第1回 ホロス2050未来会議「第1章 ホロス2050とは? /BECOMING」レポート

2017年5月24日(水)
狐塚 淳(こづか じゅん)

2017年5月11日、第1回 ホロス2050未来会議「第1章 ホロス2050とは? /BECOMING」が、御茶ノ水デジタルハリウッド大学駿河台キャンパスで開催された。

「ホロス(Holos)」とは、昨年翻訳が出版され話題になった『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)の著者ケヴィン・ケリーが提唱している、将来登場する「世界的規模のインタラクティブな超生命体」のことだ。彼はテクノロジーによって全世界の人々がリンクし、人工知能やセンサーとつながることでホロスを形成すると述べている。

ホロス2050未来会議の開催趣旨は、同書に登場する12のキーワードを手掛かりに、「30年後の未来を考えていこう」というものだ。第1回のテーマは同書に登場した「ディストピアは無法地帯というよりも息が詰まる官僚主義が支配している」という言葉を手掛かりに、インターネットが発達普及してきたこの30年の後に「なぜ世界的な国家主義の台頭と上からの管理社会化が進行しているのか」を考察し、ディスカッションした。

12のキーワードを手掛かりに考える未来

冒頭で、ホロス2050未来会議の発起人の1人である服部 桂氏がケヴィン・ケリーの人物を紹介した。ケリーはかつてカウンターカルチャーの代表的なメディアだった「ホールアースカタログ」の編集者で、のちに「WIRED」の初代編集長となった。その後もデジタルテクノロジーが人間と社会を変革していくことについて思考を重ね、次々に著作を発表してきた。

ホロス2050未来会議 発起人の1人である服部 桂氏

服部氏は『<インターネット>の次に来るもの』の訳者であり、同書の目次でもあるケリーが提唱する12のキーワード(BECOMING/COGNIFYING/FLOWING/SCREENING/ACCESSING/SHARING/FILTERING/REMIXING/INTERACTING/TRACKING/QUESTIONING/BEGINNING)を説明し、これらのキーワードを手掛かりに未来を考え、討論していくホロス2050未来会議について「将来的には米国のTEDのような議論の場になってほしいという壮大な夢を持っています」と述べた。

幸福な未来という仮定は人間を不幸にする

続いて、ゲストスピーカーの映画監督 押井 守氏が登壇。押井監督は自身の66歳という年齢に触れ、「未来よりも人生をどう終えるかに関心がある」ため、この場での発言には向かないが、「未来を考えることについてなら考えられる」と話の火ぶたを切った。

映画監督 押井 守氏

現在、一般的に未来は時代・時間の経過とともに進化し、高度化、複雑化していくと考えられていると指摘した上で、「しかし、高度化、複雑化が必ずしも幸福に結びつくとは限らない。攻殻機動隊の草薙素子は最後AIのようなものと融合しより高次な段階へ進んでいくが、それが幸せといえるだろうか?」と疑問を投げかけた。

押井氏はさらに、「『未来が現在より良くなる』という思想が、一般的になったのはごく最近だ」と述べ、キリスト教圏では100~200年前までエデン追放の原罪により時代が進むとともに世の中は悪くなっていくという考え方が一般的であり、仏教も56億年後まで救いはないという認識だったとして、「未来が良くなるという思想はダーウィンの進化論以後、科学の進歩と期を同じくして広まったものだ」と説明した。

「素晴らしいイメージの未来を考えると、人間はどうにかつじつまをあわせようとする。未来が幸せだという世界観は絶対ではなく、実際には人間には過去も未来もなく現在だけが確かだとも言える。過去は現在を考えるための根拠に過ぎないし、未来は脳の妄想でしかない。幸福論は大切だが、幸福な未来という仮定は必ず人間を不幸にする。人間は若いころは進歩すべきだという思想に捕らわれていて、私も誰よりも頭が良くなりたいと思ったし、映画を作るようになってからは絶対的な映画を作りたいと考えていた。しかし、今は映画を作るという行為を楽しむことに重点を置いて、映画との幸せな関係を築いている」と、未来と現在についての考え方を述べた。

