OpenStack Days Tokyo 2017 関係者が語る本音ベースの座談会
国内で開催されたOpenStack Foundation公式のカンファレンス「OpenStack Days Tokyo 2017」は、多くのユースケースやテクノロジーセッションとともに、Cloud FoundryやOpenFogなどの他のオープンソースプロジェクトとのコラボレーションも行われ、非常に充実したカンファレンスであった。特にコンテナ関連のセッション、OPNFV(Open Platform for Network Functions Virtualization)の特別セッションでは立ち見も出るほどに盛況となり、参加者の関心の高さが現れていたといえる。今回は番外編として、このイベントに関わった関係者の座談会の様子をお届けしたい。
参加いただいたのは日本電気の鳥居隆史氏、NTTの水野伸太郎氏、富士通の加藤智之氏、そしてエクイニクス・ジャパンの長谷川章博氏だ。それぞれ日本でのOpenStackを、社内外の両面からリードしている主要な人材と言って良いだろう。
まずOpenStack Days Tokyo 2017の振り返りをお願いします。
鳥居:まず言えるのは去年よりも参加者が増えた、それも非常に真剣にOpenStackの導入を検討している人たちが来てくれたという印象ですね。その理由を考えているんですが、他のオープンソースプロジェクトとのコラボレーション、あとはコンテナに関するセッションが多かったことなのかなとは思っています。正確なところは、サーベイをみないとわからないですが、今日終わった時点ではそんな感想です。
水野:OPNFVにキャリア側の人たちが興味を持つのは分かるんですが、エンタープライズの人にとってみるとネットワークの仮想化、つまりNFVに興味があるから、という理由かもしれませんね。
加藤:私もコンテナ関連のセッションに人が集まっていたのが印象的ですね。
水野:セッションに対するCall for Paper(セッション枠に対する応募を行う際に提出する講演概要)を見ても、コンテナ関係のものが非常に多くて、いま、コンテナに興味が集まっているのは実感しましたね。
長谷川:OPNFVにすごく興味が集まったのは、日本語による情報が少ないことも一つの理由かもしれませんね。だからセッションに殺到しちゃう。
コンテナ関連ではヤフーのセッションに多くの聴講者が集まったみたいですね。人が多過ぎて入れませんでした。
鳥居:コンテナに関してはそもそもOpenStackとコンテナの関係というか、そういうものがよくわからない、というのが普通のIT部門の感覚なんじゃないですかね。
加藤:そうですね。「コンテナがあれば、OpenStackは不要だ」という人もタマにいますし。
水野:ネットワークオペレーターの観点で言えば、コンテナが注目されているのは知っているし、調査もしているけど、本番で使おうという人はまだいない、という感じです。今回、ずっとOps Workshopに出ていたのですが、そこでの意見はそんな感じでした。
コンテナに関して言えば、サイバーエージェントのセッションが非常に興味深いものだったような気がします。つまりサイバーエージェントの環境ではMagnumもZunもうまくマッチしない、なので原点に帰ってHeatのテンプレートをガリガリ書いてOpenStackと連携するクラスター環境を作りました、というものでしたけど。
鳥居:ヤフーさんの事例は先進的すぎてちょっと普通の企業には…… と言う感じだったかもしれませんね。
水野:実際に話を聞いてみると、コンテナを使いたいという人はOpenStackの上ではなくてコンテナが使えれば良い、というニーズがあるというのが発見でした。あとMagnumのようにマルチテナントでそれぞれにCOE(Container Orchestration Engine)が動いている、という状況ってそんなにないと思うんですよね。社内のクラウドだったら、ひとつのテナントで充分、という状況に対してMagnumは必要ないということもあるんだと思います。
鳥居:実際にMagnumもHeatを叩いて機能を実現しているので、もっとシンプルにやりたいのであれば、Heatでやるというのがサイバーエージェントさんの選択だったということだと思います。
あと2日目のキーノートでドワンゴ、富士市役所、LINEというちょっと両極端なユースケースが興味深かったです。
鳥居:富士市役所のように、シンプルにOpenStackを使うというユースケースは良かったですね。ドワンゴの使い方は開発環境、LINEは普通に社内のクラウドというように、いろいろな使い方でOpenStackが使われるというのは非常に良いと思います。すでに使っている人とまだ使っていない人のギャップが拡がっているということかもしれませんね。
長谷川:最近、OpenStackを知るようになった人の中には過大な期待を持って、とにかく新しいことをやらないといけないのでは? と思っている人もいますが、そういう人たちに向けてシンプルに「社内のインフラをクラウドにしました」というメッセージだったと思います。
水野:だいたいシンプルにやったほうが成功するんですよね(笑) 今回のキーノートのプランニングで難しかったのは、今回は普通過ぎてテーマがなかったということなんですよね。そのため、自然体でユースケースを集めたらこうなったということだと思います。ごく普通にOpenStackが使われるようになったというのは良いことだと思います。
鳥居:ただここでぶつかる壁というのがある気がしていて、つまり普通にクラウドとして使うということになった時にOpenStackってベンダーごとにディストリビューションがあるわけです。それらに対してどこがどう違うというメッセージが基本的にないので、新しく始めようとした時にガイドになるものがない。それは参加していた複数の人から聞いたんですよ。レッドハットもあれば、SUSEもCanonicalもNECも日立もあるし、何を選択すれば良いんでしょう? そういうことになっているんです。
水野:でもそれは健全な競争の状態なのではと思いますけどね。かつてのLinuxの状態と同じとも言える。
鳥居:でもエンタープライズ向けという意味では、LinuxはレッドハットのRHELしかなかったんですよ。だから選択することができなかった。でもOpenStackに関してはレッドハットもあるし、SUSEもあるし、よくわからない状態ですよね。
