これってうつ病?それともなまけ?

2008年8月22日(金)
五十嵐 良雄

IT業界にうつ病が多いって本当?

 筆者の所属するメンタルヘルスリサーチ&コンサルティング(http://www.mhrc.co.jp)のこころの健康相談や復職支援の場で、IT業界の方の相談を受けることが多くあります。また産業衛生に関するさまざまな調査研究においても、IT業界の過酷な労働条件がメンタルヘルスの問題を発生させていると指摘されています。

 IT業界の業務の特徴として日立製作所健康管理センタ副センタ長 林剛司氏は、「1.顧客先への長時間の常駐」「2.トラブルへの緊急対応」「3.プロジェクトの構成が建設業界と類似の重層構造をとる(労働集約的側面がある)」「4.工程が遅れるとさらに作業が増え過酷な状況になる」「5.徹夜が多い」「6.会社幹部自身が過重な労働について寛容である(意識が低い)」を挙げています。

 また、システム開発におけるメンタルへルス上の課題として、「1.人員不足、短すぎる開発期間、予算不足、ユーザーからの過剰な要求などに起因して発症」「2.顧客からの難度の高い要求、開発工程の遅延や仕様の漏れなどに対する顧客からの激しいクレームなどに起因して発症」「3.不規則な生活習慣」「4.精神疾患により長欠・休業した場合、現職に復帰することが適切でないことがある」「5.30代が多く、従来のうつ病になりやすいタイプとは違う」と述べています(参考文献:林 剛司、情報通信産業における過重労働の問題、産業衛生学雑誌2008;50:178-179)。

 図1は情報通信業界における労災補償状況をまとめたものです。労災申請件数全体から見ると約5%を占め、そのうち自殺労災については年々増加傾向にあります。

 業務が関連する精神障害は、うつ病などの気分(感情)障害、重度ストレス反応などのストレス関連障害が挙げられますが、その中でうつ病と自殺は非常に関係が深いといわれています。

SEはなぜ、うつ病になりやすいの?

 デスマーチ(death march)とは、過酷な労働条件を示す言葉ですが、Think IT読者は既にご存じなのではないでしょうか。Edward Yourdonが、混乱したソフト開発現場をdeath marchと表現したことからソフトウエア業界で用いられるようになりました。

 デスマーチプロジェクトでは、メンバーが次々と体調を崩したり、うつ病になったりして人員が減っていくため労働環境はさらに悪化し、最悪のケースでは過労死や過労自殺が発生するといわれています。しかし、このデスマーチは業界では珍しい状態ではなく、日常的であると聞きますから恐ろしいと感じます。

 徹夜や休日勤務などの長時間労働が恒常化し、さらに精神的な負荷があり切羽つまっていて一時的な休息をとることも不可能な状況では、いつ誰が心身の不調を訴えてもおかしくありません。中でもうつ病は、早期に発見して治療と休養が必要なのですが、プロジェクトの現場では時折、病気を悪化させる場面があります。

 相談ケースの中には、管理監督者から「部下の元気がない、面談をお願いしたい」と依頼され会ってみると、既に要治療レベルですぐに休養が必要であるのに「人手不足なので、休ませずに治療させたい」と相談されることがあります。

 また「休職すると再起不能になるから休職しないで治療したほうがいい」と独自の判断で不調の部下に休養を勧めない管理監督者が多くいます。うつ病の理解が不十分なことや、現場が大変で休養を与える余裕がないことも原因かもしれません。

 また、うつ病の場合、本人も思考力や判断力が低下していますから、限界まで勤務し続ける人も少なくないでしょう。しかし、そのまま勤務を継続させた場合、ほかの病気と同様、症状は悪化し「もしも」の危険が起こる可能性も高まります。そのような場合、会社や上司は本人や家族からリスクマネジメントの責任を問われることになります。ほかの業界以上に過酷な勤務状況にあることを職場全体で自覚する必要があるでしょう。

 次ページでは、うつ病とはどういう状態なのかを紹介しましょう。

株式会社メンタルヘルス・リサーチ&コンサルティング
株式会社メンタルヘルス・リサーチ&コンサルティング所長。精神科医、産業医。復職支援専門リハビリテーション施設を併設している医療機関「メディカルケア虎ノ門」の院長として、ビジネスパーソンのメンタルヘルスに精通している。うつ病リワーク研究会代表世話人。http://www.mhrc.co.jphttp://www.medcare-tora.com

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