ディープラーニングの実社会での活用を推進ーDeep Learning Labキックオフセミナー
ディープラーニングに関する開発事例や最新技術動向を発信するコミュニティ「Deep Learning Lab」は、都内でコミュニティのキックオフイベントを実施した。開催に先立ち日本マイクロソフトの新井氏が登壇、コミュニティ発足の背景となったPreferred Networks社(以降、PFN)との戦略的協業に触れ、「人工知能や深層学習の実社会での活用を推進していく、この分野でもパブリッククラウドが活用できるようになってきた」と抱負を述べた。
PFNとマイクロソフトの提携が意味するもの
イベント冒頭では、株式会社Preferred Networks 取締役 最高執行責任者 COOの長谷川 順一氏が登壇。PFNは、その前身である検索エンジンや自然言語処理を手がけるPreferred Infrastructureから2014年にスピンアウトした、IoTとAIで大規模なデータ解析を行うスタートアップ。2014年からの3年でスタッフが90人を超えるなど急激に拡大している。FANUCとのロボット自動化、TOYOTAとの自動運転やコネクテッドカーにおける提携に代表されるように、技術力の高さが話題になっている。そうした産業界で得られた知見を、ChainerやDIMoとして提供していき今後事業の裾野を広げていきたい考えだ。
同氏は、プロダクトとして提供しているDIMo(Deep Intelligence in-Motion)を紹介した。DIMoは、同社がOSSとして開発を進めるSensorBee(ストリーム処理エンジン)やChainer(深層学習のフレームワーク)をベースに、画像解析やセグメンテーション、外観検査、異常検知、数値予測、強化学習、パラメータ最適化などといったアルゴリズムをパッケージ化したもの。具体的な協業内容としては、ChainerやDIMoを、マイクロソフトのAzureに積極的に統合していく。なお、両社の協業はテクノロジー、人材教育、マーケティングの3つの軸をもった包括的なものになる。今後も「DIMo on Azureのパートナーを増やしていきたい」と語った。
Chainerは柔軟にデータを扱える「Define-by-Run」が特徴
続いて登壇したのは同社リサーチャーの齋藤 俊太氏。DIMoのパッケージ内容についての詳細もあったが、本レポートでは主にChainerについての説明を取り上げる。
Chainerは、ニューラルネットの設計、学習、評価などの一連の機能を提供しているフレームワーク、「Define-by-Run」という特徴を解説した。別の「Define-and-Run」というモデルに比べて、途中で定義を変更する(by-Run)ことができるためより複雑なデータを扱えるのがメリットになる。現在はバージョン2系をリリースし、大幅なメモリ消費量の削除やCuPyの切り離しなどを実施した。また、Chainerの3つの追加パッケージ、分散学習のChainer MN、強化学習のChainer RL、画像認識のChainer CVを紹介。MNでは128マルチGPU環境によって100倍の高速化に成功し、他のフレームワークに比べても優位性があるとした。
現状では、Windows上でChainerをインストールするためには多くのステップを要することに触れ、これを省力化していく予定だと述べた。具体的にはビルド済みバイナリの配布などを検討しているとのこと。また、Azureのデータ サイエンス仮想マシン(DSVM)では、近日中にCuPyとChainerがプリインストールされる。Chainer MN環境のAzure Resource Managerのテンプレートも公開予定になっている。
AIの導入ニーズとシーズには大きなギャップがある
2社目は、株式会社Ridge-i 代表取締役社長 柳原 尚史氏が「ディープラーニング技術の最新事例と導入の課題」と題した講演を行った。同社はDIMoの導入支援を手がけるPFNのパートナー企業の1社でもある。
柳原氏はこれまでの実績をもとに、実際にAIを導入していく際の、相談→活用戦略→技術詳細検討→開発実証実験→周辺開発商品化→販売サポートといった流れを紹介し「特に活用戦略〜開発実証実験が導入を阻む最大のボトルネック」だとした。なお、これだけAIがニュースで騒がれているのに導入が進みづらいのは、AIという言葉が曖昧で、ビジネスサイドはもちろん技術者側でも技術選定が難しい(例えばディープラーニングでも数十手法ある)といった現状を解説した。
