ベアメタル事業者が語るAWSとの違い―ベアメタル座談会レポート

2015年3月31日(火)
高橋 正和

予備のサーバはどのように用意するか

―― 物理サーバをクラウドのように追加できるようにするには、あらかじめサーバをラックに用意しておくと思いますが、CPUやメモリなどのカスタマイズには対応できますか?

内木場:基本はラインナップされているサーバです。カスタマイズは個別対応になります。メモリ容量を変えるぐらいでしたらすぐできますが、筐体を変えるとなるとそれなりに時間がかかりますし、障害が発生したときの復旧などのメリットが減ってしまう。それがあまりないように、メニューにあるものが基本になっています。そこがSoftLayerと違うところですね。

安田:SoftLayerでは、基本構成のテンプレート7種類から選べるものと、CPUソケット数、CPUの種類、メモリサイズ、Diskの種類とRAID、NICの帯域などを選ぶといったフルカスタマイズも対応しています。

北瀬:想像ですが、Opera ResponseやWhatsAppが使っているサーバは、公開されているスペックを見ると、カスタマイズされたものでしょうね。

安田:ベアメタルを使うお客さんのうち、たとえば金融系HPCのような用途では短期間だけCPUをぶん回します。そのような用途では、定型的なサーバを時間課金で使います。

ただ、そのような使い方は典型的ではありますが、そんなに多くはありません。実際には、カスタマイズ型が多いですね。オンプレミスからの移行では長期間で、「今と同じサーバ」を求めるので、カスタマイズのオーダーになります。

サーバの調達方法について議論する

―― 予備のサーバはどのぐらい余裕を見て用意していますか?

内木場:そこはあまりテクニカルな要素はなくて、状況を見ながら手さぐりで調達しています。幸い、サーバが足りないという状況にはなっていません。規模が大きくなると、予備のバッファも大きくとる必要がありますが。

安田:稼働率は公開されていないのでお答えできませんが、利用率がリアルタイムにレポートされ、それを元にサーバなどが納品されます。

北瀬:ちなみに東京データセンターでは、週に数回、ストレージやサーバが横浜港に届きます。実際には、いきなり何台もオーダーするお客さんは多くはないのではないかと思います。まず検証して、その結果から何台かオーダーするとなると、ある程度予測できます。

内木場:そこはうちも同じですね。コントロールパネルでサーバを増やしていく、というお客さんもいますが、多くはお客さんに営業がついてキャッチアップしています。自動販売機型のクラウドとは少し違うところですね。

北瀬:両方のタイプのお客さんがいますね。自動販売機型の仮想サーバでは、インスタンスごとにパフォーマンスが違って安定しないので、大量にインスタンスを作り、パフォーマンスがいいものだけ残してあとは捨てるという使い方をする人もいる。そのあたりは、われわれとちょっと違うところです。

AWSとはどう違うか

―― クラウドといえばAWSが代表ですが、AWSに対して、どう思いますか?

内木場:基本的には、戦おうとは思っていません。要件を聞いて、他社のクラウドのほうがいいというケースもあります。無理に仮想サーバからベアメタルに持ってこようというわけではない。棲み分けですね。

北瀬:われわれにはIBMの既存のお客様や販売パートナー様が多数いらっしゃいます。また、エンタープライズ分野で展開する為に、業界業務プロファイルと呼ばれる業界ごとのソリューションパターンを20種類以上用意しています。一方のAWSは、ボーン・オン・ザ・クラウド(新しくクラウド上で構築するシステム)ので強みがあり、システムやユーザーにおいて適したクラウドは違うのではないかと思います。

補足しておくと、ボーン・オン・ザ・クラウドでも動画配信やゲームなどでネットワークに負荷のかかるシステムでは、ベアメタルクラウドの領域かなと思います。ネットワーク転送料金がかかりすぎるとか、帯域が安定しないといった理由で、SoftLayerに移行された例もあります。

ちなみに、Opera Responseの事例では、SoftLayerのほかにAWSも使っているそうです。

日本IBMの2名(左から、安田氏、北瀬氏)

―― もしAWSがベアメタルを提供してきたらどうしますか?

北瀬:厳しい質問ですね(笑)

内木場:それは、そこにマーケットがあると判断されたということですから、あらゆる面でメリットがあると思います。

AWSがベアメタルクラウドに参入したとしたら、今以上に物理サーバと仮想サーバの違いを意識しながら両環境を活用していく流れができていくと思います。必然的に物理サーバを活用した運用事例が増えていくでしょうし、すべてをクラウドで運用していたケースが、ノード占有・ハイブリッド運用を経て、すべてをベアメタルクラウド上で運用するという流れもより一般的になってくるのではないでしょうか。そういう運用が一般に広く認知される状況は、弊社にとっては大きなメリットになると思います。

その上で、やはり日本の商習慣にあったサービスづくりやサポートを継続することで、企業のインフラ担当の方たちが本当に使いやすいサービスを追求していきたいですね。

安田:個人的な印象ですが、AWSはサーバではなくビジネスロジックからAWSを使おうかというユーザーが多いと思います。使って捨てという本来のクラウドの活用方法を根付かせたのはAWSですし、一方のベアメタルは「このサーバが使いたい」というニーズから入ってくるユーザーが多いので、それぞれ違うアプローチだと考えています。AWSがベアメタルに参入すれば、ベアメタルも認知度が高くなって、パイが広がるのではないかと思います。

北瀬:ベアメタルをどのように使えばいいかをうまく提案するところが必要かと。ベアメタルクラウドでわれわれが先行して蓄積したノウハウや提案などがあります。IBMでは、ベアメタルを生かした業界業務プロファイルなども準備しています。

