コネクション受付制御とは?

2008年8月6日(水)
佐竹 伸介

通信の実際と受付制御

 本連載では、Webサーバーにおけるコネクション受付制御に焦点をあて、通信量に応じた受付制御のシミュレーションや期待できる性能などについて、数値を使って検証していく。第1回の今回は、通信の世界で実現されている受付制御について紹介していく。

 電話による通話では発信者がダイヤルし、受信者が受話器を持ち上げた時点で呼(call、2端末間の物理的な通信路)が確立される。一方、インターネットなどのパケット網では、通信を行う2端末間にコネクション(connection)と呼ばれる論理的な通信路が確立される。

 いずれにしても、通信資源(伝送路の通信容量、接続・中継機器や端末の処理能力など)には限りがあるので、呼やコネクションの接続要求をすべて受け付けることはできない。

 そこで、限界を超える前に接続数を制限して、ネットワークの円滑な運用を図ることが以前から行われてきた。このようなネットワークへの入場制限は、制限する対象に応じてそれぞれ「呼受付制御(Call Admission Control)」「コネクション受付制御(Connection Admission Control)」と呼ばれている。

 いかなる呼に対しても、十分なサービスを提供できるのであれば受付制御を行う必要はない。しかし、現実的には呼の増加や要望される品質に追従し、サービス提供者が資源を無限大に増やすことは不可能である。そこでサービス提供者は、保有している資源の範囲で、呼に提供できるサービスを保証するために受付制御を行う。

 今回は、遠距離間で音声を伝える手法として通信の原点であると考えられる電話網、さまざまな情報(データ、音声およびリアルタイム性を必要とする動画など)の混在環境においても単一のネットワークでサポート可能なATM(Asynchronous Transfer Mode:非同期転送モード)、そして最後にWebサーバーのコネクション受付制御の概要を説明する。

電話網における呼受付制御

 電話にとって最も重要なことは、音声品質よりも、むしろ相手側と接続できるか否かということである。つまり、利用者にとっては呼損率(全呼に対する呼損の割合)が問題となる。電話網を考える場合、網形態には大きく分けて図1に示すようにメッシュ形とスター形の2つがある。

 スター形は、中央の交換機からすべての交換機に対して放射状に接続される形態である。各交換機の要求に対し、中央の交換機が切り替えを行うことであて先と通信できる。伝送路敷設に関しては、交換機の台数分でよいので、比較的経済的であると考えられる。しかし、中央交換機に障害があると、電話網すべてが停止してしまい、全く通信が行えなくなる可能性を有している。つまり、経済的ではあるが信頼性の低い網形態である。

 メッシュ形は、交換機がそのほか複数の交換機と相互に、網目状に接続される形態である。交換機がそのほかすべての交換機と相互接続される場合は、特にフルメッシュという。あて先交換機への経路が複数存在するので、通信路や交換機が故障した場合でも、代替経路により通信を行うことが可能である。また、トラヒック状況により通信路を変更することも可能である。つまり、スター形に比べ、信頼性が非常に高い形態であるといえる。

 しかし、伝送路の敷設数は端末数をn台とすると、フルメッシュのとき、n(n-1)/2となり、nの2乗の割合で増加する。つまり、経済的な網形態とはいえない。

 実際アナログ電話網では、日本に8局存在する総括局間では、信頼性を高めるためメッシュ形になっており、総括局の傘下にある中心局以下では、信頼性は低いが経済的なスター形になっている。

 しかし、どのようなネットワークを構築しても、通信資源が有限である以上、呼損は発生する。そこで実際は、想定される接続要求の範囲内で呼損率の上限を設定し、それを上回らないように回線数を増やしたり、交換機を増強したりすることで呼受付制御を行っている。

 次はATMにおけるコネクション受付制御について説明する。

回線交換方式と蓄積交換方式

 データ通信ネットワークにおける交換方式には、回線交換方式(circuit switching)と蓄積交換方式(store-and-forward switching)の2つがある。

 回線交換方式では、送受信する2つの端末間で回線を占有することによりデータの送受信が行われる。一度、回線が接続され通信路が確立されると、2つの端末のどちらか一方が切断するまで通信路は維持される。つまり、通信路が確立されれば、あて先などの情報を一切必要としないので、交換機は単なる中継機となってしまう。よって、伝送遅延およびデータ転送速度が一定に保たれるので、リアルタイム性は非常に高い。

 しかし、データ転送が行われていない場合でも通信路は確立されたままなので、利用効率が低い。また、交換機では誤り制御は行われないので、誤りについてはある程度、許容せざるを得ない。これらの理由により、音声や動画像の通信に採用される場合が多い。

 蓄積交換方式では、送信データはパケットと呼ばれる可変長データ単位に分割され送信される。可変長データを扱うため、パケットを受信した交換機は、ヘッダ位置の特定を行うために到着パケット全体を交換機のメモリに格納して、ソフトウェア処理により、あて先アドレスの確認を行って経路選択を行う。

