプロバイダのバックボーン、データセンターにおけるトラフィックが急激に増加しており、インターネット接続事業者やデータセンター事業者の間で、高速なイーサネット専用線の需要が高まり、導入が進んでいます。
2012年11月時点で、我が国のブロードバンドサービス契約者の総ダウンロードトラフィックは、推定で約1.9T(テラ)bpsであり、この1年間で約1.2倍(前年同月比19.1%増)となっています(総務省発表資料※1)。背景としては、以下の4つの要素が挙げられます。
- インターネットユーザー、ネットワーク接続デバイス数の増加
- サーバー仮想化技術の浸透
- ブロードバンドの高速化
- アプリケーションの多様化、大容量化
FTTHなどの固定ブロードバンド回線の普及に加え、ここ数年ではiPhoneやAndroidをはじめとするスマートフォンの普及も、トラフィックの増加を後押ししていると考えられます。2012年に日本におけるスマートフォンの契約数は4,337万台に達し※2 、LTE(Long Term Evolution)の提供開始によりモバイル端末での通信の高速化が進んでいます。また、スマートフォンで動画コンテンツやゲーム、アプリを使用することにより、スマートフォンで送受信されるデータが大容量化していることが挙げられるでしょう。
また、2012年におけるデータセンターアウトソーシング(顧客企業の情報システムを事業者のデータセンターで監視・運用するサービス)市場は、前年比9.9%増の1兆1,298億円になる見込み※3であり、コロケーションサービスやホスティングサービスをはじめとし、クラウドや仮想化技術の登場により、一般企業におけるデータセンターの利用が後押しされていることが挙げられます。
- ※1「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算」(アクセス:2013年7月)
- ※2「スマートフォン市場規模の推移・予測」(アクセス:2013年7月)
- ※3「IDC Japanプレスリリース『国内データセンターアウトソーシング市場予測を発表』、平成24年10月2日」
3)現在の対処法:トラフィック需要の増加に対応する方法とその問題点
トラフィックの需要増加により、ここ数年で主流となってきていた1Gbpsや10Gbpsのイーサネット回線では対応しきれないケースが出始めています。通常、トラフィック需要の増加に対応する方法として、「1.サーバーやスイッチなどを結ぶ複数の回線を束ねて使用するリンクアグリゲーションを用いる」、「2.自動的に最短のデータ伝送経路を選択したりするレイヤー2マルチパスを用いる」、「3.回線を高速化する」という3つの方法が一般的です。
1点目のリンクアグリゲーションは、汎用的なレイヤー2/3スイッチやルータでサポートされている技術であり、導入自体は容易です。ここでの主な問題点は、トラフィックエンジニアリングとその運用上の煩雑さです。リンクアグリゲーションを構成する複数のリンク間でトラフィックがうまく分散されない、突発的なイベントによるピークトラフィックへ対処できないといったことから、複数の回線を100%有効活用できないことです。
また、複数の回線内のトラフィック流量を監視し、エンドユーザーにとってストレスなくサービスを利用できるよう、運用管理をする必要があります。複数の回線を用いても100%有効活用されないのであれば、投資に対する効果も得られにくいものとなりかねません。
2点目のレイヤー2マルチパスですが、マルチパスネットワークを実現する業界標準規格として、IETF 標準化グループが提案する「TRILL」と、IEEE802.1aqとして標準化された「SPB」を取り入れた製品が各ベンダーから提供されています。しかし、TRILLとSPBをベースとした製品でも、ベンダー間での相互接続の仕様が異なることが多いため、ベンダー間での相互接続が難しいのが現状です。
3点目の回線の高速化についてですが、10Gbpsまでの最高速度を持つ10Gイーサネットが市場に出回るようになってから、10年あまりが経ちました。現在では、IEEE802.3baとして標準化された40Gイーサネットや100Gイーサネットがスイッチやルータに実装されるようになってきており、それらに対応するサーバー機やネットワーク機器も登場し始めています。しかしながら、インターネットサービスプロバイダやデータセンター事業者の間では、既に10Gイーサネットを3本以上利用しているケースもあり、40Gイーサネットへの高速化では対応できないケースがあることも否めません。そのため、今後のトラフィック増加を見越して、40Gイーサネットではなく100Gイーサネットを採用することを検討する事業者も増えています。
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