IBMのSoftLayerは他のクラウドサービスとどう違うのか?
IBMはクラウドへの注力を事業方針として掲げている。その象徴的な取り組みとなったのが、20億ドル以上とも言われる多額の投資で実現したSoftLayerの買収だ。買収以前からも米国では著名クラウドサービスの一角を占める存在ではあったが、日本国内での知名度はIBMによる買収のニュースによって一気に高まった感がある。
Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなど、有力な競合事業者が既に地歩を築きつつある中、IBM SoftLayerはどのような武器を持って戦っていくのか、日本IBMの担当者に聞いた。
北瀬 公彦氏 | 畑 大作氏 |
---|---|
日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・テクノロジー・サービス事業 クラウド・エバンジェリスト | 日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・テクノロジー・サービス事業 クラウド事業統括 テクニカル・セールス シニアITスペシャリスト IBMクラウドマイスター 認定クラウド上席システムズ・エンジニア |
SoftLayerはどんなクラウドサービスなのか?
SoftLayerは、IBMによる買収以前はSoftLayer Technologyという企業が提供していたサービスだ。もともとホスティングなどに強い企業で、買収以前は米国でも「AWS、RackSpace、SoftLayer」が3大クラウドプロバイダとして認知されていた実績を誇る。特にスタートアップ企業などに人気があった。その頃の海外拠点はシンガポールとアムステルダムの2カ所だった。と、北瀬氏は説明する。
2013年7月にIBMが買収。IBMがCAMSと表現する“Cloud、Analytics、Mobile、Social、Security”といった新たな注力分野に取り組む一環として、20億ドル以上という大型買収を行った。
この買収は、クラウドに対するIBMの投資としては最大規模のものとなる。その後、2014年には全世界にデータセンターを展開することを発表した。日本国内でも、2014年中にデータセンターを建設する予定だと発表している。
SoftLayerの3つの特徴
大きくは、「グローバル・ネットワーク」、「物理サーバが使える」、「サービスメニューが豊富」の3点が挙げられる(北瀬氏)。
まずネットワークだが、北米を中心に、太平洋側は日本や香港、シンガポールと接続、大西洋側はロンドンやアムステルダムに、それぞれグローバル・バックボーン・ネットワークが敷設されている。マルチキャリア構成で冗長化された10Gbps回線だ。
サービス面では、このグローバルバックボーンにより構成されるプライベートネットワーク内の通信は送受信無料で転送容量課金はない。外部のパブリックネットワークとの通信は、受信無料、送信は仮想サーバの場合は1台につき月間5TBまで無料、物理サーバの場合は1台につき月間20TBまで無料となる(ソフトレイヤーのサービス価格)。
現時点では日本にはデータセンターはないが、PoP(Points of Presence)と呼ばれるネットワーク接続点は設置されており、シンガポール、香港、サンノゼとそれぞれ直結されている。SoftLayerのユーザーが利用する専用線なので、パフォーマンスも良好で遅延も少ない。たとえば、公表値では東京~シンガポール間で70~80ms、東京~香港間だと40~50msという遅延になる。
プライベートネットワーク内の通信は完全に無料化されているので、たとえば日本にデータセンターが設置された場合、日本のデータセンターとサンノゼのデータセンターの間でディザスタリカバリシステムを構成するような例ではどれだけのデータ量を転送したとしてもそれによる課金は一切発生しない。
パブリックネットワークに対するアウトバウンドトラフィックには課金設定があるが、無料枠も充分に確保されているので、一般的なシステムの場合は無料枠内で収まると考えられ、事実上ネットワークの利用は無償と考えて良い(5TB/月/仮想サーバ、20TB/月/物理サーバ)。
ベアメタルという選択肢
SoftLayerの特徴としてよく知られているのが、ベアメタルと呼ばれる物理サーバのプロビジョニングも可能だという点だ。SoftLayerのクラウド環境にサーバをプロビジョニングする場合、大きく2種類の選択肢がある。1つは仮想サーバで、もう1つは物理サーバだ。物理サーバの展開の場合でも、利用開始までに要する時間は数時間程度で、一般的なクラウドのイメージそのままの迅速な利用が可能だ。また、ユーザーの操作は仮想サーバと同様に、ポータル画面から操作できる。
物理サーバに限定されず、たとえばSoftLayerのプライベートネットワーク内にストレージを配置することもできるし、ロードバランサやファイアウォールなどは、共有、占有タイプのものがあり、各種ネットワークアプライアンスなども置くことも可能だ。ポータルからの操作はもちろん、APIの用意もあるので、APIを介してSoftLayerのサービス全てをコントロールできる。
物理サーバのニーズは多岐にわたる。データベースなどは、現在では仮想化環境でも実行可能になってきてはいるものの、パフォーマンス面での懸念などから「データベースだけは物理サーバで実行したい」と考え、フロントエンドのWebサーバなどはクラウド上に展開しつつ、データベースサーバだけはオンプレミスに残して物理サーバ上で実行しているユーザーが珍しくない。こうした構成をSoftLayerの内部に作ることができる。
また、最近はビッグデータ処理のニーズも高まってきているが、たとえばHadoopなどでは物理サーバ上で直接実行することが推奨されていたりもする。また、HPC分野や、特定のハイパーバイザを動作させることが前提となっているプライベートクラウドやデスクトップ仮想化、あるいは特定のハイパーバイザ上で仮想化されている仮想サーバをそのままクラウド環境に移動したいといったニーズも考えられるが、こうした場合はクラウドサービスプロバイダ側で準備した仮想化インフラがそのまま使えるとは限らず、ユーザーが物理サーバ上に任意のハイパーバイザを展開したい場合もあるだろう。
こうしたニーズにも対応し、ユーザーのシステムをそのままクラウド環境上に移動できるのは物理サーバをサポートするSoftLayerならではの強みだと言える。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- 日本SoftLayerユーザー会が第1回勉強会を開催
- クラスキャット、OpenStackプラットフォームをサービスとして利用可能な新マネージドサービス提供
- ベアメタル事業者が語るAWSとの違い―ベアメタル座談会レポート
- 日本IBM、ハイブリッドクラウド構築を支援する「OpenStack構築支援サービス」発表
- OSSで構築するNFSクラスタサーバー
- OpenStack Juno on SoftLayer by RDO
- クラスキャット、OpenStack Kiloベースのプライベートクラウドソリューションを提供開始
- クラウドオーケストレーションツールでクラウド活用は次のフェーズへ
- SoftLayerでMongoDB環境を構築してみよう
- 触ってわかったベアメタルクラウドの勘所と気になる新機能