ベアメタル事業者が語るAWSとの違い―ベアメタル座談会レポート
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物理サーバを仮想サーバのようにコントロールパネルから追加できる「ベアメタルクラウド」。これまでの第1回、第2回では、リンクの「ベアメタル型アプリプラットフォーム」のサービス内容や実際の使い方などを見てきた。
今回は、国内でベアメタルクラウドのサービスを提供している事業者として、リンクと、IBMのSoftLayerの2社を集め、サービスの現場から見たベアメタルクラウドについて座談会形式で語ってもらった。
リンクからは、内木場健太郎氏、有原武彦氏、山本誠一郎氏の3名が出席。日本IBMからは、北瀬公彦氏と安田智有氏が出席した(以下、敬称略)。
リンクとSoftLayerのベアメタルクラウドとは
―― 改めて、それぞれのベアメタルクラウドサービスを自己紹介してください。
内木場:リンクの「ベアメタル型アプリプラットフォーム」は、物理サーバに特化したサービスです。物理サーバをコントロールパネルから操作して、必要なときだけオンデマンドに追加できます。
ただし、すべてがベアメタルクラウドに当てはまらないケースもあるため、物理サーバにハイパーバイザーをインストールして、その上で仮想サーバを立てる機能も用意しています。さらに、コントロールパネルから仮想サーバを1VM単位で借りられるサービスも準備中です。これができれば、物理サーバと仮想サーバを同じように借りられるようになります。
北瀬:「SoftLayer」は、IaaS型のパブリッククラウドです。2013年の7月にIBMが買収しました。IBMは2014年、SoftLayerを含めたクラウドの拡充のために世界40か所にデータセンターを広げ、この2月に開かれた「InterConnect 2015」でも新しいデータセンターの建設を発表しています。
SoftLayerはほかのクラウドと比べてインフラ寄りの色が強く、そのためベアメタルクラウドのサービスを用意しています。また、ネットワークのパフォーマンスや帯域の安定性も特徴です。SoftLayerはインフラに特化したサービスですが、その上にPaaSの「Bluemix」や、「IBM Cloud OpenStack Services」といったOpenStackを使ったプライベートクラウドをSoftLayer上にホストするようなサービスを順次展開しています。
なぜベアメタルが注目されるか
―― ベアメタルクラウドには、クラウドの側面と専用サーバに近い側面があります。それぞれ、どちら側からベアメタルクラウドに至ったのでしょうか
内木場:リンクは、後者の専用サーバからです。ユーザーから、より物理サーバの使い勝手をよくしたいという要望があり、そこでベアメタルクラウドを開始しました。
北瀬:SoftLayerも後者です。もともとSoftLayerはホスティング事業者でしたが、創業者や技術スタッフがAPIと自動化に思い入れがあり、サーバを瞬時に提供できるようにしていました。やがて、IBMが買収してサービスを追加する中で、さらにベアメタルクラウドを拡張してきました。
―― 両社に限らず、クラウド界隈でベアメタルクラウドという言葉を聞くようになりました。なぜでしょうか。
内木場:ユーザーの方々がクラウドの使い勝手を知って活用し始めるようになった後で、「でも物理サーバっていいよね」と思い出すような時代の流れがあるのではないかと思います。クラウドがあたりまえになっている時代に、「物理サーバも同じように使えるんだ」と驚かれているようです。
安田:仮想サーバは物理的なリソースを共有するので、性能にばらつきがありますよね。そこで、高く安定したパフォーマンスを求めてベアメタルへ、という動きがあります。
変わった例では、クラウドでVyatta(ソフトウェアルーター)を動かして自社とVPN接続するときに、NICの安定したパフォーマンスを求めてベアメタルというケースもありました。
そのほか、セキュリティや自社のコンプライアンス対応のために共用サービスは認められないが、クラウドを使いたい、という理由でベアメタルが使われる場合もあります。
北瀬:AWS(Amazon Web Services)などのクラウドのサービスが普及して、オンプレミスで構築していたシステムもクラウドへの移行を考えると、すべてが仮想化されているわけではなく、仮想インスタンスには移しにくいということが起こります。その足りないピースとして、クラウドのよさをもちつつ、物理サーバを提供できるサービスが登場した、という面もあると思います。サーバだけでなく、全体のシステムとしての要望ですね。
