GitHub Universeでエンジニアリングのトップに訊いたベビーシッティングしない組織運営
GitHub Universeに来るたびに感じるのは、多くの女性エンジニアが活躍していることだ。特にVPやSenior Directorなどのタイトルにおいても、女性が部門をリードしていることを見ることができる。今回は、VP of EngineeringというタイトルでGitHubに入社(2019年1月)したDana Lawson氏にインタビューを行うことができた。
自己紹介をお願いします。
私はエンジニアリング部門のVPとして、2019年1月にGitHubに参加しました。GitHubに入る前はHeptioやNew Relicなどでエンジニアリングの仕事をやってきました。オープンソースソフトウェアにも20年以上関わってきていますし、デベロッパーとも一緒に仕事をしています。約1年前にGitHubに入った時は「ついにオープンソースソフトウェアのメッカにやってきた!」とエキサイティングな感覚になりましたね。
MicrosoftによるGitHubの買収が2018年10月ですから、その後にGitHubに入ったことになります。入ってみての感想は?
知り合いからも「大丈夫? どんな感じ?」と聞かれましたが、GitHubは独立して運営されているし、社員の数は増えましたけど、相変わらず小さなスタートアップのような雰囲気ですね。みんなGitHubのフーディを着て仕事していますよ。オープンソースソフトウェアを愛しており、その将来を信じて仕事をしているという意味では、最近のMicrosoftとも同じ意識を共有していると思います。
Danaさんはエンジニアリングチームのトップということですが、エンジニアリング部門をまとめるという仕事のフィロソフィーみたいなものはありますか?
GitHubのエンジニアは誰も自立しているし、エンジニアが属しているグループもそれぞれ自分たちが立てた目標に向かって仕事をしていますので、それほど苦労はしていません。気をつけているのは、エンジニアをベビーシッティングするようなことはしないという点です。もっとも、GitHubのエンジニアにはそもそもそういう必要はありませんでしたけど。これはエンジニアの自主性に任せるということでもあります。そして情報をなるべく公開してトランスペアレント、透明にしておくというのが私のやり方ですね。そしてたくさん会話をする。質問もしますし、質問されたらちゃんと答えるというやり方です。個人ではなくチームに対して、「こういう方向性でやれ」という言い方はしないですね。チームはそれぞれやるべきことを分かっていると思いますし。またメンバーもデベロッパー、ビジネスオーナーなどが混ざって編成されていますが、誰がそのポジションを交代しても良いようになっています。チームはそれぐらいに自律的になっていることが望ましいと思っています。
GitHubには女性が多く、特にリーダー的なポジションに女性が多い気がします。これについては?
私も過去の会社と比べて、最初はとてもびっくりしました。私の20年ほどのキャリアの中でもこんなに女性がリーダーの企業はなかったと思います。COOも女性だし、人事のトップも女性ですよね。これは、GitHubが見ている世界と同じような構成になっているということだと思います。デベロッパーは世界中にいますし、男性も女性も若い人もそうではない人も国籍も言語もバラバラです。そういうユーザーに対して仕事をする際には、我々もそういう構成であるべきだと思います。
中国にも多くのオープンソースソフトウェアのエンジニアがいます。彼らとは文化も社会のシステムも言語も違いますが、それについて何か気づいたことはありますか?
中国だからと言って何かが大きく違うということは感じませんね。GitHubのアイコンを可愛いネコのイラストにしている人がいたとして、その人がアフリカに住んでいるのか、中国のエンジニアなのか、別に気にならないでしょ? もちろん、中国のエンジニアが多く存在することはわかっていますし、ローカライゼーションの必要性なども認識していますが、デベロッパーにとってはソースコードがユニバーサルな言語だと思っています。なのでコミュニケーションという部分では多言語化は必要でしょうが、ソースコードという言語の上で仕事をすることは、あまり問題にはならないと思います。
しかしコミュニティによっては雰囲気も文化も変わってきますよね? そういう時に文化などを理解しておく必要があるのでは?
私の考えですが、人間は基本的に他人に対して親切で良いことをしようとする生物だと思っています。コミュニティによっては、独裁者的な人や問題を起こしがちな人がいることも事実ですが、それ以上に人間はお互いに良いことをしようとする。そう信じています。コミュニティにおいて問題が起こることはありますが、それの何倍も良いことが行われているということを信じています。
最後にDanaさんにとってのGitHubでのチャレンジは?
すでに知っているかと思いますが、GitHubは大変に分散された仕事環境になっています。オフィスに来る人よりも、リモートで仕事をする人のほうが多いのです。そこで分散されたチームが自律的に仕事を進められるようにアシストすることですね。今でもチームの中のコミュニケーションの大多数は、対話や会話で成り立っています。なのでメールやメッセンジャーなどだけに頼らないで、口頭で会話するという機会をちゃんと作ることですね。特に最近の「Generation Z」と呼ばれる若い人達は、電話がキライみたいなので。
そういえばRubyのコミュニティでは、絵文字が多く使われているというOctoverseの報告がありました。
そうです。なので絵文字を使ったコミュニケーションにみんなが慣れておくことも重要です。日本人が作った絵文字が、コミュニケーションの手段として使われているのは興味深いですよね。
そしてもう一つのチャレンジは、多くの機能をユーザーに押し付けないということかな。ユーザーにも色々な人がいて、彼らはさまざまな機能をリクエストしてきます。それらをすべて一度に実装しても、使いづらいものになってしまうでしょう。なのでちゃんと優先順位を付けて、ユーザーが受け入れやすいやり方で提供していくということが難しいのです。それもチャレンジの一つですね。
エンジニアリングとしてのフィロソフィーに、自身の過去の経験を活かしていこうとするLawson氏の意気込みが伝わってくるインタビューとなった。
写真で見るGitHub Universe 2019
最後にGitHub Universeのブースなどを写真で紹介しよう。
会場となったPalace of Fine Artsという場所は、通常のカンファレンスを行うような場所ではない。GitHubは数年前のUniverseでも工場跡地を使うなど、非常にクリエイティブな発想でカンファレンスを企画していることを肌で感じることができる。
各ベンダーのブースもカーペットの色で区分けされているようで、正方形、長方形という常識にとらわれない形状だ。
小さめのブースで展示を行うスポンサーは、通路にジグザクに配置されたブースで展示を行っていた。これはフラットに配置するよりも多くの壁面を作り出せるため、効果的な展示方法だったように思える。
そしていたるところにデスクと椅子、ソファーなどが配置され、セッションの合間にメールやメッセンジャーのチェックなどを行う参加者がくつろげる環境を作り出していた。
そしてGitHubと言えばOctocatのモナリザのノベルティが人気だが、オフィシャルグッズを売るショップも開設され大人気となっていた。
ちなみにこの公式ショップで売られるグッズの売上は、すべてチャリティに寄附されるそうだ。GitHubは昔から、営利企業でありながらチャリティへの寄附やUniverseにおいて性別をなくしたトイレを設置するなど、社会との関わりを意識していることを、(声高に主張せずに)着実に行っている企業でもある。来年のGitHub Universeが今から楽しみだ。
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