NoSQLデータベースのMongoDBのカンファレンスMongoDB World 2017がシカゴで開催
非構造化データを扱うスキーマレスデータベースでは一番歴史があり、定番と言っていいMongoDBが、シカゴで年次のカンファレンスMongoDB World 2017を開催した。3日間の会期にユニークなキーノートセッションからテクニカルなブレークアウトセッション、ユーザーによる事例紹介、パートナーソリューション展示、認定トレーニングなどが凝縮されたカンファレンスとなった。
今回の記事では、2017年6月19日から21日までシカゴのHyatt Regencyで開催されたMongoDB World 2017から20日のキーノート、21日のキーノートセッションの概要を紹介する。この2日間のMCとして進行を務めたのはMongoDBのCMOであるMeagen Eisenberg氏とVP、Field EngineeringのRichard Kreuter氏だ。
自治体用アプリWindyGridをGitHubで公開する時代
「キーノートは、二人の軽妙な掛け合いからスタートした」と書きたいところだが、台本を読んでいるのが丸わかりという、この手のカンファレンスに登壇するIT企業のエグゼクティブの中では、まじめに稽古をしたんだなと思わせる印象のオープニングトークだった。続いて紹介されたシカゴ市のチーフデータオフィサーであるTom Schenk氏は、「WindyGrid」プロジェクトを紹介した。WindyGridは、シカゴ市が進めるオープンソースソフトウェアとオープンデータを活用したプロジェクトとそこで用いられるアプリケーションだ。
これは市民から寄せられる緊急通報の911や苦情にあたる311のコールがどの地域で多く発生しているのか、レストランなどに対する衛生検査の結果と気象条件、犯罪発生の傾向などシカゴ市が持つ様々なデータと、MongoDBをバックエンドにしたデータ分析システムとを組み合わせたアプリケーションで、シカゴ市の通称である「Windy City」から名前をとってWindyGridと呼ばれている。WindyGridのユニークな点は、ベースとなっているコードが「OpenGrid」という名前の元にGitHubで公開されており、「このコードを使って他の自治体でもデータ分析を進めて欲しい」という意図が現れているところだろう。
プレゼンテーション後にSchenk氏に訊いたところ、実際にはシカゴ市でもこのアプリケーションの推進には数年単位で調整が進められたと言う。通常のウォーターフォールによる開発ではなくアジャイルな開発を採用し、コードをGitHubで公開するという昨今のベンチャー企業のようなやり方で、シカゴ市民だけではなく他の市などにも活用できるようにした部分に相当な苦労があったようである。
CEOが振り返るMongoDBの10年
次に登壇したのがMongoDBのCEOであるDev Ittycheria氏だ。
Ittycheria氏はこれまでのMongoDBの歴史を振り返り、2007年の創業から10年という時間の中でエポックとなる年として2007年に注目して紹介した。それによれば、2007年はNetscapeがその開発を止め、GitHubやFacebook、そしてMongoDBなどが創業した年であると言う。つまり最初のインターネットイノベーションから次の世代に「世代交代が行われた年」ということだろう。実際にはGitHubの創業は2008年、Facebookはもう少し早く2003年だが、ミレニアムの最初の10年で明らかに新しいイノベーションが起こり始めたということを伝えたかったようである。その中でMongoDBは、オープンソースソフトウェアとして多くの改善がなされたと語った。大きなトピックとして、MongoDBが運営するクラウド版のDB as a Service(DBaaS)であるMongoDB Atlasを挙げ、すでにクラスターを構成するサーバーの数が2,700台に到達したことが紹介された。
その後、Ittycheria氏はMongoDBの顧客であるMorgan Stanleyの担当者を壇上に呼び、Morgan StanleyがMongoDBを使ってアプリケーションを作り替えたという事例を紹介した。
MongoDB Atlasを支えるBaaS MongoDB Stitch
その後、いよいよ新しい情報の開示ということでCo-FounderでありCTOでもあるEliot Horowitz氏が登壇し、MongoDBに関するより詳しいアップデートを行った。今回のイベントでは、大きく2つの発表が行われた。一つはDBaaSであるMongoDB Atlasのバックエンドに接続されるBackend as a Service(BaaS)である「MongoDB Stitch」の発表、もう一つがMongoDB Atlasをホスティングするパブリッククラウドとして、従来のAWSに「AzureとGCPのサポート」が加わったことである。
特にAzureとGCPのサポートの発表の際には期せずして会場から拍手が起こり、参加者からの要望が高かったということが伺える一幕であった。
MongoDB社によれば「MongoDB Stitch」はMongoDB Atlas専用のBaaSであり、REST APIを使ってTwilioやSlackなどの他のサービスと連携するためのゲートウェイとして動作するものであるという。実際に展示ブースにおいて説明を聴いてみたが、すでに市場に存在するApigeeや3Scale、MashapeなどのAPIゲートウェイと比較すると、機能的にはまだ足らない部分があることは認識しており、今後の開発に期待したいと思う。
さらに、まったく新しい製品のプレビューとして「MongoDB Charts」とシンプルに名付けられた製品のデモが行われた。これはMongoDB専用のデータビジュアライゼーション(可視化)ツールと位置付けられており、これによって他社製品を導入しなくても基本的なデータビジュアライゼーションが可能になるという。
ダッシュボードから様々なグラフのタイプなどを選択することで、非常に簡単にビジュアライゼーションが可能になるということだ。2年前のMongoDB Worldでは、Tableau+MongoDBのソリューションがデモとして紹介されていたことを考えると、MongoDBが自社製品としてChartsを出してきたことの意味は、MongoDBのエコシステムの中でビジュアライゼーションについては自社で完結させるべきと考えているということだろう。
朝のキーノートセッションはここで終わり、その後ブレークアウトセッションとなった。そしてユニークなのは、夕方5時過ぎからもう一つ別のキーノートセッションが設けられていたことだろう。ここではMongoDB Stitchのより詳細なデモと説明、IBMのフェローである研究者であるSaška Mojsilović氏によるデータサイエンティストに関するIBMの取り組み、MongoDBにおいてシステムインテグレーターなどをまとめるパートナープログラムのTopであるVPのAlan Chhabra氏と顧客との対談、さらに、そしてスタンドアップコメディアンであるMatt Parker氏による軽妙な数学にまつわるトークが続いた。MongoDBとしてはどのようなメッセージを伝えたかったのか、少し戸惑うようなコンテンツが連発された印象だ。
とにかく「参加者を飽きさせない」「様々なコンテンツを提供する」というのがゴールだとすれば、成功していたと言えるだろう。MongoDB StitchがSlackやTwilioなどの連携を可能にするゲートウェイとして良いポジショニングを参加者からは得ていたという感触は、それほど間違ってはいないだろう。