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Unite 2017レポート ~産業分野の3Dコンテンツ開発最前線~

2017年5月26日(金)
加藤 久之

Think ITの連載記事「Unreal Engine 4で取り組む ビジネス系VRコンテンツ開発」の執筆を担当している、富士ソフトの加藤です。

5月8、9日の両日、東京国際フォーラムで国内最大のUnity開発者イベント「Unite 2017」が開催されました。Unityはユニティ・テクノロジーズ社が提供するゲームエンジンで、主にスマートフォン向けのゲーム開発に用いられる開発環境ですが、本イベントにはゲームのみならず幅広い業界が出展していました。その中で今回は産業系の講演内容を中心にレポートします。

UnityはHoloLensの主要な開発環境として利用されていることから、産業分野でも高い注目を集めており、ここ1~2年で産業分野での活用事例が出てきました。今回のレポートでは、「Unityがどのように産業分野で用いられているのか」「どんなことができるのか」というところを中心に紹介します。技術的な前提知識は必要ありません。あまりUnityを詳しく知らない、という方もぜひお読みください。

キーワードは「CAD」

Unite 2017では産業分野での利用に関する講演が8件設けられていましたが、中でもUnityでCADデータを扱う内容のものが3件あり、目立っていました。

<Unity×CADの講演>

■「UnityとHoloLensとクラウドの連携による3DソリューションAR CAD Cloud」(ソフトバンク コマース&サービス株式会社、株式会社ホロラボ)
■「Unity×エンジニアリング-CADデータ活用や三次元点群ビジュアライズツールの事例紹介」(三菱電機エンジニアリング株式会社)

製造、建設分野などの非ゲーム会社では、CADデータの有効活用が課題となっています。Unityには「Unity CAD Importer」というコンポーネントの親子情報を損なわずにCADデータをインポートできるプラグインがあります。CADデータを扱う環境が整っているので、製造、建築分野で広く用いられているCADデータを使って部品の組み立て手順や設計の確認ツールを制作するといった形でも利用されているようです。

「Unity×エンジニアリング-CADデータ活用や三次元点群ビジュアライズツールの事例紹介」の概要

Unityを使って産業分野向けのコンテンツ開発を行っている方とお話しすると、「CADデータやCTスキャンのデータなど企業や研究機関が持っている3Dデータ資産を利用するのが大切だ」と聞きます。最近、産業分野でUnityの利用が進んでいる背景には、CAD Importerなどインポートプラグインの充実により、Unityが扱えるデータの幅が増えたことが大きいのかも知れません。

■「3次元CAD VR化最速ツールの秘密」(DVERSE Inc.)

建築土木不動産業界向けのVR/ARソフトウェア開発を手掛けるベンチャー企業DVERSE Inc.の講演で紹介された「SYMMETRY」は、CADデータを簡単かつ高速にインポートし、VR空間でレビューできるツールです。JASONの記述方法やマテリアルのアセットバンドル圧縮方式にまでこだわった徹底的な最適化により、比較的大きなCADデータでも数秒でVR空間に表示してレビューを行うことができ、産業向けツールとして実用的な水準に達しているように感じました。

DVERSE Incによる「SYMMETRY」の紹介

Steamで無料公開されているとのことなので、HTC Viveをもっている方は試してみてください!

HoloLens講演は産業向けの内容がほとんど

日本マイクロソフト社によるとHoloLensアプリの9割がUnityで開発されているらしく、HoloLensに関する講演も多くみられました。講演内容は産業用途向けがほとんどで、HoloLensの産業分野での注目の高さを伺わせました。

<HoloLensの講演>

■「UnityとHoloLensとクラウドの連携による3DソリューションAR CAD Cloud」(ソフトバンク コマース&サービス株式会社、株式会社ホロラボ)
■「PepperをHoloLensでナビゲーションする技術」(新日鉄住金ソリューションズ株式会社)
■「Microsoft HoloLensが実現するMixed Realityの世界」(日本マイクロソフト株式会社) ※講演スライド非公開

HoloLensに関する講演では、ホログラフィックス機能に関する内容がほとんどだと思っていたのですが、HoloLensの持つ空間認識機能にフォーカスした内容が半分程度を占めていました。HoloLensから取得した空間情報をもとにPepperをナビゲーションし移動させるデモ(新日鉄住金ソリューションズ株式会社)や、HoloLensを装着して会場を歩いてキャプチャした情報を取得するデモ(マイクロソフト)が行われました。

HoloLensを使ったPepperのナビゲーションデモ(新日鉄住金ソリューションズ株式会社)

HoloLensを装着して会場を歩いてキャプチャした情報を取得するデモでは、HoloLensを被って少し歩くだけで通路や障害物を正確に認識できることが示されました。精度、認識速度共に非常に良好であるとの印象でした。開発者の間ではHoloLensの空間認識能力も高い注目を集めているようです。

Googleの考えるARとは

■「What to Pack: Exploring VR&AR with Daydream and Tango」(Google合同会社)※講演スライド非公開

Google シニアプロデューサーAlex Lee氏による講演「What to Pack: Exploring VR&AR with Daydream and Tango」では、GoogleのARに対する定義として、重力や物体の位置関係が現実に即している必要があるという内容が語られました。「ポケモンが画面の真ん中にいるだけのポケモンGoはARとは言えない」という爆弾発言も飛び出しました(ポケモンGoの開発元であるNianticはGoogleの社内スタートアップで始まった企業)。

