GMOのエンジニアやCTOが考える今アツい技術と開発組織のデザインとは? 「GMO Developers Night」レポート
12月11日(水)、渋谷フクラスに12月5日(木)開設したコミュニケーションスペース「シナジーカフェ GMO Yours・フクラス」にて、「GMO Developers Night」が開催された。
本イベントでは、GMO内の若手エンジニアや技術責任者をスピーカーに迎え、開発戦略に対する想いや現在の技術トレンドについてのトークセッションが行われた。会場にはエンジニアを中心に300名近くの参加者が訪れ、ソーシャルメディア等を活用した登壇者との積極的な交流が見られた。
アプリとインフラ、それぞれの領域の
理解を深めることの重要性
最初のセッションでは「アプリケーション開発者の多様性」をテーマに、 GMOあおぞらネット銀行・櫃ノ上貴士氏、GMOアドマーケティング・石丸智輝氏、GMOペイメントゲートウェイ・橋本玄基氏をスピーカーに、モデレーターにGMOインターネット・成瀬允宣氏が加わりパネルトークが行われた。
パネルテーマ(1)「アプリから見たインフラ」
- 石丸:私のチームはアプリチームとインフラチームがしっかりと分かれています。そのため、アプリチームががっつりインフラに関わるということはありませんが、何か問題が起こったときに(オンプレ環境よりも)クラウドの方が対処しやすいという肌感はあります。
- 櫃ノ上:GMOあおぞらネット銀行でも「クラウドに移行したいね」という話が出ており、検証を進めているところです。そこで思うのは、アプリエンジニアもインフラの知識がないといけないし逆もあるということです。お互いの領域のことをある程度わかっていないと話ができないと感じています。
- 成瀬:結構勉強しているんですね。お互いの領分を知らないと何ができるか分からないですし、そうすると何をどうお願いしていいかも分からなくなってしまいますよね。
- 橋本:アプリケーション側はあまりネットワークの構成を意識しないです。インフラ側も「用意したので、これで良いでしょう」と構えてしまっているところもあると思います。そうしたところで齟齬が生まれないように、お互いのことを理解しあっていくことが大事ですね。
パネルテーマ(2)「コミュニケーション」
- 櫃ノ上:face to faceとチャットの使い分けは重要ですよね。GMOは現在フクラスとセルリアンにある本社の2棟体制で業務を行なっていますが、これまで顔を合わせて会話できていたところが、チャットでのコミュニケーション比が高くなってきました。
- 橋本:チャットだと少しやりづらいなと感じることが多くなってきました。そういうときは向こうに行って話してしまいます。
- 成瀬:GMOインターネットでも試験的にリモートワークを導入し始めたのですが、特にエンジニアの教育が難しいなと感じています。リモートでプログラムを教えるって難しくないですか?
- 橋本:そうですね。これまで口頭で伝えていれば良かったことを全て言語化しないといけなくなってしまうので、ハードルが上がっていますね。
- 石丸:チャットでプログラムをレビューするときは気をつけています。文章にすると意図していなくてもキツく見えてしまうことがあるので、あえて絵文字を使ったり、言葉の表現を選ぶようにしています。
大きく移り変わっていくインフラ、
注目が高まるKubernetes
続いて、「GMOインターネットグループ各社メンバーが語る 知られざるインフラの裏側」をテーマに、 GMOペパボ・山下和彦氏、GMOインターネット・郷古直仁氏、GMOインターネット・元内柊也氏、GMOクラウド・佐藤慎治氏をスピーカーに、モデレーターにGMOペパボ・常松伸哉氏が加わりパネルトークが行われた。
パネルテーマ(1)「インフラの変化・課題」
- 郷古:入社した頃は社内ではSolarisが90%くらいの状況でした。段々とLinuxへ移行していき、仮想化されるようになってオープンソースのクラウド基盤が出てきました。それと共に「Cloud Native」という言葉がメジャーになり、その一環としてAPIでマイクロサービスを繋ぎ1つのサービスを作りましょうという流れになりましたね。
- 常松:実際に作るものも、それを取り囲む環境もその方向になってきたということですね。
- 佐藤:働き始めて3年くらいは物理サーバを触っていて、Javaでサーバ管理をしていました。その後ミュージシャン活動に専念する期間が5年程あって、IT業界に戻ってきたら「クラウド」が当たり前のようにありました。この変化の速さはすごいなと思いつつ、お客様の求めるものに対して適切なものを当てはめるためには更に知識を深めないといけないなと感じました。
