IT運用に求められる統合フレームワーク
あるべきクラウドを支える運用管理フレームワーク
第1回では、ITシステム基盤のうち、データセンターを支えるネットワークがどのようなネットワークであるかを解説した。第2回では、IT基盤を運用するためのフレームワークについて説明する。
図1は、一般的に用いられるサービス・ビジネス管理フレームワークの全体像である。汎用的なフレームワークだが、本記事ではマルチテナント型のクラウドを念頭においていることもあり、クラウド・サービス向けとしても利用できる。
現在よく利用されている運用フレームワークが「IT Infrastructure Library v3」(ITIL v3)。5つの大カテゴリ(5冊の書籍)で構成しており、ITを使った業務システムの管理によくあてはまる。汎用性が高く、抽象度も高いため、ぜひ一度目を通していただきたい。
ITILの全容を語るのは本連載の趣旨から外れるが、もともとは、IT導入に伴うコスト効果がじゅうぶんに得られなかったという反省から英国において研究/構成されたベスト・プラクティスである。書籍として実装されている。ITシステムの運用にかかわる者すべてが目を通し理解すべきものである。
ITILと似たIT関係のフレームワークに、通信事業向けの「Telecom Operation Map」(TOM)や「Enhanced TOM」がある。クラウドを通信サービスとしてとらえた場合、こちらのほうが適した面もある。
「サービス・ビジネス管理」 - 業務視点の運用管理が重要
クラウド・サービスの運用でもっとも重要なフレームワークは、業務の視点に立った、サービス・ビジネス管理というフレームワークである。対象としているのは、IT基盤ではなく、エンドユーザー/顧客サービスのためのヘルプデスクや課金サービス管理といった業務レイヤーである。
サービス・ビジネス管理の対象は、顧客と接する部分のインタフェース/手順である。この部分はスクラッチから構成するのが困難なため、通常は既存のサービスを利用する。例えば、クラウドの先駆けである米Amazon.comでは、既存のECサイトで使っていたフレームワークを利用できたため、決済システムやカスタマ・サポート/レポーティング機能を開発する必要がなかった。
現在では、クラウド・サービスを立ち上げる際に別のクラウド・サービスを利用するというやり方も可能である。CRM(顧客関係管理)機能部分に米NetSuiteや米Salesforce.comのサービスを利用することもできる。実際、他社にクラウド・サービスを組み入れて利用してもらうために「クラウドAPI」を積極的に公開している企業が多い。
※蛇足だが、現在ではサービス事業者ごとのクラウドAPIに互換性がないため、標準化の主導権争いが起こっている。米連邦政府一般調達局(GSA: General Services Administration)のプライベート・クラウド調達仕様(RFQ: Request For Quotation)では、米Amazon.comのAPIに似たアーキテクチャーが記述されている。
次ページからは、IT管理の自動化に着目し、業務とIT基盤をつなぐサービス管理の重要性からIT基盤管理の自律化、FCの優位点までを解説する。