IntelとAT&Tが推進するEdgeプラットフォームAkrainoとは?

2018年4月24日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Open Networking Summitで、IntelとAT&Tが推進するエッジコンピューティング向けのプロジェクトAkraino Edge Stackに関するプレゼンテーションが行われた。

The Linux Foundation主催のOpen Networking Summit North America 2018で話題となった新プロジェクトのひとつに、AT&TとIntelが推進するAkrainoがある。正式名称は「Akraino Edge Stack」とスライドには書かれているが、Akrainoと呼んで問題ないだろう。Edgeのプラットフォームとして、初日のArpit Joshipura氏のプレゼンテーションにも登場したことから注目されていることがわかる。

IntelとAT&Tが推進するAkraino

IntelとAT&Tが推進するAkraino

具体的には2018年2月にLinux Foundationが発表したリリースを参照して欲しい。

ネットワークエッジ向けHAクラウドサービスの連携を目指す新プロジェクトAkraino Edge Stackを発表

より詳細な情報は、2018年3月27日にリリースされたこちらのリリースにある。

Akraino Edge Stackへの業界によるコミットメントの拡大を発表

しかしこれらのリリースだけでは、全てを理解するのは不可能だろう。そこで今回は、AT&TとIntelが共同で行ったセッションを紹介したい。このセッションの内容は、IntelのMelissa Evers-Hood氏とAT&TのOliver Spatscheck氏が登壇し、Akrainoの概要を紹介するというものだ。

IntelとAT&Tがコードを寄贈したAkraino

IntelとAT&Tがコードを寄贈したAkraino

このスライドから分かるように、IntelはWind RiverのTitanium CloudのコードとNetwork Edge VirtualizationのSDKを提供し、それ以外のコードはAT&Tが提供している。より詳細なソフトウェアスタックは、次のスライドである程度知ることができる。

Akrainoのソフトウェアダイアグラム

Akrainoのソフトウェアダイアグラム

この図から分かることは、CentOSの上にストレージとしてCeph、その上にID管理のKeystoneが存在し、その上にコンテナの上で動くOpenStackや、Kubernetes上のHelmを使ってアプリケーションを稼働させるという仕組みだ。スライド右側に書かれた説明文を読むと、もう少し理解が進むだろう。

Intelが提案するソフトウェアスタック

Intelが提案するソフトウェアスタック

OpenStackはコンテナ化されて実行されること、SDNはCalicoを使うこと、Kubernetesのオーケストレーションと同時にHelmを使ってアプリケーションの管理を行うこと、ベアメタルの場合はPuppet、OpenStackの場合はHelmを使って実装が行われること、などが記載されている。つまり実装はコンテナベースで、OpenStackなコンテナ化された形で実行、OpenStackを使わない場合はKubernetesとHelmで実行という2つの選択肢があるようだ。

この仕組みを見て、筆者はよく似ているものがあることに気づいた。それはほぼ1年前にOpenStack Summit BostonでVerizonのBeth Cohen氏がキーノートでプレゼンテーションを行っていたシステム(いわゆるcloud-in-a-box)だ。

参考;Pushing the edges with OpenStack

このページの中にある動画を見ればすぐに理解できるが、Verizonのネットワークを使うビジネスユーザーが支店を開設する際に、必要な機能を収めた「cloud-in-a-box」というエッジのソリューションが、すでに稼働していることが分かる。これはOpenStackを必要最低限の性能を持ったホワイトボックスサーバーに収め、LTE、SD-WAN、Wireless LANなどを備えたアプライアンスである。

現状、エッジコンピューティングの「エッジ」の定義は、ベンダー側もユーザー側もそれぞれサイズや機能がバラバラであり、統一されていないのが現状だ。その中で、AT&Tというキャリアが使うエッジとVerizonが使うエッジはよく似ていると考えるのが当然だろう。

IntelとAT&Tが進めるAkrainoは、上述のVerizonのcloud-in-a-boxによく似た構造だ。ただ大きく違いがあるとすれば、Wind RiverのOpenStackディストリビューションであるTitaniumを使うことと、OpenStackを使わない場合を想定して、KubernetesとHelmでのアプリケーションワークロードに対応している点であろう。

すでに稼働中のVerizonのエッジコンピューティングプラットフォーム

すでに稼働中のVerizonのエッジコンピューティングプラットフォーム

OpenStackの仮想マシン単位での制御ではなく、KubernetesのPod単位でのワークロードが選択できること、Helmを使ってアプリケーションの追加や削除、更新などのライフサイクル管理ができるという部分が新しい点かもしれない。しかし一方で、Verizonのcloud-in-a-boxで紹介されていたPalo Alto NetworksのWeb Application Firewallや、ViptelaのSD-WANの機能が、Akrainoのダイアグラムの中には明らかに欠けている。オープンソースで揃えたいという気持ちは理解できるが、このままではすでに導入が進んでいるVerizonとの差別化は難しいだろう。

Self-service Portalが用意されたVerizonのエッジプラットフォーム

Self-service Portalが用意されたVerizonのエッジプラットフォーム

すでにVerizonのcloud-in-a-boxも、マイクロサービスや機械学習を視野に入れて開発が進んでいることを考えると、新しいプロジェクトとしてLinux Foundation配下で開発が進むAkrainoは、コミュニティの拡大やエコシステムの確立、必要なソフトウェアのカタログ化など、課題は山積みのようにも見える。来年のONSでの大きな進展を期待したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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