CNDT 2020開幕、2日目は富士通、レッドハットからの率直な話が聞けた

2020年9月11日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
CNDT 2020がオンラインカンファレンスとして開催。2日目には富士通、レッドハット、コロプラなどがキーノートに登壇した。

CloudNative Days Tokyo 2020の2日目のキーノートには富士通、コロプラ、レッドハット、New Relicの各社が登壇した。1日目のキーノートはエンドユーザーであるサイボウズ、プレイドなどがリアルな経験に基づいたノウハウを開示し、ベンダーである日本アイ・ビー・エム、JFrogが自社の製品やソリューションを売り込むセールスピッチだった。それに対して2日目はベンダーである富士通、レッドハットがぶっちゃけ話というスタイルでセッションを行い、エンドユーザーとして登壇したコロプラがキレイに事例としてまとめていたと言える。

2日目のキーノートのトップは、CNCFのビジネス開発担当であるKatelin W RamerによるPinterestとZalandoにおけるKubernetesのユースケースを紹介するビデオから始まった。

キッチンで撮影するCNCFのビジネス開発担当のKatelin W Ramer氏

キッチンで撮影するCNCFのビジネス開発担当のKatelin W Ramer氏

富士通の社内公募プロジェクトの詳細

この短いビデオの後に登壇したのが、富士通の亀澤寛之氏だ。

富士通の亀澤氏のスライド1枚目

富士通の亀澤氏のスライド1枚目

亀澤氏は過去にLinuxのカーネル開発にも関わってきたというオープンソースソフトウェアのベテランで、CNCFのボードメンバーとして活動してきたという経歴を持つ。今回の発表は、クラウドネイティブなソフトウェアを実際に社内からエンジニアを公募して開発したというプロジェクトtunaclo.netに関する経験を赤裸々に語る内容となった。

亀澤氏が当初考えたシステムの概略

亀澤氏が当初考えたシステムの概略

ここではコンテナ、Googleが開発したGo言語、gRPC、そしてCI/CDを実行できるクラウドネイティブなシステムを構想として持っていたことがわかる。しかしスタッフを社内から公募した結果、Windowsの商品企画やメインフレームの開発など、クラウドネイティブなシステムを開発する要員としては想定外の人材が集められたという。

想定とは違う人材が集まってしまった

想定とは違う人材が集まってしまった

ただ、フタを開けてみれば業務以外で必要なスキルセットを取得しているメンバーばかりだったとして、「運よく必要なスキルは揃った」という。

業務以外のスキルが役に立った

業務以外のスキルが役に立った

次に紹介したのはこのプロジェクトの概要だ。Tunaclo API Connectという名称で紹介されているシステム間を繋ぐゲートウェイ的なソフトウェアである。実際にはルーターとエージェントによって構成され、Kubernetes、Docker、ログの収集にFluentd、構成管理にAnsibleとTerraformと、クラウドネイティブなシステムでは定番のソフトウェアが使われている。

コンテナを実際に使ってみてわかった良さ

コンテナを実際に使ってみてわかった良さ

またGo言語、gRPC、JavaScriptの学習コストは予想よりも高くなく、「まず使ってみることをお勧めする」とコメントして、クラウドネイティブなシステムの入口としてコンテナ、そして開発言語としてGoの使用を推薦した。

Go、gRPC、JavaScriptの良いところ

Go、gRPC、JavaScriptの良いところ

しかしながらデータベースの選択や設計、そしてパブリッククラウドを使う際の従量課金などについては、学習コストだけではなく実際に思った以上の請求がきて驚いたなどのエピソードを紹介した。

データベースと従量課金は鬼門

データベースと従量課金は鬼門

そしてプロジェクトを俯瞰した上で必須となったスキルは、全体を見据えた構想力、インフラストラクチャーやHTTPの知識、スクラムマスター、そしてセキュリティだったという。

プロジェクトで必須となったスキル

プロジェクトで必須となったスキル

またKubernetesについては使ってはいるものの、まだ評価できるレベルではないこと、学習コストが高いことなどを挙げた。

プロダクトオーナーの立場からの振り返りとして、「決断を行うのが仕事」「情報やロードマップは共有すべき」「ペアプログラミングを高く評価している」ことなどを挙げた。ペアプログラミングはアジャイル開発の中では有効な手段として知られているが、集合しての業務が困難になる現状では難しいだろう。このプロジェクトの中でもリモートワークでの働き方を模索していることを紹介した。

プロダクトオーナーとしての振り返り

プロダクトオーナーとしての振り返り

まとめとして「コンテナが役に立つこと」「開発に利用する言語の選択が重要であること」「障害対策などは早めにやるべき」などを挙げて、講演を終えた。

劇的な効果を示したコロプラの事例紹介

次に登壇したのは株式会社コロプラのCTO、菅井健太氏だ。菅井氏はGCP上で開発されているゲームプラットフォームに関する解説を行った。

コロプラの提供するゲームとそのプラットフォームを紹介

コロプラの提供するゲームとそのプラットフォームを紹介

ここではシンプルにGCPの上でMySQLをベースに行われていたゲームの開発が、分散型のデータベースCloud Spannerを使って変化に対応できるように進化していったことを紹介した。

