連載 [第48回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

LFが分散型テクノロジーエコシステムのための統括組織「LF Decentralized Trust」の立ち上げを発表、ほか

2024年9月30日(月)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、今月Linux Foundationから発表されたニュースの中から、いくつかのトピックを取り上げて紹介します。

「Linux Foundation Decentralized Trust」の立ち上げ

9/16に、分散型テクノロジーエコシステムのための統括組織である「Linux Foundation Decentralized Trust(LF Decentralized Trust)」の立ち上げを発表しました。

【参照】Linux Foundation Decentralized Trust、17のプロジェクトと100以上の創設メンバーと共に発足
https://www.linuxfoundation.jp/press-release/2024/09/linux-foundation-decentralized-trust-launches-with-17-projects-100-founding-members/

この組織はブロックチェーン、台帳、アイデンティティ、相互運用性、暗号技術、および関連技術の成長するエコシステム全体でコラボレーションとイノベーションを促進する新しい統括組織で、100以上のメンバーにより創設されました。過去にHyperledger FoundationやTrust Over IP Foundationとして活動してきたブロックチェーンやデジタルアイデンティティのオープンソースおよび標準化プロジェクトなどを基盤としているため、Hyperledger Foundationの下で開発されたブロックチェーンとその関連技術は、今後LF Decentralized Trustのプロジェクトになります。Hyperledgerブランドは、多くのプロジェクトで引き続き使用されます。

LF Decentralized Trustのランドスケープには、この組織の拡大された技術範囲を反映して新たに提供された2つのプロジェクトも含まれます。

  • Hiero – 独自のコンセンサスメカニズムを活用した堅牢な分散型台帳プラットフォーム。Hederaから提供されたHieroには完全なパブリックネットワークを展開および実行し、そのネットワークとやり取りするために必要なすべてのコアネットワークソフトウェアが含まれる
  • Lockness – Dfnsによって提供された、マルチパーティ計算やしきい値暗号を含む鍵管理とデジタル署名プロトコルのためのエコシステム

LF Decentralized Trustはコードプロジェクトのラインアップに加えて、インターネット規模のデジタルトラストのための堅牢なコモンスタンダードと完全なアーキテクチャを提供するためにLinux FoundationがJoint Development Foundation(JDF)として設立した、業界横断的なプロジェクトであるToIPの本拠地にもなりました。

また、50以上のコードベースを含んでいるHyperledger Labsはイノベーションとプロジェクトパイプラインのための重要な環境ですが、今後はLF Decentralized Trust labsとなります。これには、分散型トラストエコシステムをさらに成長させる最近の貢献も含まれています。

  • Signare – Adharaが提供した、DLT関連アプリケーションおよびEthereumクライアント向けのエンタープライズグレードのデジタル署名ソリューション
  • Splice – Digital Assetが提供した、組織がCanton Networkのために分散型同期インフラストラクチャを独自に作成できるようにするためのコードとリファレンス アプリケーション
  • Zeto – Kaleidoが提供した、ゼロ知識証明を使用したEVM向けのプライバシー保護トークンツールキット。今秋リリース予定の次世代EVMプライバシーフレームワークの一部

本組織の発足と同時に「Hyperledger Fabricバージョン3.0」の一般提供も発表されました。

【参照】LF Decentralized TrustプロジェクトHyperledger Fabricのバージョン 3.0 一般提供を開始
https://www.linuxfoundation.jp/press-release/2024/09/version-3-of-hyperledger-fabric-an-lf-decentralized-trust-project-now-available/

Hyperledger Fabricはモジュール式のブロックチェーン・フレームワークで、企業向けブロックチェーン・プラットフォームの事実上の標準であり、アプリケーションやソリューションの開発基盤です。プラグ・アンド・プレイで利用可能なコンポーネントを使用してさまざまなユースケースに対応します。

今回リリースされたHyperledger Fabric 3.0は、現在のLTS(Long Term Support)リリースであるバージョン2.5で導入されたパフォーマンス強化を基に構築されています。また、強力な新しいコンセンサスオプションであるビザンチン障害耐性(Byzantine Fault Tolerant:BFT)オーダリングサービスも提供しており、Hyperledger Fabricネットワークの回復力と信頼性が向上します。具体的には既存ネットワークへの実装が容易で、エンタープライズの本番環境への展開にも適したSmartBFTプロトコルを活用した初のブロックチェーンプラットフォームとなっています。

