ONSのトリはVinton Cerf氏登場 そしてCloud FoundryとKubernetesはどうなる?
The Linux Foundation主催のOpen Networking Summit North America 2018。最終日は、キーノートに「インターネットの父」と称されるVinton Cerf氏が登壇し、「Social and Economic Effects of Open Networking」と題されたトークを行った。
ジェームズ・ボンド風の短いビデオから始まったトークは、インターネットを流れるパケットの設計の話からSoftware Defined Network(SDN)と呼ばれるソフトウェアによるネットワーク機能まで、オープンに開発を行うことの重要性を説いたものだった。
興味深いのは、Cerf氏が「そもそも最初から、ルーターの機能はソフトウェアで実装されていた。だから最初にSDNの話を聞いた時は、これはバズワードに違いないと思った」と語っていたことだ。
そして本来オープンな仕様で開発されていたルーターが、シスコなどによってクローズドなものに変わってしまったこと、そのためにルーターの機能をソフトウェアで実装する学生プログラマーがいなくなってしまったことなどを語り、オープンなネットワークの重要性を強調した。
最後にLinux FoundationのArpit Joshipura氏からの「今のデベロッパーに対して何かアドバイスは?」という質問に「今の時代に生きている人たちが羨ましい。なぜなら、このオープンなネットワーキングというものを最大限に利用できるからだ。ルーターがプロプライエタリでクローズドなものになってしまった頃よりも遥かにオープンなプロトコル、インターフェースが作られている。だからそれを利用して、さらに拡張していって欲しい」と語り、キーノートセッションを終えた。
その後には「SDN@10」というタイトルのパネルディスカッションが行われた。これはスタンフォード大学で生まれたSDNであるOpenFlowが、誕生から10年を迎えたことを祝して、モデレータ役にVMwareのWendy Cartee氏、Red HatのCTOであるChris Wright氏、OpenFlowの開発に直接関わったGuru Parulkar氏、そしてスタンフォード大学のNick McKeown氏を迎えて行われたものだ。VMwareのCartee氏もスタンフォード大学の卒業生であることから、正にSDNの初期から今までを振り返るというものになった。
OpenFlowの論文が出てからすでに10年と聞くと、あっという間だったという感覚だが、OpenFlowを掲げてNiciraを立ち上げ、VMwareによる買収からVMware NSXという一大ブランドに成長させたMartin Casado氏の名前が何度か出てきたところに、SDNの初期の盛り上がりを感じることができたパネルディスカッションであった。
参考:OpenFlowに関する論文(PDF):OpenFlow: Enabling Innovation in Campus Networks
その後のキーノートもAlibaba Cloudの紹介、Ericssonによる5G、TicketMasterによるハイブリッドクラウドなどが挙げられ、SDNから5Gそしてハイブリッドクラウドと幅広いテーマでネットワーキングの近未来を紹介するセッションが続いた。
最後にネットワークからは少し離れてしまうが、サービスメッシュのIstioについてPivotalのエンジニアが行ったセッションを紹介したい。これは「Istio and Envoy:Enabling Sidecars for Microservices」と題されたセッションだ。
ここでは、マイクロサービスとして構築されたアプリケーションがIstioを使うことで、サービスメッシュによるリトライやロードバランシング、トラフィックの振り分けなどの機能を使いこなせることを紹介していた。
ここではIstioそのものの解説よりも、解説したのがPivotalのエンジニアであるという事実のほうが重要だ。つまりCloud Foundryにおいても、何らかのインテグレーションが実装される予定であることが語られたということの意味が大きいのだ。
Cloud FoundryはPaaSのリーダーだが、Red Hatが主導するOpenShiftがPaaSからコンテナプラットフォームとしてKubernetesを全面的に採用する方向にシフトした後も、独自のコンテナーを採用するなど我が道を行く方向性を維持している。
PivotalのSVPでエンジニアリングのトップであるOnsi Fakhouri氏は、有名なCloud Foundry Haikuで以下のように表現したという。
Here is my source code
Run it on the cloud for me
I do not care how
(意味は「私のコードはクラウド上で動いてる。どのように動いているのかは気にしない」といったところか)。このようにCloud Foundryは、デベロッパーに対して無駄なことをさせずに、アプリケーションを書くことに集中させるため、時に「Opinionated(独善的)」という形容詞が付けられるほどだ。しかしKubernetesは、もっと手間がかかるプラットフォームと言っていい。
だが、マイクロサービスとしてアプリケーションを構築する際にどの部分をロードバランシングさせ、どの部分はサーキットブレーカーにするのかなどの知見が確立されていない現状では、KubernetesやIstioのようにデベロッパーが明示的に指定する必要があるのだろう。プラットフォームが全部面倒を見る方式から、サービスの構成まで考えなければいけないKubernetesがどのように折り合いをつけるのか、今年のCloud Foundry Summitでは何か発表があるかもしれない。
最後になるが、展示ブースに関しても少し紹介したい。今回はロサンゼルスダウンタウンのインターコンチネンタルホテルを会場にして開催されたが、展示はセミナールームの前のスペースを使って行われていた。狭い空間ながら、大きなブースを持つARMなどに混ざってAlibaba Cloudなども展示をしていた。
技術の展示でもなく、あまり盛況ではなかったように思える。この辺りは、これから中国のベンダーもいろいろと工夫を凝らしてくることだろう。
狭いブースながらいつも人が多かったのが、CNCFの展示ブースだ。主にホストするプロジェクトのステッカーを配るというやり方ながら、多くの人を集めていた。
AT&TはDANOS、Akraino Stack、そしてAcumosAIと話題のプロジェクトにソースコードを寄贈し、大いに存在感を増していた。多くの参加者が集い、常に質疑応答が実施されていたように思える。
全般的に活気があり、ベンダーだけではなくユーザーの参加も多かったカンファレンスであった。2018年から始まったプロジェクトがどのような動きを見せるのか、PoCではなく実際に現場で使えるようなソフトウェアに成長するのか、それを検証する意味も含めて、来年も機会があれば参加したいと思う。
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