- 元内:いま20歳前後の人と35歳以上の人とでは、根本的な開発フローの認識が異なっていると思っています。以前は手元に開発マシンがない場合は研究室等からサーバを借りて、自分でインフラ環境を作ってからやっと開発できるような時代でした。今では目の前にあるパソコンのVM上で開発して、出来上がったら好きなクラウドを選ぶことができます。開発したいものを作った後にインフラを要求できるようになった、というのは大きな変化ではないでしょうか。
- 山下:変化といえばKubernetesが出てきたことでIPが抽象化されるようになったことが良かったと思います。これまではプロセスだけをばら撒くような形だったのが、IP層が抽象化されたことで仕組みそのものを配布できるようになった。すごく大きな変化ですよね。個人の開発者としても、業務の開発者としてもインフラのルールが変わったと感じています。
パネルトーク(2)「最近アツい技術」
- 郷古:KubernetesやKubernetesに派生する言語がアツいですよね。最近あるカンファレンスに参加したところによると、コネクティッド・カーの開発にもKubernetesが使われているそうです。
- 佐藤:僕はサービスを使っている方にどのようなアプリを乗せられるか、サーバを監視するにはどうしたら良いか等を紹介する仕事をしています。普段なるべく色々なクラウドを使うようにしていますが、例えばAWSのECSはすごくシンプルにDockerを触れるなぁと感じています。お客様からは「DockerやKubernetesを触ってみたい」という声もあり、「うちのVM上で動いたから、そのまま動くよね?」と言われることがあります。それは難しいということを伝えつつ、お客様に良いものをおススメするところが今は楽しいですね。
- 元内:GoogleからSRE(Site Reliability Engineering)の本が出たとき、「これは何のことだ?」と思いました。例えばアプリケーションを自動化する話が出てきますが、本当に実装できるのか不思議だったのです。実際はKubernetesの前身であるBorgという内部システムで実装すると書いてあって、当時は「なるほど、Google特有のすごい技術を使って実装するのね(笑)」というかんじでした。それがオープンソースのKubernetesでは、エコシステムを使って実際の開発やインフラのオペレーションを自動化できるようになってきました。具体的にはKubernetesのオペレーターでコントローラーとリソースを定義し利用するものです。これでサービスの改善など本来インフラエンジニアがやりたいことにコミットできるようになったことが技術としてアツいなと感じています。
- 山下:最近僕が取り組んだCloud Native Buildpacksは、例えばHerokをexitするだけで勝手にRuby on Railsが動く環境が構築されるようなビルドパッケージです。Dockerファイルとの違いはアプリケーションボードにコンテナイメージをビルドするところですね。ペパボのロリポップというサービスでは様々なバージョンのPHPが使われていますが、その様々なPHPを動かすためにDockerファイルへ記述していたら、ずっとビルドしていないといけなくなってしまいます。Cloud Native Buildpacksを使うとアプリケーションのリポジトリで「hack build」と打つだけで様々なPHPが動くコンテナイメージができます。これなら昔からあるサービスでも簡単にビルドできるので、全社的に取り組んでいきたいと思っています。
強い開発組織を作るために重要なテンプレ化とは
最後のトークセッションは「CTO/VPoE対談 ~技術責任者からみたインターネットの今とこれから~」として、GMOペパボ・柴田博志氏、GMOメディア・別府将彦氏、GMOあおぞらネット銀行・矢上聡洋氏をスピーカーに、モデレーターにGMOインターネット・稲守貴久氏が加わりパネルトークが行われた。
パネルテーマ(1)「今までの開発課題とこれからの戦略」
- 柴田:組織には様々な形態がありますが、事業部制のメリットは事業部内で判断して実行するまでのスピードです。一方で、複数の事業部があると他の事業部で同様の問題にぶつかるという課題があります。情報が共有されていないため同じ問題の解決に全く別のソリューションを導入してしまったり、片方の事業部が開発したことを知らずに同様のものを開発してしまったりというのが顕著な例です。その解決方法として職種間の横の連携を強化しています。全ての部署のエンジニアを見ていますし、デザイナーも同じです。品質や技術を全社で統一し、向上できるような仕組みを作り、今後はそれをより効果的にしていくことを考えています。
