Open Source Summit Japan 2018開幕 Jim Zemlinの講演に続きAGLやHyperledgerの事例を発表
The Linux Foundation主催の技術カンファレンス「Open Source Summit Japan 2018」が、6月20日〜22日に開催された。併催はAutomotive Linux Summit Japan 2018。数年前までは「LinuxCon Japan」の名前で開催されていたカンファレンスだが、イベントおよびThe Linux Foundationのカバー範囲がクラウドやブロックチェーンなど周辺に広がったことにともない現在の名称で毎年開催されている。
20日午前のキーノートは、The Linux FoundationのExecutive DirectorであるJim Zemlin氏の講演から始まった。ここでは、20日午前のキーノートの前半をレポートする。
The Linux Foundationは「イノベーションのエンジン」を作る
Zemlin氏は「Building Innovation Engines」と題して、オープンソースのエコシステムについて、The Linux Foundationの各種プロジェクトを紹介しながら解説した。なお、同氏は本題に入る前に、大阪での地震被害についての哀悼の意を述べた。
まずZemlin氏はLinuxがスーパーコンピューターからスマートフォンまでさまざまなところで動いていることを紹介。先日IBMがスーパーコンピューターのランキングで1位を獲得したが、そこでもLinuxが使われていると語った。
そのうえで、The Linux FoundationがLinux以外の分野にも広がっていることをZemlin氏は強調した。セキュリティ分野ではSSL/TLS証明書を無償で発行するLet's Encrypt、ネットワーク分野ではSDNのOpenDaylightやONAP、自動車ではAutomotive Grade Linux、ブロックチェーンではHyperledger、クラウドではKubernetesなど、WebではNode.jsといったプロジェクトをThe Linux Foundationがホストしている。
そのThe Linux Foundationは41か国から1321以上の参加企業があり、毎日のようにどこかの企業が入っているという。
オープンソース開発全体は、The Linux Foundation以上に成長している。「少し前のデータだが」とZemlin氏は断りつつ、2300万任以上の開発者、7800万以上のGitHubリポジトリなどの数字を紹介した。
ここでZemlin氏は、GitHubのMicrosoftによる買収に言及した。「これは、Linus Torvaldsの開発したgitそのものがすばらしいということと、GitHubがすばらしいということを意味している」と同氏。特にGitHubがソーシャルコーディングの時代を作り、多くの人がオープンソースに参加するようになったと賞賛した。「Microsoftによる買収に懸念を抱く人もいるが、新しいCEOのNat Friedmanは私も知っているオープンソース開発者だ」(Zemlin氏)
そして、この買収についてWinston Churchillの「In War: Resolution, In Defeat: Defiance, In Victory: Magnanimity, In Peace: Good Will(戦争には決断を、敗北には抵抗を、勝利には寛大さを、平和には善意を)」という言葉を引用し、「LinusがLinuxを始めたときは反抗だったが、いまやオープンソースは勝利のときを迎えている。どのような国でも、男性でも女性でも、いっしょにやろう」とZemlinは語った。
Zemlin氏は「The Linux Foundationが注目していることは1つ。『イノベーションのエンジンを作ること』だ」と述べた。そしてそれを「Projects」「Products」「Profits」の3要素のサイクルの図で表した。ベストなアップストリームのプロジェクトがあり、それを使ったダウンストリームのプロダクトが作られ、それが価値を生み出す。その価値からプロジェクトに投資(資金や人など)がなされ還元される。
氏は同じことを「Projects」「Solutions」「Value」の3つの歯車が組み合わさってそれぞれ回る図でも表した。「この歯車をどうやって早く回すかを考えたい」とZemlin氏。
「Projects」については、これが世界最大のイノベーションを実現すると説明した。また、「Solutions」については、企業の中でどうコードを役立てるか、上司に価値をどうプレゼーションするかなどを鍵とし、「The Linux Foundationはこの歯車をいかに回すかが鍵となる」と説明した。「Value」については、何十億のマシンでLinuxが動いていることを挙げた。
こうしたオープンソースのエコシステムとThe Linux Foundationの関係について、Zemlin氏は「GitHubには7800万以上のプロジェクトがあるが、そのうち1万ぐらいの一握りのプロジェクトが世の中を回す」とロングテールの図を示し、「こうしたよいアップストリームを確保するのがわれわれのの目標だ」と語った。
The Linux Founcationのプロジェクトの例としては、まず通信事業者向けのONAP(Open Network Automation Platform)が紹介された。これはAT&Tと中国移動通信(China Mobile)のそれぞれのコードベースをThe Linux Foundationがつないで発足したという。「AT&Tだけでも16億ドル以上の削減ができたと言っている」とZemlin氏は紹介した。
次はCNCF(Cloud Native Computing Foundation)。「どうやってクラウドのポータビリテッィを確保するかという問題に対して、これまでたくさんの努力がなされてきた。それが、コンテナとKubernetesがで出てきて、かなり目標に近づいた」とZemlin氏。現在では235以上の企業がCNCFのメンバーになり、大手クラウドプロバイダーがみなKubernetesプラットフォームを提供している。
Automotive Grade Linuxについては、デトロイトのモーターショーでZemlin氏が講演したところ、トヨタの村田賢一氏と話が進み、現在ではすでに製品で使われていることが紹介された。
Zemlin氏は最後に、「アップストリームもダウンストリームも、いかにしてイノベーションの歯車を早く回すか、これからも取り組んでいきたい」と述べて講演を終えた。
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