ディープラーニングは第3次AIブームの中核をなすテクノロジーで、豊富な学習素材の獲得、GPUの高速演算、また手法が成熟してきたことなどに触れ、「ゲームチェンジャーになると確信した」と語る。実際に、AlphaGoに代表されるようなここ数年のニュースでは、ディープラーニング(深層学習)と強化学習、またそれらの組み合わせの深層強化学習による事例がほとんど。ディープラーニングのパターンを組み合わせることによって精度が高まっている。
従来のシステム設計に比べて、最適なデータとロジックがあれば短時間で実施できることもディープラーニングの特徴だ。機械学習では人間が設計する必要がある(特徴抽出の壁と呼ばれる)が、ニューラルネットワーク/ディープラーニングではルールベースでは解けない問題も解決できる。例えば、センサー時系列データに応用したFANUCの事例では、既存手法で検出が遅かった異常を事前に検出できた。また、Spotifyの波形データによる事例は、楽曲の自動分類が実用段階になっているという。
ディープラーニングは認識から生成・行動へ進化中
柳原氏は今後の動向として、ディープラーニングは単なる認識から生成・行動までもカバーしていくと語った。その事例が自動着色の「PaintsChainer」、自動作曲の「Shimon」、また同社が手掛けた「自動彩色で白黒映像をカラー化する技術」などだ。
そういった経験を踏まえて、「ビジネスニーズを満たすには汎用化ではなく過学習の工夫をしないと商品化レベルには至らない。競争優位のためには、ディープラーニングやその他の組み合わせをいかにして落とし込んでいくのかがさらに需要になっていく」とした。
DIMoを用いた映像解析の実演
続いての講演は、SCSK株式会社 AIビジネス推進室 課長の島田 源邦氏による「DIMoの操作実演とSCSKが提供するプログラム」。同社も2016年11月にPFN社と業務提携済みで、実証実験を実施している。
DIMoの映像解析パッケージを例に実際のデモを交えて解説した。DIMo映像解析パッケージは、学習用の教師データを作成する「Hawk」、モデルを学習する「Scouter」、解析結果を処理する「Kanohi」という構成で成り立っている。
- Hawk:画像分類など大量の教師データを効率的に準備できる
- Scouter:物体の検出や分類など、すでに実装済みモデルをパラメータ設定と処理フローの記述のみで実施できる
- Kanohi:映像解析結果の可視化ツール、統計情報をマップ上に投影表示できる
デモでは車載レコーダーで撮影した動画を読み込ませ、初回に検出したい物体の領域(ここでは前を走る軽自動車)を指定するだけで、容易に物体の検知や追跡を行えることを示した。複雑なコードを記述することなくオペレーターでも簡単に作業できるとのこと。
また、Kanohiによる可視化の事例では人物検出で男女の性別を分析したり、トラッキングした位置情報をヒットマップ形式で表示させる様子なども紹介された。SCSKではDIMoの実践研修プログラムを提供している。
本当に意味のあるトレーニングを
ここまでは主にChainer/DIMoのテクノロジーに関する発表だったが、協業のもう1つの軸でもある人材教育に関しては、日本マイクロソフトの廣野 淳平氏から紹介があった。
紹介に先立ち、AzureのアップデートとしてNVIDIA Tesla P40/P100を搭載したインスタンスが提供され、Preview期間中の料金は半額になるという発表があった。パブリッククラウドはオンプレのGPUからスケールアウトさせたいときには非常に有用、作業時間を短縮できるAzure Batch機能なども用意されている。また次期SQL Serverは"AI対応"を謳っており、Chainerも動くようになる。ディープラーニングが普及期になったときにRDBMS上で作業できるのは便利でセキュアだとした。
最後に本題のトレーニングに話題は移る。AIが凄いと言われていても実社会を描けないのは問題だという課題から、ビジネス、エンジニア、アカデミックの3つ層を対象にPFNとMSで認定トレーニングを実施していく。講師とコンテンツを揃えて「顧客やパートナーに向けて本当に意味のあるものを提供していきたい」と臨みを語った。
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