手段を先行させないクラウドの課題解決
プロダクション・クラウド
本番環境では、テスト時のように構成が頻繁に変化することはありませんが、トランザクションの季節変動やビジネス上のイベント、例えば新製品のキャンペーンなどに連動したITリソース要求の変化に対応することが課題になります。
ここではCPUリソースの変動について考えてみます。
図3に示すように、CPUリソースの増強は、仮想サーバーを追加することによるスケールアウト、一つの仮想サーバーの処理能力を上げることによるスケールアップにより実現されます。どちらで、あるいはどのような組み合わせで対応するかは、ワークロードの要求によって決まります。
ワークロードが並列処理可能で、全体のスループットの向上が求められるような場合は、スケールアウトによる対応が有効です。例えばWEBアプリケーションサーバーへの処理の集中に対して、プロビジョニングにより仮想マシンを追加して、複数のWEBアプリケーションサーバーで処理を分散させることが考えられます。
一方、ワークロードの並列化が困難であったり、レスポンスの向上が求められるような場合は、スケールアップによる対応を検討する必要があります。
スケールアップは、処理能力の高いCPUの使用や、仮想マシンに複数のCPUコアを投入することで実現されます。後者の場合、スレッドレベルの処理速度は上がらなくても、仮想マシンの同一OSの下で並列処理されるスレッド群全体の処理速度が上がるため、スケールアップと考えられます。
PCサーバーやブレードサーバーはスケールアウトに適しており、IBM Power SystemsのLPAR、System zのz/VMはスケールアウト、スケールアップのどちらにも適しています。PCサーバーはスモールスタートからのスケールアウトに特に適しており、z/VM は仮想マシン間の高速ネットワーク、例えばz/VM Guest LAN などで仮想マシン間の連携効率を高めることが可能です。
クラウドコンピューティングのITリソース・プールにどのようなサーバーを置くかは、上記に加えて、必要となるアプリケーションのサポートの有無などさまざまな条件によって総合的に決定されるため、最適なサーバー・ミックスを選ぶことが肝要です。
投資対効果
クラウドコンピューティング導入により、コスト削減と利便性向上が期待できます。それをもたらす源泉として以下が挙げられます。
・ハードウエアコストの低下
サーバー仮想化により、物理サーバーの台数が減ります。
・ソフトウエアコストの低下
ソフトウエアのライセンス料金は、多くの場合、仮想マシンの数ではなく、物理サーバーの台数やCPUパワーに基づいて請求されます。したがって、N台の物理サーバー上のソフトウエアを1台の物理サーバー上のN個の仮想サーバーに移行することで、ライセンス料金は最大1/Nに下がる可能性があります。
・運用費の低下
物理リソースが数分の1に減少し、管理が一元化されるため、運用費が減少します。
・サービス提供費用の低下
プロビジョニングが自動化されるため、これまで手作業で行っていたITリソースの構築費用が激減します。
・サービス申請から提供までの時間短縮
セルフサービスポータルと自動プロビジョニングによりサービス申請の利便性が向上し、申請からサービス提供までの時間が大幅に短縮されます。
いずれも大きな効果をもたらしますが、コスト削減の観点からはサービス提供費用の低下が特に大きく、計数化も容易です。一方、利便性の向上とスピードアップは、事業部門(LOB)にとっての最大のメリットになるでしょう。
ITにパラダイムシフトをもたらすと注目されるクラウドコンピューティングですが、インターオペラビリティの無い技術の乱立や、利用者が特定ベンダーの製品・サービスにロックインされることを防ぎ、インターネットのように広く定着するためにはオープンスタンダードの確立が不可欠です。
「クラウドコンピューティングはオープンであるべき」という主張は、オープン・クラウド・マニフェストとして公開されており、250以上の企業や団体に支持されています。
【参考文献】
「Cloud Computing Use Cases WEB e Paper Version 1.0 by the Cloud Computing Use Case Discussion Group 5 August, 2009」(http://groups.google.com/group/cloud-computing-use-cases:ページ下部のリンクよりダウンロード)(アクセス:2009/09)
「Open Cloud Manifesto」(http://www.opencloudmanifesto.org/)(アクセス:2009/09)
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