今を疑うことが未来を考えることに繋がる

スピーカーとして最後に登場した「WIRED」編集長の若林 恵氏は、大学でフランス文学を専攻したあと「月刊太陽」の編集などに携わってきた。「ITの理解については読者の立場に近い」と前置きした上で、「未来の価値観は現在とは違うだろうから、現在との差分を考えていくことが重要になるだろう」と述べた。

「WIRED」編集長 若林恵氏

多くの企業が「WIRED」の未来に対する見解を聞きに来るが、それを考える具体的な方法として若林氏が挙げているのは「違う今を考えればいい。もしかしたら違った今のあり方もあったのではないだろうか」ということだ。オルタナティブな現在を考え、現在のあたりまえを考え直す。「今をきちんと疑うことが未来を考えることにつながっていく」と述べた。

パネルディスカッション
『1984』のような監視社会が現出しつつある

講演後にはパネルディスカッションが行われた。ホロス2050未来会議の発起人の1人であり司会の高木 利弘氏より、パネルディスカッションのテーマ「ケリーの主張から未来を考えるためのシンプルな法則のヒント」として図案化された「○と△の世界の比較」が提案された(図)。

パネルディスカッションで高木 利弘氏より提案されたプレゼンテーション

高木氏は「○はインターネットの水平分散の世界、△は従来のピラミッド型の組織を表す。インターネットの登場以降、時代とともに△は減少し、昨年は○と拮抗するくらいになったが、△の上位5%を占める指導者たちの揺り戻しがある。このエリートたちの動きは監視社会への方向性を強め『1984』のような世界が現出しつつある」と解説した。

これについて、押井氏は「インターネットを作ったのも軍だし、近代以降の人間社会はピラミッド型の国民国家や軍によって現在まできており、ピラミッド構造が人間文化を作ってきた歴史まで否定することはできない」と述べ、インターネットは国家を小さくすることには成功したが、逆にISも生み出してしまったと指摘した。

この意見に若林氏も同意し、「テクノロジーには良い面も悪い面もあり、インターネットはマイノリティーのコミュニケーションを非常に豊かにした半面、テクノロジーに対する楽観主義がトランプ大統領を生み出してしまった」と述べた。

一方で、服部氏は「ケリーが主張する『避けられないもの』としてテクノロジーが進歩していく中で、未来を考えるうえで幸せや不幸を自分で選べるかどうかが重要になる」と述べた。「支配の象徴である大型コンピュータに対してパーソナルコンピュータが登場してきた。ビッグデータをみんなが使えるテクノロジーにすることは、人間解放の可能性、人間性の定義につながっていくのではないか」と発言した。

パネルディスカッションでは白熱した意見交換が繰り広げられた

最後に、押井氏は「技術は商品という形で世の中を変えていく。自分はデジタルリテラシーの低い人間だが、そういう人間も3年前にスマホを持って毎日充電している。本を執筆できるのはパソコンのキーボードのおかげだ。映画の世界でも技術は多くの変革をもたらしている。ゴダールは自意識を変えたが、THX(米国が発祥の映画関連企業)のもたらしたもののほうが革新的だ。社会において技術は高度な商品化という形で成立し普及する。ラジオで何を考えるかの前にラジオは誕生して、それをナチスが活用した。インターネットも仕組み自体が先にできて、人はその技術とのギャップを埋める利用法を模索してきた。こうしたギャップを意識し、ありえたかもしれない現在を考えることが、未来を考えることだ。これからはネットに合わせて人がどう変われるかがキーになってくるだろう」とテクノロジーと人間の関係の未来に思いを馳せ、ディスカッションを結んだ。

人間とテクノロジーの未来に思いを馳せ熱く語る押井氏

第2回 ホロス2050未来会議「第2章 人工知能の現在/COGNIFYING」
どうすれば人間はもっと人間らしい仕事に集中できるか?

2017年6月2日(金)19:00~
御茶ノ水デジタルハリウッド大学駿河台キャンパスで開催予定

詳細は公式サイトを参照。
チケット購入はhttp://holos2050.peatix.com/

著者
狐塚 淳(こづか じゅん)
コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集を経て、フリーランスのITライターに。現在は雑誌やWebメディアで、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなどの記事を中心に執筆している。

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