Googleの考えるARの概念を示すスライド(猫がクッションの陰に隠れている)

Tangoはまだ対応デバイス自体が少ない上、日本では未発売のものも多いですが、今後多くのスマートフォンに搭載されると考えられます。今のうちから開発ノウハウを蓄積しておけば、スマートフォンARが流行したときに上手く波に乗れるかもしれません。

VRと知覚

■「VRで探り,活用する,人の知覚の仕組み」(東京大学廣瀬谷川鳴海研究室)

最近は学術研究の分野でもUnityが頻繁に利用されていることから、東京大学の研究室による講演もありました。

人の知覚に関する話がメインでしたが、VR/ARコンテンツの開発には技術的な部分だけではなく“人の知覚をうまく騙すためのノウハウ”が必要不可欠なため、会場は満席となっていました。

空間知覚とは

Unityで実際よりも大幅に長い指でピアノを弾くVRコンテンツを開発したところ、体験者がその指をまるで自分の指であるかのように感じたという事例や、ラバーハンド錯覚の例をもとに、視覚情報が皮膚の感覚情報に影響を与えることなどが示されました。

ラバーハンド錯覚

ARによる空間UIが一般に普及するような時代が来れば、人の知覚に関する知識もエンジニアに必要なスキルの1つとなるかもしれませんね。

■「VR MAGIC! ~キャラクターに命を吹き込んだこの4年間の記録~」(株式会社エクシヴィ)

VRが今ほど一般的になる前のOculus DK1時代から日本のVR開発者コミュニティを牽引してきたGOROman氏が代表取締役を務める株式会社エクシヴィによる講演では、キャラクターに呼吸をさせるなど、キャラクターに存在感を持たせるための手法や、VRの今後について語られました。

GOROman氏の作品であるMikulusをプレイするとよく分りますが、ただ3DモデルをVR空間上に配置しているのと、呼吸や視線などキャラクターの存在感を高めるための処理が施してあるのではキャラクターの存在感が全く違ってくるので、VR開発に興味のある人には是非スライドをご覧ください。

ちなみに、講演ではOculus創業者パルマーラッキー氏が壇上に上がり、VR空間のキャラクターを自分の動きと同調させるコンテンツをプレイする一幕があり、来場者を驚かせました。

VR空間のキャラクターを自分の動きと同調させるコンテンツを体験するOculus創業者パルマーラッキー氏

まとめ

Unite 2016ではUnityの産業利用に関する講演は1件もありませんでした。しかし、ここまで紹介したようにUnite 2017では8件もの産業利用に関する講演がありました。

Unityが製造、建設、医療などの分野で高い注目を集めているAR/VRの開発環境として最大のシェアを占めていることや、GPUの高性能化により一般的なPCやスマートフォンで3Dコンテンツを扱うことができるようになってきたことが主な要因と考えられます。AR/VRの普及そしてGPUの高性能化に伴い、今後産業分野でのUnityの利用がますます進んでいきそうです。

Unityに興味を持った方はぜひ一度Unityに触れてみてください。個人使用であれば、無料で使用できます(ダウンロードはこちら)。

~おまけ:Unityにおける業界動向~

Unityを使ったソリューションの案件が増えることで、3D産業ソリューション分野で事業を展開する企業や、そこで業務に従事するエンジニアが潤うのかといえば、一概にそうとは言えません。

今Unity技術者を抱えている企業の多くがスマートフォン向けのゲームアプリ開発会社です。ゲームアプリ市場における競争が極めて激しくなっているので、3D産業ソリューション分野でのUnity活用事例がある程度出揃った段階で、それらの企業も3D産業ソリューション分野へ参入を図ることは必然と言ってもよいでしょう。

Unityを展開するユニティ・テクノロジー社自体がUnityの産業利用に力を入れていること、また産業分野でのUnity活用事例が話題になり始めていることから、個人的には2018年あたりから、そのような動きが始まると考えています。

Unite 2017産業分野向け講演一覧(産業分野で利用できそうな講演を抜粋)

  1. UnityとHoloLensとクラウドの連携による3Dソリューション「AR CAD Cloud」
  2. Unity×エンジニアリング-CADデータ活用や三次元点群ビジュアライズツールの事例紹介-
  3. みんなのスマートフォンでここまでできる ~Kudan ARを使ったモバイルAR/MRの世界
  4. PepperをHoloLens でナビゲーションする技術
  5. 「日本列島VR」および「HoleLenz」の開発事例ご紹介
  6. Virtual Design and Construction + AR/VR ~建築におけるUnity活用事例~
  7. 3次元CAD VR化最速ツールの秘密
  8. VRで探り,活用する,人の知覚の仕組み

※講演スライドの一覧はSlide Shareの「Unite 2017 Tokyo」を参照してください。

富士ソフト株式会社
富士ソフト株式会社で業務系のSEをしています。2015年から業務外でVRに取り組み始め、Oculus RiftやHTC Vive、スマートフォン等でVRコンテンツを開発し、イベントでデモを行ったり、Oculus StoreやGooglePlayでVR作品のリリースをしたりしています。そんな活動について社内のSNSで発言していたところ、「メディアでコラムを書いてみないか」という話になり、今回の連載を書かせていただくことになりました。日本VR学会認定 VR技術者。

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