OSSで実現する HPC on SoftLayer

2015年1月15日(木)
柴田 直樹(しばたなおき)

HPC環境を構成するOSSなソフトウェア環境

HPCクラスタシステムを実現する最低限のソフトウェア・ミドルウェアは、OSSで揃えることが可能です。以下に、そのリストを示します。

  • OS
  • 開発環境
  • 並列計算用メッセージ通信ライブラリ
  • バッチジョブスケジューラ
  • HPC向け数値計算ライブラリ(オプション)
  • HPCスクリプト言語環境(オプション)
  • HPC用各種解析アプリケーション(オプション)

上記のコンポーネントは、SoftLayerのインスタンス上で容易に実装可能です。特にOSについては、HPC分野では採用の多いCentOSを推奨します。開発環境については、インスタンス起動後に次のようなyumコマンド等を利用して、GCCの最新版を導入すればよいでしょう。

# yum groupinstall "Development Tools"【Enter】

HPCクラスタシステムで並列計算を実現するために必須なコンポーネントとして、メッセージ通信ライブラリがあります。これはMPIという規格で多くの実装がありますが、最近多く採用されているのが「OpenMPI」です。公式サイトから、ソースのダウンロードが可能です。CentOSであれば、次のようにyumコマンドで簡単にセットアップできます。

# yum install openmpi openmpi-devel【Enter】

そして、複数台のサーバーを効率良く運用するためにシステムで最も重要なのが、バッチジョブスケジューラです。システム運用の善し悪しはこれで決まるといっても過言ではないでしょう。多数のCPUコアやメモリ、GPU等のコプロセッサ等を、ユーザーごとに割り当てるミドルウェアです。ユーザーの管理や課金情報も管理できます。ここでは、安定運用の実績の大きいOSSのバッチジョブスケジューラとして、世界中のスパコンで採用されているSLURM(Simple Linux Utility for Resource Management)を推奨します。世界最高速のスパコンでも採用されているツールになります。SLURMは、公式サイトからソースパッケージをダウンロードしインストールを行います。セットアップ方法が少々複雑なため、後述する本記事のフォローサイトに詳細を公開しますので、併せて参照してください。

オープンソースな流体解析ソフト「OpenFOAM」

OpenFOAMは、CAE分野で著名なオープンソースの流体解析パッケージです。開発はThe OpenFOAM Ltdにより行われ、OpenFOAM Foundationより、GNU/GPLライセンスに基づき配布されています。日本でも多く採用され、その完成度と精度は年々高くなっています。OSSであることで、豊富なツールや拡張ライブラリが充実しているのも特徴です。

リリース当初はソースコードのみの配布であったために、セットアップに対して経験とスキルが必要でしたが、最新のリリースではパッケージ化され、セットアップも容易になりつつあります。また、先に記載したOpenMPIにも対応し、クラスタシステムでの大規模並列計算にも対応しています。つまり、SoftLayerの高性能なベアメタルインスタンスを利用すれば、スパコンクラスの流体解析環境を、迅速に構築することが可能になるわけです。

セットアップは非常に簡単です。最新リリースのWebサイトから、バイナリパッケージをダウンロードします。Ubuntu用(Deb形式)、SuSE、RedHat用(RPM形式)が選択できます。もちろんソースコード(Gitにも対応)でも入手可能です。

計算用データの作成や結果の可視化用のツール(プリポスト環境)として、こちらもオープンソースで配布されている「ParaView」(図3)も準備すれば、CAEのベース環境を構築できます。配布先のURLから、バイナリ形式で入手可能です。また、Windows用やMacOS用も準備されているので、解析のみをクラウド側で行い、結果の表示などを手元のPCで行うといったワークフローも可能です。

これらを一度セットアップしてFlex Image化しておけば、いつでも同じ環境を、SoftLayer上で仮想インスタンスでも、ベアメタルインスタンスでも、容易に利用できます。またFlex Imageは、他のSoftLayerユーザーと共有することも可能なので、チームや社内で1つのイメージをメンテナンスしておけば、計算環境の統一が可能になります。同じ環境を利用すれば、計算精度のばらつきも防止することができます(図4)。

paraview実行イメージ

図3:paraview実行イメージ

FlexImage管理と共有設定

図4:FlexImage管理と共有設定

最後に

本記事では、HPCから見るSoftLayerの特長と構成するOSSの概要について記載しました。そのセットアップの詳細までは書き切れませんでしたのでフォローアップサイトを用意しました。興味のある方はご一読ください。また本記事で紹介したOpenFOAMを実装したFlexImageの共有も、上記サイトで情報を発信しますのでご活用ください。

Japan SoftLayer Summit 2015
Japan SoftLayer Summit 2015

東京データセンター開設!「IBM SoftLayer」日本初の技術カンファレンス

「Japan SoftLayer Summit 2015」は、Japan SoftLayer Summit 2015実行委員が主催する、「IBM SoftLayer」最大級の技術カンファレンスです。 SoftLayerに関わるコミュニティ、あるいは、企業や団体、それらに所属する個人が一堂に会し、情報発信や交流を行うことで、日本におけるSoftLayerのプレゼンスの向上、ならびに更なるエコシステムの活性化を目的とします。 また、SoftLayerに興味をもつ新しいユーザーに対しても、情報発信を行い、SoftLayerについて学ぶ事ができる場を提供します。

著者
柴田 直樹(しばたなおき)
Xtreme Design Labo. 代表兼ハイパフォーマンスクラウドエンジニア
HP,Microsoft,IBMで主にスパコンエンジニア兼エバンジェリストとしてアーキテクト、ベンチマーカーとして主にx86ベースの大規模スパコンを世の中に送り出す。2014年からクラウドへシフトし主にIBM SoftLayerでHPC向けクラウドソリューションの開発を行っている。
コミュニティ:日本SoftLayerユーザー会 (JSLUG) 運営委員
Blog: http://blogs.itmedia.co.jp/naoki4277
Twitter: @naoki4277
Facebook: https://www.facebook.com/naoki4277

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