山本:パブリッククラウドではいろいろな機能を使って自動化など運用を便利にします。しかし、実際に採用したときに、それをうまく扱える技術者が社内にいなくて、単なる仮想インスタンスとして使っているだけになり、かえってコストがかかってしまう、という場合があります。そこで、従来の方法で運用できる物理サーバに戻る、ということもあるようです。
有原:私はサービスのバックエンドで仮想サーバも触ってきて、便利な面もあれば、ほかのインスタンスの影響を受けるといった不都合な面もあるとわかってきました。そこで、安定したパフォーマンスが求められるサービスにはやはり物理サーバが必要だと思っていました。
北瀬:もし物理サーバと仮想サーバが、同じ値段と同じスペックで、柔軟性も同じにできれば、みな物理を選ぶんじゃないかと(笑)。あとは物理サーバでどのぐらい柔軟性を実現できるかどうか。
前職でアカデミッククラウドに関わったことがあります。そこではデータ解析のために物理サーバも使えるようになっていたのですが、あっという間に物理サーバが売り切れになりました。コストと性能のバランスですよね。
ベアメタルクラウドはどこで使われているか
―― ベアメタルクラウドについてはフジテレビのゲームサーバでの事例が公開されていますが、実際にどのような用途で使われているのでしょうか。また、ちょっと変わった事例なども、あればご紹介ください。
山本:フジテレビさまの事例では、ゲームの本番環境を高パフォーマンスなベアメタルで、開発環境をベアメタル上の仮想サーバで同一ネットワーク内に構築することにより運用効率をアップさせました。
面白い使い方の例もひとつ。今の開発会社では、最初からずっと仮想サーバを使ってきて、物理サーバを使ったことのないエンジニアも多いんですね。そこで、1日だけ気軽に物理サーバを借りて、どのぐらいパフォーマンスが出るか試す、ということもあります。
安田:一般的な使い方としては、ベアメタルでデータベースを動かす例は多いですね。開発環境は仮想サーバを使い、検証はベアメタルに、ということもよくあります。
数は多くありませんが、ベアメタルのサーバをワークステーションがわりにして、GPUを使って描画やGPGPUの処理を高速に実行する、という例がありました。
内木場:バックエンドだけじゃなくて、フロントエンドも物理サーバに、というアイデアもあります。
たとえば、ゲームでイベントを実施するときなど、フロントエンドを短期間だけスケールさせますよね。このときに、仮想インスタンスをたくさん増やすのではなく、マッチョな物理サーバを数台入れるだけでしのげるんだ、運用効率もいいね、とおっしゃるユーザーさんも増えています。
北瀬:実名を出せるものとして、「Japan SoftLayer Summit 2015」のキーノートで、広告配信のOpera Responseが事例を発表しました。ベアメタルサーバを100台以上使って、コンマ何秒で広告を配信しています。Opera Responseでは、CPUやメモリのパフォーマンスに加えて、1GbEや10GbEのNICをそのままのパフォーマンスで安定して使えるところから、ベアメタルを採用しています。
インスタントメッセージサービスのWhatsAppも同様です。月間ユーザーが7億以上、同時接続1.4億、画像が1日10億個という基盤に、ベアメタルを採用しています。このように、ネットワークにセンシティブなアプリケーションが物理サーバを利用しています。
ゲームのサーバでも、ベアメタルが好まれますね。データベースはもちろん、Hadoopを使ったログ解析などにも。
山本:リンクでもゲームのサーバの事例を公開しています。物理サーバの長所を普通に活かせる分野で、仮想サーバから物理サーバに移ることで、台数を減らせて安定化もできます。
―― 両社とも物理サーバと仮想サーバのサービスメニューがあります。両者の関係や、2つを組み合わせる例などは?
山本:ステージングサーバに仮想サーバを使い、実運用は物理サーバで、というように使われることは多いですね。
安田:基幹系では、今使っているサーバと同じスペックのサーバを、という要求があって、そうなるとベアメタルになります。また、アプリケーション系では、作って捨てやすい仮想サーバが使われます。
物理サーバと仮想サーバの組み合わせが多いようですね。実は、私の担当する中で、物理サーバのみという案件はまだ経験していません。
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