 この作業は2つの端末間に介在するすべての交換機で同様に行われる。つまり、伝送遅延は無視できないほど大きくなってしまう。しかし、誤り制御が適宜行われるので誤りはほとんどなく、通信路を占有することもないので利用効率は高い。これらの理由により、リアルタイム性を必要としないデータ転送(ファイル転送など)に採用される場合が多い。

ATMにおけるコネクション受付制御

 ATMの伝送方式は、光ファイバケーブルの高品質化や広帯域化を背景に、上記の相反する2つの交換方式のそれぞれの長所を生かして統合化し、さらにQoS(quality of service)と呼ばれる通信品質技術を取り入れたものである(図2参照)。

 ATM伝送方式の3つの特徴を以下に示す。

 1つ目は、データ転送単位がセルと呼ばれる固定長であることだ。蓄積交換方式では、可変長データ転送単位はパケットであるが、ATMのデータ単位であるセルは固定長のヘッダとデータフィールドにより構成される。固定長なのでヘッダ位置も定まっており、交換機はセル全体をメモリに格納することなく、ハードウエア処理により経路選択を行うことが可能となるため、高速な経路選択が実現可能である。

 2つ目は、ネットワーク伝送遅延を小さく抑えることができることである。これは、高品質な光ファイバーの使用により、中継交換機間でのデータ転送の信頼性が向上するため、誤り制御など、信頼性に関する仕組みを簡素化することができるためである。

 3つ目は、QoSにより、送信しようとするデータの特性に応じた通信が可能となることだ。例えば、高品質な音声や映像などの転送が可能である。

 ATMでは、呼の設定時に受付制御を行う。まず、送信側の端末は呼設定時に、データ転送を行うために必要となる帯域、遅延特性、廃棄特性などのトラヒック特性やサービス品質クラス(QoS)を決定し、ネットワークとの間で交渉する。

 ネットワーク側は、すでに設定されているコネクションのQoSに影響を与えず、要求された呼の受付が可能かどうか確認し、可能な場合のみ、呼の設定要求を許可する。そして、送信側、受信側端末双方に許可された旨を通知し、通信が開始される。

 次は、Webサーバーにおけるコネクション受付制御について説明しよう。

つながって当たり前、早くて当たり前のWeb

 インターネットアクセス回線の広帯域化、低料金化、さらに携帯電話向けのコンテンツの充実などによりWebサイトにアクセスするユーザーは急激に増加している。

 それらユーザーは、Webサイトに接続できることは当然のことと考え、さらに、迅速な応答も当たり前のことと考えている。以前は、リクエストを送信してから8秒以内に応答が得られないと、ユーザーはサイトの閲覧をやめてしまうという「8秒ルール」が有名であったが、現在はさらに短い時間での応答が求められている。つまり、ユーザーはWebサイトに対して、確実なコネクションの確立および高速な応答の双方を求めていることになる。

 Webサイトに接続できることは当然であると考えると、高速な応答を得ることを重視することになるが、そのためにはWebサーバークラスタにおける並列処理効果やパケット通信網が有するパイプライン効果の特性を生かして、複数コネクションを確立し、並列ダウンロードを行えばよい。

 現にユーザーが使用している多くのWebブラウザでは、複数コネクションによる並列ダウンロードをサポートしている。しかし、Webサイト側では高速な応答だけでなく、確実に接続できるサイトを目指す必要がある。

Webサーバーにおけるコネクション受付制御

 まず、高速な応答を提供することのみに着目すると、Webサイトに接続できるコネクション数を制限することが考えられる(図3)。

 Webサーバーは電話交換機のように、接続さえできればサービスが開始される即時式システムでなく、接続できても先にサービス中のリクエストがあった場合、サービスを受けられるまで待たされる待時式システムである。よって、コネクション数の上限を設定して「入場制限」を行う必要がある。

 しかし、コネクション数の上限を設定するとコネクション棄却率が増加する可能性が高くなる。つまり、そのサイトに接続できないユーザー数が増加することになるのだ。このことは、電子商取引などにより収益を得ているサイトにとって大きな問題である。

 次に、確実に接続できるサイトを構築しようとすると、ユーザーからのコネクション確立をすべて受け付けるようにすることが考えられる。しかし、待時式システムであるWebサーバーにおいて、コネクション確立要求を上限なく受け付けてしまうと、リクエスト数が増え、実際にサービスを受けている時間よりも待ち時間のほうが大きくなるリクエストが急増し、ユーザーに応答が返る時間が遅くなる。

 ここまでで述べたように、接続してくる全ユーザーの要望に応えようとすると、応答時間とのトレードオフが存在する。よって、Webサイト側では、ユーザーが許容できる応答時間、Webサイトが許容できる棄却率を検討しコネクション受付制御を行う必要がある。

 第2回では、Webサーバーにおけるコネクション受付制御用パラメータについて説明する。

平成5年岡山電業(株)入社後、ネットワークシステムの提案・設計を主たる業務として従事。平成15年岡山県立大学大学院入学。平成20年同大学院修了。主にWebサーバシステムの負荷分散に関する研究を行っている。博士(工学)。

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