- 矢上:現在は『開発できない』ことが大きな課題です。銀行事業には勘定・入退会・フロント・情報など多岐にわたる業務やシステムがあります。10万口座しかない銀行ですが、アプリケーションを開発し、実運用フェーズに入った後でトラブルの発生もあり、開発よりも運用に手がかかっているのが現状です。まだ事業を始めて1年半の会社なので、足元で作業工数を減らしていくように改善していきたいと考えています。
- 別府:柴田さんのお話とかぶりますが、GMOメディアでは事業部制と横断制を揺り戻ししています。事業部制では横串の情報共有を進めるといった形です。その際に必要なのは、これまでに培ってきたことを形式化、テンプレート化することです。「データを活かしていく」「開発プロセスの最適化」「セキュリティ」「サイトの信頼性」を重要なキーワードに位置づけ、これらを元にテンプレート化と技術課題への取り組みというサイクルを繰り返していく必要があると考えています。
パネルトーク(2)「強い開発組織デザインとは」
- 柴田:僕が考える『強い組織』とは『失敗できる組織』です。成功は大事ですが、成功体験には粗利がないと感じています。失敗をすると「何がダメだったのか」と振り返ることができます。例えば、売り上げ目標が100万に対して80万だった場合、残り20万をなぜ達成できなかったのかと考えることが重要です。そこに必要な技術や人の動きを調べて組織として改善し、「次は100万、120万と伸ばしていこう」と考えて動けると良いですね。1人1人が頑張ろうとするのではなく、失敗を許容してチームとして「なんでだっけ?」と考えられるような組織にしていきたいと思っています。
- 稲守:失敗を許容するために、具体的にどのようなことをしているのですか?
- 柴田:僕が表に出て謝るパターンですかね(笑)。責任者が謝って解決できるものは大した問題ではなく、目の前の困っているお客様の問題を解決するために最後までやりきること、また、それを支援していくことがマネジメント上で大事なことです。いかに早く個人の責任にせずに解決へもっていけるかが、失敗を許容するということですね。
- 稲守:個人の責任ではなく、組織としての責任という認識で解決していくということですね。矢上さんはどうでしょうか?
- 矢上:150人いるメンバーの半分ほどがエンジニアで、あとは営業、事務、コールセンターなどを担当しています。現在はシステムを内製していますが、今の課題はお客様と関わる現場とエンジニアが融合していないことです。現場の担当者が「自分はエンジニアではないから」と開発に関わらないことも、エンジニアが現場のことを知らなくても良いと考えることも、どちらもそれで良いというわけではありません。お互いを理解しようとしないことはスピードを遅くする要因になります。その意識改革を進めることが強い組織を作っていくことに繋がると考えています。
- 稲守:意識して組織のカルチャーを作っていくことが大事なのですね。
- 別府:失敗を恐れずに挑戦する人を賞賛する文化や、エンジニアと事業メンバーを融合する取り組みは大事です。GMOインターネットグループでは「スピリットベンチャー宣言」というものがあり、その中で特に私が大事にしている言葉は「困難は成長のための試練である。チャンスと捉え、立ち向かおう」「変化を楽しもう。あなたは必ず変化する。人は気持ちで変化する」です。強い組織を作るには人が成長していかなければいけません。そのためにはスキル面でもマインド面でも人を成長させる仕組み作りが大事だと考えています。どの事業でも世の中に価値を提供し続けていかなければいけませんし、価値は常に変わり続けていくので、その時々に力を発揮できることを目標にテンプレートや役割をきちんと作っていきたいと感じています。
* * *
GMO Yours・フクラスのこけら落としとなる本イベントを通して、GMOの技術者たちが大事にしていることを知り、GMOという組織の力強さを感じた。イベント終了後の懇親会も大きく盛り上がり、登壇者たちに熱心に質問をする参加者が多く見受けられた。
自分の関わる事業が世の中に価値を提供し続けていくために、自分自身が何を提供できるのか、またそれ以上にチームで何を実現できるのか。それを模索し続けていくことが、自分自身にとっても組織にとっても大きな価値になることを改めて認識する場となった。
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