親が突然、要介護になったら? 仕事を辞めずに時間をコントロールできるフリーランスという働き方
はじめに
総務省が平成30年7月に発表した平成29年度・就業構造基本調査によると、介護をしている人は627万6000人。そのうち働きながら介護をしている人は346万3000人。過去1年間に介護や看護のために前職を離職した人は約9万9000人にのぼります。
実際に自分の親に介護が必要となったとき、仕事を続けるためにどのような選択肢があるのでしょうか。今回は、仕事を辞めずにフリーランスで働く道を選んだ山下裕子さんにお話を伺いました。
■山下裕子さんプロフィール
1968年生まれ。短大卒業後、大手ゼネコンに入社し財務アシスタントとして勤務、結婚を機に退社。家事・育児に専念していたが、簿記2級の資格を取得し社会復帰する。税理士事務所でのパート勤務を経て、精密機器メーカー、流通業で正社員として経理財務の仕事に携わり、2015年よりフリーランスとして複数のスタートアップ企業の経理財務業務を担う。
仕事中、突然病院からの電話。
介護に対する予備知識ゼロからのスタート
—現在、フリーランスで経理の仕事をされているとのことですが、これまでのキャリアを簡単に教えてください。
新卒で入社した会社の配属先がたまたま経理部で、そこから経理のキャリアがスタートしました。結婚を機に退職して家事と育児に専念し、育児から手が離れ、社会復帰したのは12年後のことでした。会計事務所のパートです。しかしITの進化がめざましい中、10年以上のブランクは大きく、仕事についていくのがやっと。パソコンに関することは職場の同僚に聞いたり、独学で勉強したりしました。その後、精密機器のメーカーを経て、流通サービスの会社に勤めました。すべて経理の仕事です。
—お父様に介護が必要になるという、予兆に気付いたことはありましたか?
突然、母から電話がかかってきたのが私の「介護」のはじまりでした。80歳を過ぎており、徐々に足腰は悪くなっていましたが、突然倒れたと聞いて大きなショックを受けました。私は一人っ子なので、親のことを相談する兄弟姉妹もいませんし、最初はどうすればよいのか悩みました。
両親の家は私の自宅から近く、1カ月に1~2回は顔を出していましたが、父の異変にはまったく気付きませんでした。自力でトイレに行くことが難しくなっていたなどの予兆はあったようですが、母は気付いていながらも娘の私には伝えていなかったのです。自分の子どもに下の世話のことを積極的に伝えるのは、抵抗があるのかもしれませんね。
—介護について、予備知識はありましたか?
介護の知識はまったくなかったので、誰に相談したらよいのか、どういう手続きをすればいいかを調べることからはじめました。地域の行政窓口で介護保険制度のことなどを相談し、どのような介護がどの程度必要かを判断する「要介護認定」を申請しました。父は要介護3と認定されました。
それから頻繁に両親の家に出入りするようになると、母の様子もおかしいと気づき、軽度の認知症であることが発覚しました。
両親がこのような状態なので、これまでのように会社へ出勤することは難しくなりました。介護休暇制度も利用しましたが、最大で5日間、介護対象が2人以上の場合でも10日間です。これではとても間に合いません。
残っている有給休暇もすべて消化しました。これ以上、会社に迷惑をかけられないと思い、悩みに悩んだ末、退職を決意しました。退職後の収入のことや、また社会復帰できるのかなど、仕事を手放すことに大きな葛藤があり、3~4カ月は悩んでいました。
両親を介護しながら、どう仕事を続けて行くか
—会社員以外の働き方を知った経緯を教えてください。
その後、父は病院を変え、さらに1年以上を経て施設に入ることになりました。認知症の母は在宅です。私は仕事を続けたいけれど、これまでのように会社に勤めることは難しい、自分に合った働き方はないだろうかと考えていました。そのような時、以前、新聞で見た、フリーランスで働きたい人と企業のマッチングをサポートしてくれる「Waris」という会社のことを思い出しました。働き続けることができるかもしれないと思い、登録することにしました。
―2015年からフリーランスで働いているという山下さん。どのような会社と取引がありますか?
経理の即戦力が欲しい、起業したばかりのベンチャー企業が主なクライアントです。とりあえず社長が経理を担当するなど、社内ルールがまだ作られていない企業も多いですね。私はこれまで数社の経理を担当してきたので、その経験が活かせてとても嬉しいです。その企業に合った会計システムの導入など、気付いたことを積極的に提案するようにしています。
—フリーランスで働いてみて、どのようなメリットを感じていますか?
子育てと同じように、介護もいつ体調が悪くなるか予測が不可能です。ただ、子育てと違うところは、今後、成長したり良くなったりすることが難しいこと。フリーランスは、ある程度自分で時間をコントロールできるので、介護が必要な家族がいる人には働きやすいスタイルだと思います。
—フリーランスという働き方には、どのような人が合っていると感じますか?
フリーランスならほぼリモート勤務で良いという企業もありますが、私は最初のうちは出来る限り会社に足を運びます。今はネット会議もできる時代ですし、普段のやりとりはチャットで済むこともありますが、実際に会って話すと様々な情報が入ってきます。やはり直接顔を見て話す以上のコミュニケーションはありません。
また、1社で同じ仕事をしてきた人よりも、複数の会社で経験を積んでいる人の方が向いているかもしれません。そして、新しいことでも学びながら成長していくタフなメンタルが必要だと思います。
経理のフリーランスで言えば、税理士や会計士とスムーズにコミュニケーションを取れることがポイントだと思います。それによって、スタートアップ経営者の方のパイプ役にもなれますからね。
私は、期間はかぎられていても、お仕事をさせていただく以上、その会社にとって長期的な資産となるような価値を提供していけるように努力したいと思っています。
* * *
今回の山下さんの事例では、介護という壁にぶつかっても働き続けることを模索した結果、たどり着いたのはフリーランスという時間と場所に縛られない働き方でした。介護のために離職せざるを得ないと考えている方も、フリーランスとして働くという選択肢を一つ得ることで、新たな可能性が広がってくるかもしれません。
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