OpenStack Days Tokyo開催。インフラからコンテナに繋がるクラウドネイティブなソリューションを提案
クラウドインフラストラクチャーのOpenStackのユーザーとデベロッパーが会するイベント、OpenStack Days Tokyoが2018年8月2日、3日に都内で開催された。今年はOpenStackだけではなくクラウドに関する様々なソフトウェアも取り込むために「OpenStack Days Tokyo | Cloud Native Days Tokyo」と題して、OpenStack以外のソフトウェアにもフォーカスを当て、2日間で延べ1,700名という参加者を集めた。このシリーズでは、キーノートや注目されたセッションなどを紹介していく。
8月2日の最初は、キーノートスピーチに先駆けて、主催者の一人であるアクセルビットの長谷川章博氏が挨拶を行った。このカンファレンスは、筆者も企画に加わっているJapan Containers Daysに引き続き、ベンダーニュートラルなテクノロジーカンファレンスとしては数少ない有料のイベントとなった。
長谷川氏の挨拶で興味深かったのは、「ユーザーとデベロッパーが出会う場所」というOpenStack Summitの精神に則り、お互いが協力すること、貢献することを目指しているという文脈で、このカンファレンスが有料になった理由を説明したところだった。「だからこのカンファレンスに参加する皆さんも、貢献するという気持ちで参加してください。今回のカンファレンスが有料になったのも、参加費を負担してもらうことでオープンソースのコミュニティに貢献をするということだと思って下さい」という説明は、OpenStackやクラウドネイティブなシステムを導入してはいないが、検討しているというユーザーにとって良い理由付けになったのではないだろうか。欧米と異なり寄附の文化が希薄な日本で、有料のカンファレンスに対して技術的な情報に対価を払うのではなく、コミュニティを応援するために寄附を行うという発想の転換は、オープンソースプロジェクトならではだろう。
長谷川氏の挨拶に続き、OpenStack FoundationのExecutive DirectorであるJonathan Bryce氏が登壇した。
Bryce氏は、OpenStackによるインフラストラクチャーが多くの企業に拡がっていること、そして実際に本番環境でOpenStackが採用されていることを強調。ここではOpenStackが企業のクラウドインフラストラクチャーとしてはすでにデファクトスタンダードになったことを再度、訴求したと言える。
またOpenStack自体も、コアのソフトウェア以外に様々なプロジェクトを取り込みながら拡大していることを解説した。
かつて多くのプロジェクトがOpenStackの傘下で乱立し、ユーザーもデベロッパーも混乱した時期を乗り越えて、現在はコアとなるプロジェクトとエコシステムを多くの周辺プロジェクトが支えている。その中から、ベストプラクティスに従ってユーザーが選択することで、OpenStackはインフラストラクチャーから上のレイヤーに踏み出そうとしていることを感じさせるセッションとなった。
特にインフラストラクチャー層のトピックとして、物理GPUをシェアする仮想GPUのサポートや最新版以外のステーブルなリリースを安定的にサポートするためのExtended Maintenance、複数のリリースを一気にアップグレードするFast Forward Upgradeなどが紹介された。企業のIT部門のインフラストラクチャーチームが必要と考える仕組みを次々と導入したOpenStackコミュニティが、着実に進歩していることを実証したと言える。
また昨今、クラウドインフラストラクチャーがデータセンターだけに留まらず、エッジでのコンピューティングにも応用されることが大きな流れとなってきている。それを受けて、仮想マシンのプラットフォームだけではなく機械学習やコンテナ、サーバーレスなどへのプラットフォームとして応用分野を拡げていることを紹介した。
さらにクラウド自体がデータセンターからエッジに向かっていることを改めて強調した上で、これまで数年間、議論を重ねてきたというエッジコンピューティングのホワイトペーパーを紹介した。このドキュメントは、テレコム事業者が主な筆者となって作成されたものだが、エッジの定義を「エッジはエンドポイントとなる最小のキャパシティを持つデバイス」ではないとしているところが特徴的だ。これまでの「エンドポイントのデバイスをエッジ」と定義する製造業などのエンジニアと、テレコム事業者を中心とした「エッジはもう少し大きめのサーバー群」と定義する業界の違いにより、議論が進まないという事態が多々あった。しかしそれを払拭するためにまずは定義を決めて、議論を進めようというOpenStack Foundationの意図が感じとれた。
またOpenStack Foundationのトピックとして、IntelとHyperが開発を進めるKata Containersのホスティング、さらにこれまでOpenStackでの開発に使われてきたゲーティングシステムであるZuulの単独プロジェクト化を紹介した。特にZuulは、Ansibleをベースにした複数のプロジェクトをまたがるようなユースケースに特化したCI/CDシステムであり、新しくホストされたとは言ってもすでに数年間、OpenStackで使われてきた実績がある。OpenStack Summitでも、CI/CDはクラウド化に伴ってIT部門が取り組まなければいけないポイントとして挙げられていたが、それに対するOpenStack Foundationが用意した回答がZuulだったように思われる。
Zuulについては、メトリックスを用いてOpenStackでの使われ方を紹介するほどに重点を置いていることが伺われた。
またAT&Tと韓国のSK Telecomが協力して開発を進めるKubernetesとHelmを使ったOpenStack環境のライフサイクルを自動化するプロジェクト、Airshipも紹介された。ここでもITベンダーではなく、ユーザー企業が自社で開発したソフトウェアをオープンソースとして公開することで、ソフトウェアの進化を加速させようとする動きが活発になっていることを確認できた。
Bryce氏のスピーチに続いて登壇したのは、Cloud Foundry FoundationのExecutive Director、Abby Kerns氏だ。Kerns氏は北京で行われたLC3(LinuxCon+ContainerCon+CloudOpen China 2018)にも登壇しており、基本的な内容はその時とほぼ変わらず企業のデジタルトランスフォーメーションを促す内容となった。
今回のセッションでは、日本での事例、楽天とヤフージャパンにおけるCloud Foundryの事例が紹介され、クラウドネイティブなアプリケーション開発が進んでいることを示した。Kerns氏は北京のセッションにおいても中国語で挨拶を行い、今回のセッションにおいても日本語で挨拶を行うなど、開催国に合わせたきめ細やかな対応が見て取れた。
キーノートセッションとしては既視感のある内容だったものの、OpenStack FoundationそしてCloud Foundry Foundationからの強いエンドースだったと思えば、この2つのセッションは成功だったのではないだろうか。運営側の視点で見ると、最近のカンファレンスでは非常に人気の高いCloud Native Computing Foundationからのエンドースも欲しいように感じられた。これは、来年に期待したい。
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