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AI最前線の現場から【サイバーエージェント】アドテク分野におけるAI技術の活用事例

2016年8月24日(水)
川端 貴幸

はじめに

前回はAI研究やアドテク業界の概要と「AI Lab」を設立した目的を紹介しました。今回は、アドテクの中で使われるAI技術について、いくつか具体例を交えて紹介していきたいと思います。

AI Labにおける広告ビジネスの本質

ネット広告の領域では、かなりの広範囲にAI技術が応用されていますが、その普及のしやすさには下記のような理由が挙げられます。

  • データが大量にあること
  • 目的とする指標が明確なこと
  • フィードバックが早いこと
  • 人命への影響が少ないこと

これらが全て高いレベルで満たされている希有な存在が「ネット広告領域」なのです。

そのような中で重要なのは、「AI Labがどのような問題にAI技術を活用していくのか」ということです。アドテクスタジオではアドテクノロジー広告の全ドメインをカバーするプロダクトを開発・提供しています。

それらの中からどの問題を取捨選択し、どのようにフォーカスすべきか。筆者は「ユーザにとってネット広告を更に価値のある存在に変えていく」ことを念頭に最善の選択かを考えるようにしています。

広告には多くのステークホルダーが関わり、それぞれの思惑が複雑に交錯しています。「何を目的としているのか」「どのくらいのタイムスケールで考えているのか」は、それぞれの思想・ポジションによってまちまちです。短期的な利益も重要なのですが、中長期的なネット広告の価値向上につながるような取り組みを積極的に行っています。

そして、必然的に広告ビジネスの本質的なところである、「いかに広告主とユーザのマッチング精度を高めていくか」というところに帰着しました。「いつ」「だれに」「どこで」「どのようなメッセージを伝えるのか」、中でも特にAI Labが注力しているのは下記の3点です。

  • ユーザ、広告主、メディアをよく知る(プロファイリング)
  • 最適なマッチングを考える(CTR(Click Through Rate)予測)
  • ユーザごとに最適なメッセージを生成する(クリエイティブ生成)

中長期的な目線で深く掘り下げて研究をするためにも、上記のテーマを複数の大学の研究室と産学連携して進めています。

CTR予測はアドテクのコア技術

アドテクの中でAI技術が利用される最も重要なタスクは、やはり「CTR予測」でしょう。ここでいうCTRとは「エンドユーザに広告を表示した後でClickされる確率」を指します。

なぜ、このCTR予測が最も大事なのか。それは広告の価値が”ユーザに興味を持ってもらい態度変容を促すこと”であり、その定量的な評価の代表がClickだからです。広告配信を最適化するというのは、広告予算の中でClick数(もしくは他のKPI)を最大化することであり、そのためには「CTR(もしくは他の確率値)を正しく予測する」ことがとても重要になってきます。

Clickの代わりにConversion(会員登録や商品購入など)を評価の指標とすることも多くありますが、筆者はConversionには広告以外の要因(商品詳細ページの分かり難さやプライシングの問題など)も含まれているため、Conversionの評価だけで広告価値を測る指標と捉えては危険だと考えています。Conversionを指標に広告配信を最適化すると、ユーザがClick後からConversionに至るまでのCVR(Conversion Rate)を向上させる手段をPDCAに組み込むことができません。

広告は良くも悪くもマーケティングの一手法であり、マーケティングにおける最大の目的を達成するための一要素と考えた方が良いと思います。

CTR予測に関してはGoogle、Microsoft、Facebook、Yahoo!といった世界的なIT企業が国際カンファレンスで研究発表し、精度を競っています。

さらに、世界中のデータサイエンティストが参加するデータ解析コンペ「kaggle」でも、過去に2度CTR予測の問題が出題されており、アドテク業界に携わっていない人にも認知されている問題かと思います。

もちろん、アドテクスタジオ内のプロダクトでもCTR予測には力を入れており、AI LabもDSPやアドネットワークなどで様々なタスクの予測モデルを検討・提供しています。各プロダクトとAI Labが連携し、予測モデルを生成する基盤を共通化するようにしています。

