気づいていますか?不調のサイン
安全配慮義務と管理職の責任
すっかり定着した感のある「コンプライアンス(法令順守)」という言葉ですが、現代の企業は「コンプライアンス」に対して世間から非常に厳しく見られています。最近でも、食品偽装問題や多重派遣・偽装派遣、サービス残業や名ばかり管理職など不祥事を通してコンプライアンス違反はマスコミに取り上げられています。
企業が守るべき法律の中で、職場に直接関連した法律として「労働基準法」とともに「労働安全衛生法」があります。「労働安全衛生法」は労働者の安全と健康の確保および快適な職場環境を形成することを目的に1972年に施行されました。この法律は、身近なところだと、健康診断に関することが定められています。また企業の衛生管理体制として社員数50名以上の企業に対する産業医や衛生管理者の選任、衛生委員会の設置などについても定められています。違反した場合は罰金が科せられますのでご注意ください。
企業の衛生管理体制を整えておくことは、過労死や過労自殺、最近増加しているメンタルヘルスの問題(図1)に対する企業にとってのリスク対策に大きく関係します。業務上発生した問題に対して企業としてどのような対策や措置を講じてきたかが、労災の認定や民事損害賠償の場で企業の責任として問われます。
この「企業が労働者に対して心身の健康を損なわないよう配慮する義務」は安全配慮義務と言われ、かなりの企業が安全配慮義務違反をもとに裁判で訴えられ、巨額の賠償責任を求められるとともに企業イメージを悪化させています。
また、最高裁の判例では企業(使用者)はもとより、使用者にかわって指揮命令を行う管理監督者も、部下の健康を配慮する注意義務を負っているといっています。安全配慮義務違反は会社だけの問題でなく、管理職の問題でもあるのです。
不調なとき、人は自分の不調に気づきにくい
安全配慮義務は会社だけでなく管理職においても大きな問題でありますが、部下の健康を考える上で、メンタルヘルスに関する問題は今や最も重要な問題の1つとなっています。しかし、メンタルヘルス疾患の原因の1つでもあるストレスは、その感じ方やそれによって生じる心身の変化はある程度は把握できても、不調時の症状の出方は人それぞれ違うものです。それだけに人は意識しなければ自分自身の症状にも気づきにくい、という難しさがあります。
ここで、自分のメンタルヘルスの不調に気づくポイントとして、「よく眠れない」「興味や喜びがわかない」「疲れやすく食欲がない」「気力・集中力・根気がない」「ゆううつである」「酒を飲んでも気分が晴れない」「ささいなことに優柔不断になり、仕事がたまる」「何かに追いかけられているような気がする」「普段は無い身体の症状が出る(頭痛・肩こり・疲労感・おなかが張る・動悸(どうき)など)」などがあります。
上記はいずれも日常よくあるささいな症状ととらえてしまいがちなものばかりです。例えば「よく眠れない」を例に考えてみると、「眠れないくらいで病院に行くのは大げさだ」と考えて我慢してしまう人も多いと思います。しかし「不眠」はうつ病をはじめ、多くのメンタルヘルス疾患の代表的な症状の1つです。大事なことは、「いつもの自分ではないな」と気づくことなのです。
またメンタルヘルス疾患の症状の中には、自分より周囲の人間の方が気づきやすいものが多く含まれています。1日の大半を過ごす職場にあっては、部下の不調に気づくには、管理監督者が「いつもと違う部下」に早く気づくことがポイントです。そして「いつもと違う部下」に気づいたらまず声をかけることを心がけ、その反応が「いつもと違う部下」であったなら「声かけ」だけで終わらせず、時間をとって話をする機会を設けることが必要です。
では、どうすれば部下の変化に気づけるのでしょうか。