内木場:ベアメタルのサービスを追加するというのは、これからどこの事業者でも出てくると思います。北瀨さんのおっしゃるとおり、ベアメタルクラウドのパイオニアとしてのノウハウもありますし、それに加えて、20年近く培った物理サーバの運用ノウハウと合わせて、イノベーティブでありつつ、ビジネスユースを意識したサービスでうちらしさを出していきたいと思います。

オンプレミス、仮想サーバ、ベアメタルクラウドはどう違うか

―― オンプレミスと、仮想サーバのクラウド、ベアメタルクラウドで、利用するシステム管理者の仕事はどう変わるでしょうか。

北瀬:ベアメタルクラウドはオンプレミスに比べると、比較的俊敏にスケールアウトでき、撤退するときは簡単に削除できます。

山本:たとえばゲーム会社では、最初ロースペックのサーバで始めて、サーバを止めずにミドルスペックやハイスペックのサーバに移行できます。そうしたところがオンプレミスとの違いですね。

内木場:一方で、サーバ自体はむしろ普通のサーバで、昔からの構造が使われています。クラウドには特有の癖があり専用のスキルが必要になりますが、ベアメタルクラウドにはそういう要素があまりなく、従来のやりかたが使えます。

安田:同感です。お客さんに理解していただきやすい。

エンタープライズとクラウドの比較でいうと、エンタープライズではサーバやストレージ、ネットワークと、担当ごとにスキルが分かれています。それに対してクラウドでは、1人に全部のスキルが求められますね。

北瀬:そのほか、コスト感覚にも違いがあるのでないかと思います。初期投資でそのまま、というのではなく、常に増加や削減を意識している必要がある。技術寄りの人でも、そうしたコスト感覚が求められるのではないか。

これからどこを強化するか

―― それぞれのサービスでこれから強化していく点は、それぞれどのようなところでしょうか。

内木場:いま、「ベアメタル型アプリプラットフォーム」は、サーバにファイアウォール、ロードバランサーぐらいの、きわめてシンプルなサービスです。基本的なインフラとしての機能は満たしていますが、やるべきことはまだたくさんあります。そこを埋めていくのが直近の課題です。

また、ミニマムなリソースでいいというお客さんは、ベアメタルではなく仮想サーバを選ぶ。サービスが成長する中でずっと使ってもらう、インフラをもっと自由に使える、となると、仮想サーバをいかに融合するかが必要だと考えています。

また、物理サーバはどうしても壊れる。仮想サーバであればライブマイグレーションなどで無停止を実現できますが、ベアメタルでは難しい。そこをなんとかできないか。ベアメタルクラウドはそのデメリットを運用だけでなく機能も含めて様々な方法でカバーしていくことが重要だと認識しています。

北瀬:SoftLayerのインフラの部分では、まず、APIまわりの監査ログを取れるように強化しようと。また、ストレージでは、複数のデータセンターに保存されるようなストレージや、冗長性を犠牲にしてコストを安くしたストレージも考えています。そのほか、常に最新のプロセッサをつんだ最新のハードウェアを提供していきます。サーバのプロビジョニング時間をもっと速くするということにも取り組んでいきます。データセンターも拡張していきます。

その上のサービスでは、たとえばIBM Cloud OpenStack Services (OpenStack as a Service)などというような新しいサービスを提供していきます。また、日本IBMでは、そうしたインフラやサービスをエンタープライズのお客さんが使いやすくするためのノウハウ、業界ごとのパターンを、「業界業務プロファイル」としてさらに拡張していきます。

さらに、SoftLayerのコミュニティも拡張しています。2月12日に日本初のSoftLayer技術カンファレンス「Japan SoftLayer Summit 2015」を主催しましたが、以後もひきつづきコミュニティは拡張しています。

もう一つ。SoftLayerの日本語サポートも提供開始しました。SoftLayerでは初の、英語以外でのサポートです。Webサイトも日本語にローカライズして、これも初です。

以上のように、インフラ、サービス、提案のしかた、コミュニティ、サポートまで、全方位でやっていきます。

お互いどう思うか

―― ちなみに、お互いに相手をどう思いますか?

北瀬:日本のSoftLayerは営業拠点なので、リンクが開発から自分たちでやっているのはうらやましいですね。お客さんの要望から開発へのサイクルを回しやすい。われわれですと、キャンペーンなども本社まで承認をもらわなくてはならないので。

内木場:フットワークは軽くできますが、SoftLayerの規模はうらやましいですね。

安田:どうしてもリクエストが海をまたぐので、日本固有のリクエストはなかなか実現に骨が折れるのが悩みです。

その中で、世界中のIBM社員がお客様の声を代弁して「こんな機能がほしい」と投票するサイトがあります。そこで注目を集める案件になると、とつぜん開発ステータスが変わることもあります。

内木場:うちは営業を中心にあらゆる部門が要望を上げて、それが蓄積されて、開発の優先順位が迅速に判断されていきます。リソースの規模は違いますが、スピードと柔軟性がうちの最大の強みだと思っています。

―― 本日はありがとうございました。

以上、リンクとIBM(SoftLayer)の2社による座談会の様子をお届けした。実際にサービスを提供する事業者が見た、ベアメタルクラウドの利用例などの話により、ベアメタルクラウドの特徴がより明らかになったのではないだろうか。特に、従来型システムに近い使い方で、従来型システムより柔軟に構築運用できるという利用形態は、通常のクラウドとも違う新しいカテゴリーといえそうだ。

ベアメタル型アプリプラットフォーム
http://app-plat.jp/
取材協力・株式会社リンク
http://www.link.co.jp/

フリーランスのライター&編集者。IT系の書籍編集、雑誌編集、Web媒体記者などを経てフリーに。現在、「クラウドWatch」などのWeb媒体や雑誌などに幅広く執筆している。なお、同姓同名の方も多いのでご注意。

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