今回の2日目にはSUSEの人が来て英語でプレゼンテーションをしましたけど、通訳もないし、話は総花的な話だし、せっかくその次の村川さんのHPEからSUSEにOpenStackを移譲した時の話がぶっちゃけ話で面白かったのに。あれじゃSUSEの良さは伝わらないわって思いました(笑)。まぁ、SUSEというかノベルはダイアモンドスポンサーなので、枠をとってセッションするのは当たり前なんでしょうけど。
鳥居:企業がOpenStackを選ぶという時に候補がいくつかあるとして、それが選べなくてそこでプロジェクトが止まってしまうというのを危惧しているんですよね。
水野:でもそういう時はベンダーを呼んで相見積を取れば良いんじゃ……。
鳥居:あ! 出た! ベンダー呼んで相見積! いや、だからそれはNTTさんのような大企業だからできる話で(笑)。
わははは。一般企業で、OpenStackのディストリビューション作っているベンダー全部にコンタクトがあって話を聞ける人は、そうそういないかもですね。
水野:差別化のポイントが分からないっていう部分に関しては、例えばOpenStack Foundationのマーケットプレイスを日本語化してわかるようにするというやり方もありますよね。
メディア側から言えば、ディストリビューション作っているベンダー呼んで座談会やったら良いかもしれませんけど。
鳥居:でもそういう時にもあまり本音が出なくて、良い話しか出てこないんですよね(笑) みんな良い人だから(笑)
水野:その座談会にユーザー入れちゃうと面白いかもですね。
長谷川:ユーザーに聞くと、OpenStackの良さってAPIが公開されていることって言う人がいるんですよね。つまりベンダーごとの差異ではない、もうOpenStackを選ぶのに赤だの緑だの黒だのオレンジだのっていう細かい話ではなくて、その上で何を構築するんですか? その時にインフラに必要な機能は何なんですか? っていう話をしないといけないんだと思います。そしてそれをちゃんと咀嚼して答えられる営業やエンジニアがいる会社を選ぶっていう。
長谷川:今回のイベントで良かったと感じていることは、コラボレーションのセッションが好評だったことだと思っていて、それはつまりOpenStackだけで何かを成し遂げるということではなく、OPNFVやCloud FoundryやOpenFogなどの他のプロジェクトと一緒になってソリューションを作るというようになってきたことなんですよね。それはすごく良いことだと思います。
ちょっと話題を変えますが、Kubernetesも非常に人気のソフトウェアとしてOpenStackの中で使われるようになってきました。
鳥居:そうですね。レッドハットもOpenShiftと言わずにKubernetesっていう単語で説明をする場面が多かったように思います。
水野:ただKubernetesはGoogleの方針なのか、Dockerと比べると非常にキッチリしていて面倒くさいっていう印象があるんですよね、バグのレポートをあげるだけでも、いろいろとやらないといけないことがあり過ぎて。NTTの場合だと、それをやろうとすると半年ぐらいかかっちゃうっていう。
加藤:Dockerがゆるゆるなのに比べて、Kubernetesはガバナンスがキツいというか。
水野:そうなんですよね。健全なコミュニティを作ろうとしているんだろうなとは思いますが。
長谷川:コンテナやKubernetesって結局、クラウドを抽象化してくれるんだと思うんですよね。なのでAWSやAzureやOpenStackでも動く、それぞれのプラットフォームに合わせて学習しなくても良いって言う部分がウケているんだと思います。
鳥居:とりあえず今年ぐらいから、DockerではなくてKubernetesが来ているような気がします。
水野:Googleからのソフトウェアとしてやっぱりネームバリューがあるというか、ブランドがあるというか、Kubernetesは非常に熱いですよね、今。
他に今回のイベントについてコメントはありますか?
水野:今回のイベントの直前に台湾でもOpenStack Daysがあったわけですが、そこで話されたことで、全体的にOpenStackのデベロッパーが減っていると言う話がありました。でも中国やアジアでは今、急速に利用が拡がっていて、デベロッパーも増えていると。なのでアジアのエンジニアにもっとオンボードして欲しいというようなことが台湾では語られましたが、日本ではその話は出なかったんですね。OpenStackに新しい機能が追加されるステージから、メンテナンスのステージになったということで、Kubernetesのような新しいソフトウェアのほうに興味が移っているのではないかなと思います。あと今回、来日したOpenStack FoundationのエンジニアリングのVPのThierry Carrezと話したんですが、アジアのデベロッパーを集めるためにIRCを使ったコミュニケーションを止めたいと。
ええ!? つまり北米&英語圏以外の人とコミュニケーションするためにいろいろ変えたいと!?
水野:そうなんですよね。コミュニティを盛り上げるために、いろいろ考えてくれています。
鳥居:8月にミャンマーに行く予定があるんです。OpenStackのセミナーをやるために。電源が安定しないからデータセンター以前にサーバーどうするんだっていう話もありますが。これからクラウドが当たり前になってくるという状況で、OpenStackの啓蒙をしたいということで招待されたんですけど。で、その旅行にOpenStack Foundationがちゃんとファンディングをしてくれる予定なんです。つまり、アジアを中心にOpenStackは拡大していくんだろうということを肌で感じている、ということですね。
日本のエンジニアも、もっと外に活躍できる場所がOpenStackをきっかけに拡がるかもしれませんね。
今回はOpenStackに関係が深い方々に集まっていただき、非常に濃い話ができた。ここには書けない話も多いのが残念である。次回は、ユーザーサイドの本音トークをお届けしたいと思う。
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