ほとんどのプロダクトで予測モデルの生成が必要となるため、生成基盤を共通化しておけば個々のプロダクトで再開発する無駄を省けます。また、予測モデルの精度を改善したときの効果も掛け算で効かせやすく、最も大事な予測タスクにリソースを集中しやすくなります。

予算のアロケーションとペーシング

あなたがこのページを訪問した瞬間にも広告枠の在庫がいくつか発生し、RTBによってどこかの広告主が購入しています。CTR(CVR)予測が正確であれば目標とするCPC(CPA)からその広告枠の期待値を計算でき、RTBで主流のセカンドプライス・オークションでは、その期待値で入札することが戦略の1つとなります。

RTBにおいて将来的に発生するすべての広告枠をこの戦略で入札しても良いのですが、これは考慮しなくても良いほどの広告予算が潤沢にある場合に取れる戦略であり、現実にそんなことはありません。

実際には「広告主としては1ヶ月で100万円未満」など、予算(期間と金額)の制約内で目標とするKPI(クリック数、コンバージョン数など)を最大化するように入札したいと考えます。これは「予算のペーシング」の問題であり、どこまで考慮するかによって難易度が大きく異なってきます。この運用を人手で行うのは困難であり、AIの方がより上手く行なえる典型的な問題です。

この問題を解くために、数値最適化の専門家である静岡大学の前原氏と共同研究をしています。近いうちにプロダクトでオンライン検証し、サービスとして提供する予定です。

また、その外側では広告主の全予算をどのような媒体やターゲティング手法に配分すれば目標とするKPIが最大になるのかという「予算アロケーション」の問題があり、こちらもAI技術を活用した最適なアロケーションを鋭意試験運用中です。

結局はクリエイティブが一番大事

結局のところ、広告で一番大事なのは「クリエイティブ」です。興味を持つかもしれない存在顧客を正しく捕捉できたとしても、実際に態度変容を起こすのはそう簡単なことではありません。

商品を購入してもらったり、サービスを使ってもらったりするためには「何かに役立つ」と思ってもらう必要があり、きちんとそこに訴求していくために「どのようなテキスト、画像、動画広告を作るべきか」、それこそ最も人間が力を発揮し、創造力次第でその効果を何倍にもできるところではないかと思います。

しかし、クリエイティブの制作には莫大なコストがかかり、予算も限られているため厳しい現実があります。そこで、「人間がクリエイティブを制作するための創造力を最大限発揮できるようにAIがアシストする」ことを研究開発しています。

具体的には、レビュー文や口コミを利用したテキスト広告の自動生成や、ユーザの訴求軸に応じた広告の出し分け技術を明治大学の高木研究室と共同研究したり、画像広告を自動生成する技術を研究開発したりしています。まだ実用レベルではないのですが、広告の自動生成技術はAIがたくさんの候補を生成し、その候補からインスピレーションを受けて人間がさらに良いクリエイティブを効率的に生成するためのツールとして実用化を目指しています。

おわりに

AIにはすでに人間の能力を超えているAIと、人間の能力に迫ろうとするAIがあります。例えば、オセロやチェスではすでにAIは人間を超えていますが、物体認識や言語理解など人間が当たり前にできることがAIではまだまだ難しかったりします。

企業にいるAI研究者の役割として、実問題の本質を理解しながら「人がやるべきところ」と「AIが代替するところ」を適切に見極め、AI技術を実問題に応用していくことは非常に大事だと思っています。

次回はそのような点も踏まえ、AI Labの今後の活動について紹介します。

明治大学大学院 理工学研究科 情報系にて自然言語処理・ファジィ理論をベースにテキスト・画像検索について研究。2005年にキヤノンへ入社し、産業機器装置の自動テストツールをゼロから開発。その後、ソフトウェアの要素技術を研究開発する部署へ異動し、レコメンデーション・パターンマイニング・異常検知・故障予測・動線解析などの研究開発を行う。2014年、サイバーエージェントに入社。Private DMPのターゲティングロジックの開発やDSP・ADNWのCTR、CVR予測モデルの開発、オペレーションツールの運用時の異常検知機能などの開発を担当し、2016年1月より、新設したAI Labの責任者に着任。

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