OpenStackのエコシステムを拡げるUpstream Trainingとは? CAのインフラエンジニアに訊いた
OpenStackはオープンソースソフトウェアとして開発され、日々数千人、数万人というエンジニアが開発し、導入を進めている企業内のインフラストラクチャーを支えるソフトウェアプロジェクトである。単にOpenStackを使うだけであれば、Red HatやCanonical、Mirantisなどのディストリビューションを使うのが最適だが、一歩進んでプロジェクトにコントリビュータとして参加することで理解が深まり、システム構築や実運用にも役に立つ、またトラブルシューティングの際にも、その知識が役立つという効果もあるだろう。日本国内でもNECやNTTグループ、富士通などのIT系ベンダーから多くのOpenStackコントリビュータが育っている。
2016年7月6日、7日の両日に都内で開催された「OpenStack Days Tokyo 2016」では、OpenStackのコントリビュータを養成するためのUpstream Trainingが同時開催された。このような「いかにOpenStack開発コミュニティに参加するか?」を教える教育コースがエンジニアに対して提供されている点、しかもそれをOpenStackのガバナンスを行うOpenStack Foundationが積極的に支援している点が、他のオープンソースソフトウェアプロジェクトとは異なるポイントと言えよう。
今回は、このUpstream Trainingに参加した若手エンジニア、株式会社サイバーエージェント、アドテク本部技術戦略室の山本孔明氏、青山真也氏の2名にインタビューを行い、その概要などについて話を聞いた。またOpenStackのイベントではおなじみの長谷川誠氏にも同席いただいた。
今回のUpstream Trainingに参加されたということですが、まず簡単に自己紹介をお願いします。
山本:私は、サイバーエージェントに入って2年半のインフラ担当エンジニアです。以前は、別の会社で9年ぐらいネットワーク関連のエンジニアをやっていました。お客さんにシステムを提案したりする仕事でした。
青山:私は、今年の新卒入社です。大学の時はインフラを担当していました。まだ新卒研修が終わって数ヶ月というところです。大学のインフラということで、次期システムの検討をしたりベンダーの方と話をしたりということをやっていました。
大学の時からインフラというのも珍しいですね。実際にシステムの検討をして、ベンダーから相見積をとったり、ということをされていたのですか?
青山:そうです。ベンダーから提案していただいたものを検討してました。金額だけは、先生に見せてもらえませんでしたが(笑)
お二人とも、OpenStackとの関わりは会社に入ってからということですか?
山本:そうです。とりあえず、最初はインストールして使ってみるということから始めました。一応、最新のバージョンであればだいぶドキュメントも揃っていますけど、長谷川さんがやっていた頃のもう少し前のバージョンだったら、かなり辛そうな感じはしました(笑)
青山:大学でもOpenStackの研究をしていましたが、本格的に始めたのは、会社に入ってからになります。初めてさわってみた時は、なんでも出来そうな気はしましたけど、まだこれからかなという感触でした。OpenStackの場合は、組み合わせるコンポーネントがある程度わかっているというか決まっているので、逆にやりやすい気がしました。
あぁ、なるほど。オープンソースソフトウェアの場合は、どれとどれを組み合わせてシステムを構築するのか? という部分がかなり自由なのに、OpenStackの場合はある程度これとこれを組み合わせればこうなるというのがわかっているということですね。今回、参加されたUpstream Trainingはどんな印象でしたか? またトレーニングの概要も教えて下さい。
山本:今回は、2日間で主に座学でOpenStackにフィードバックするシステムに関して教えてもらうという感じです。参加者は全体で25名くらいでした。レビューやフィードバックのシステムについて教えてもらいました。日本でやっていることもあり、日本語でやってもらえたのは良かったと思います。
青山:座学で丁寧にOpenStackのフィードバックの仕組みとかレビューの内容について教えてもらえました。Gerritで+1とか-2とかを付ける時のその意味とかですね。
あぁ、あの-2をもらったからといって、全人格を否定されてしまったように感じてはいけないという例のシステムですね。
青山、山本;そうです(笑)
次に長谷川さんに伺いますが、今回のトレーニングを受けてOpenStackへのコントリビューションという基本的なことが出来るようになったわけですが、サイバーエージェントとしてはOpenStackのこのプロジェクトに貢献して欲しい、というような意向はあるんですか?
長谷川:我々としてはOpenStackの導入を決めた時に「極力、そのまま使う」というのを大きな方針として決めました。OpenStackのこの部分を強化したいとか、こういう機能を入れたいというような考えはあまりないので、エンジニアがどういう部分に貢献しようとするのか? に部分に関しては自主的な発想にまかせるという感じですね。
山本:そこは前の会社とはかなり違っていて、すごくありがたいですね。そういうエンジニアの自主性をちゃんと評価してくれるということですから。
お二人はUpstream Trainingを終えて、これから実際のバグ報告などを始めていこうという感じですか?
山本:そうですね。Sandboxでやるだけではなくて、実際にプロジェクトのバグとかを見つけてそれを報告する段階になるんですけど、なかなかハードルが高くて。
青山:コミュニティの中では英語でコミュニケーションをしなくてはいけないので、これから英語も一緒に勉強していかないと。そういうレベルなんですが、頑張ってNewtonに間に合うようにしたいと思ってます。
長谷川:私も経験があるんですが、実際にフィードバックをしてOpenStackのコントリビュータになるとOpenStack Summitに招待されるじゃないですか。あれをね、目指して欲しいですね(笑)。あとはバグを見つけて、それの報告と同時にその修正パッチをレビューに回すというやり方もあるので、参考にして欲しいですね。あと、最近、OpenStackに詳しいエンジニアも転職してきたので、そういうリソースも上手く使ってほしいなと思います。
実際に話を聞いてみると、サイバーエージェントのインフラを支えるエンジニアとしての義務感や責任を感じつつも、エンジニアとして自分の選択を行える自由を楽しんでいるように見えた若手エンジニアとのインタビューであった。近々、実際にコントリビューションを行うとのことだったので、またその際には経験談として、OpenStackのエンジニアを目指す若手エンジニアの参考になる話を聞きたいと思う。
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