SmartBFTオーダリングサービスにより、Hyperledger Fabric 3.0を使用する企業はノードが侵害された場合でも業務の継続が可能となり、完全な分散型システムにとって重要な要件を満たすことができます。コンセンサスプロトコルにより、すべての当事者が同じ順序でトランザクションを処理することが保証され、これが分散型システムの整合性と一貫性を維持することにつながります。ノードが侵害された場合(ビザンチン障害)は整合性に影響を与え、システムを停止させる可能性があります。今回のFabricリリースでは、SmartBFTコンセンサスライブラリが統合されたことで、企業はこのような障害に対する実稼働環境での保護オプションを利用できるようになりました。

Hyperledger Fabricの普及を支援するため、LF Decentralized Trustは富士通がHyperledger Fabricの最新認定サービスプロバイダーとなる要件を満たしたことも発表しました。Hyperledger Fabric技術のエンタープライズへの展開をサポートし、コンサルティング、プロフェッショナルサービス、トレーニングを提供する専門知識を有する認定サービスプロバイダーは、現在16社となっています。

「2024年セキュアソフトウェア開発教育調査」を公開

9/18にLinux Foundation Research(LF Research)がOpen Source Security Foundation(OpenSSF)と協力して作成した調査レポート「Secure Software Development Education 2024 Survey」の日本語版「2024年セキュア ソフトウェア開発教育調査」を公開しました。

【参照】2024年 セキュア ソフトウェア 開発教育調査 (日本語版を公開)
https://www.linuxfoundation.jp/publications/2024/09/software-security-education-study-jp/

このレポートはソフトウェアの開発やデプロイに直接携わる専門家を対象に、セキュアなソフトウェア開発について調査した結果をまとめたものです。

主な調査結果から、ソフトウェア開発に携わる多くの専門家(28%)がセキュアなソフトウェア開発の知識が不足しており、システム運用(39%)、ソフトウェア開発者(27%)など、ソフトウェア開発・デプロイにおいて主要な役割のメンバーにセキュアなソフトウェア開発をよく知らない専門家が多くいることが分かりました。

セキュアなソフトウェア開発とデプロイにおける課題として「認識不足とトレーニングの欠如」(50%)が「時間的制約」(58%)に次いで2番目に多く回答されています。特にデータサイエンスの専門家(73%)は「トレーニング不足」を認識しており、最も懸念する事項であると回答しています。

データサイエンスの専門家は、セキュアコーディングの標準やその方法といったソフトウェアエンジニアリングの実践知識に乏しいアカデミック分野の出身者が多いことが考えられますが、データサイエンスの現場ではモデルやアルゴリズムを本番環境に直接導入することが増えており、セキュリティの実践知識の不足により脆弱性を埋め込み、大量の機密データを流出してしまうリスクがあります。特に機械学習(ML)システムで使用する場合には本番システムに直接導入されるモデルの学習データとして使用される場合もあるため、データ保護の観点からはより強固で実践的なトレーニングが必要であることを示していると考えられます。

このように、まだまだトレーニングが不足している状況は、大きな問題であるとこのレポートでは警鐘を鳴らしています。これ以外にも興味深い内容が含まれていますので、ご一読をお勧めします。

「Open Source Summit Japan & AI_dev: Open Source GenAI & ML Summit Japan」開催

最後は、10/28、29に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催される「Open Source Summit Japan & AI_dev: Open Source GenAI & ML Summit Japan」に関する情報です。

本イベントでは、最新のオープンソース技術やオープンソースの生成AIに関する最新情報を得られるので、興味のある方は参加を検討されてはいかがでしょうか。また、本イベントのボランティアスタッフも募集しているようなので、こちらもぜひ検討してみてください。

Open Source Summit Japan 2024 (10/28~10/29) ボランティア応募フォーム
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfz8ykeMfKRqHdKA7T6Ow_2l4Vl8eeTVNqSfKm2rUOEsf79Pg/viewform

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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