命令型プログラミングはどこに行くのか
汎用言語と専用言語
現在のプログラミング言語のほとんどは、「汎用」プログラミング言語と呼ばれるものです。コンピュータの初期においては、軍事関係の数値計算や、企業向けの事務処理が用途の大半で、数値計算にはFORTRAN、事務処理にはCOBOLといったように、問題ごとに専用のプログラミング言語と定型的なノウハウが存在していました。
しかし、現在のコンピュータシステムはさまざまな問題ドメインにまたがった複雑なものになっているため、1つの問題ドメインに特化した専用言語では、不得意な部分のプログラミングが困難となってしまいます。FORTRANやCOBOLなどの専用言語も、時代の要請に従って、Cなどとの他言語インタフェースやオブジェクト指向プログラミングのサポートなどを取り込み、汎用化、高機能化しています。
成功し普及した言語は、さまざまな問題ドメインにおいて、多種多様なプログラマのニーズに応えなくてはいけないので、言語仕様が肥大化していく傾向にあります。そのような言語は多くのソフトウエア資産を抱えており、互換性を失うような言語仕様の変更は難しくなるため、機能の統廃合ではなく、追加という形を取らざるをえないためです。
しかし、その中には特定の分野では必要不可欠なものの、安易に使用すると容易にバグの温床となってしまうような機能が含まれる場合もあります。また、後付けの機能は、往々にして既存の言語仕様との統合が不十分なため、誤解を生んだり、使いづらかったりする場合があります。
さらに、言語仕様の良しあしとは別の現実的な問題として、言語仕様が肥大化、複雑化すると、言語処理系を作るのが難しくなるという問題もあります。言語処理系が複雑で巨大なプログラムとなれば、それ自体にバグが混入する可能性が増えますし、高度な機能を使用するプログラムは解析や最適化が難しくなります。
汎用言語と専用言語のジレンマ
汎用言語は、特定の問題ドメインにのみ特化するわけにはいかないため、専用言語に比べると記述が煩雑になってしまったり、最適化なども劣ったものになってしまうという本質的な問題点があります。いまだにスーパーコンピュータの世界や金融系のインフラシステムなどでFORTRANやCOBOLが現役なのには、過去とのしがらみ以外にも合理的な理由があるのです。
ここで、問題点を整理してみましょう(図2)。結局は、私たちはアプリケーションごとに、適した言語を選んで使い分けていかなければならない定めなのでしょうか?
汎用言語と専用言語の間にはトレードオフが存在します。それぞれの問題ドメインごとに必要な機能は異なるので、すべての人が満足する言語を設計することは極めて難しく、ほとんど不可能なことにさえ思えます。それゆえに、現在のような、多種多様な目的を持って設計された言語が存在するのだとも考えられます。
新しいプログラミング言語を習得したり、乗り換えたりすること自体は比較的容易かもしれません。趣味でたくさんの言語でプログラミングを楽しんでおられる方も多いと思います。しかし、仕事ともなれば、その言語の開発環境や言語処理系の成熟度、ライブラリやフレームワークの実績、プログラマの確保や教育など、それ以外にも検討しなければならないことが山ほど存在します。できることならば、言語は頻繁に変えたくないというのが人情ではないでしょうか。
これらの問題の解決策として、昔からLispなどのコミュニティでは、汎用言語の中に、ユーザ定義で問題ドメインに特化した記法を作りこむDSL(Domain Specific Language)という手法が用いられてきました。次はこのDSLについて紹介しましょう。