Cloud Spannerがコロプラのニーズに合っていた

Cloud Spannerがコロプラのニーズに合っていた

インフラストラクチャーのアーキテクチャーとしてはKubernetesを採用して、モダンなクラウドインフラストラクチャーを実現しているという。

全面的にGoogle Cloudを採用したシステム構成

全面的にGoogle Cloudを採用したシステム構成

結果として運用コストの削減は98%にも及んだことが紹介された。

運用コストは劇的に削減

運用コストは劇的に削減

まとめとして、ユーザー動向に合わせてテクノロジーを選択することの重要性を訴えて講演を終えた。コンシューマーを相手にするサービスを展開するコロプラだけに、あからさまな失敗談はできなかったことを考えると、卒なくまとまった成功事例のセッションであった。

レッドハットが明かすOSSのペースとマッチしない日本企業の実態

その次に登壇したのはレッドハット株式会社のアーキテクト、斎藤和史氏だ。

レッドハットの斎藤氏もぶっちゃけ話モード

レッドハットの斎藤氏もぶっちゃけ話モード

斎藤氏は実際に経験したKubernetesの実装をベースに、Kubernetesのインフラとしての保守の難しさを紹介した。

Kubernetesの保守は難しい

Kubernetesの保守は難しい

Kubernetesは頻繁にアップデートされるのに対し、日本のエンタープライズ企業ではITシステムに対して長期の保守サポートを要望し、機能追加やバグ修正などのアップデート自体が年単位の間隔で実施される。このように実態とユーザーの要望が乖離していることを紹介した。

Kubernetesと日本のユーザーとの乖離

Kubernetesと日本のユーザーとの乖離

またCNCFが提唱するクラウドネイティブなシステムに向かう順序として、コンテナ化の次にCI/CDの導入が挙げられていることに注目して、シンプルなCI/CDのパイプラインが上手く回らない状態について解説。ここでは開発の現場で起こる問題点を挙げて説明した。

CI/CDの失敗例

CI/CDの失敗例

ここでKubernetesの導入には、技術的な問題よりも組織的に開発~ビルド~テスト、テスト環境から本番環境へのフローの中に多くの問題が存在しており、それがKubernetes自体の実装を阻害していることを強調した。

Kubernetes自体ではなく組織的な問題が原因

Kubernetes自体ではなく組織的な問題が原因

そしてゼロからクラウドネイティブなシステムを新しいチームで作るのであれば理想的な開発事例となるところだが、実際には既存のシステムが存在し、それをクラウドネイティブにすることの可否を判断する必要があると解説した。

現実と理想は異なるという当たり前のことを紹介

現実と理想は異なるという当たり前のことを紹介

そこからは社内にクラウドネイティブなシステムに肯定的な人を見つけてコミュニティを拡大していこうという、やや精神論的な議論からコミュニティの作り方などを紹介した。

最後にCoreOS(Red Hatが買収)によって開発が始められたOperator Frameworkを紹介。ここではKubernetes以外のソフトウェアをKubernetes上に実装するためのノウハウ集とでもいうべきOperator Frameworkを解説した。そして最終的にOperatorとKubernetes全体のライフサイクルを管理するOperator Lifecycle Managerを紹介してセッションを終えた。

レッドハットの斎藤氏のまとめ

レッドハットの斎藤氏のまとめ

OSS採用はコスト削減ではないと解説するNew Relic

2日目のキーノート最後に登壇したのは監視のためのSaaSを展開するNew Relicの清水毅氏だ。

New Relicの清水氏のアジェンダ

New Relicの清水氏のアジェンダ

清水氏は、オープンソースソフトウェア界隈に監視や可視化のためのツールが数多く存在しており、それぞれが進化していることを解説。しかし実際にオープンソースソフトウェアとして無償で導入できるソフトウェアも、サポートのコストを考えると必ずしもコスト削減にならないことを強調した。

OSSはコストセービングにはならないと解説

OSSはコストセービングにはならないと解説

そこからNew Relicが提供するサービスとしてのオブザーバビリティを解説。ここからはNew Relicのサービスの紹介として、新バージョンがPrometheusやGrafanaとネイティブに接続できることや、機械学習を応用した異常検知などのサービスを紹介した。

PrometheusやGrafanaとネイティブに接続できる新バージョンを紹介

PrometheusやGrafanaとネイティブに接続できる新バージョンを紹介

* * *

2日目のキーノートでは富士通の亀澤氏がぶっちゃけ話のスタイルでプロジェクトでの経験を語るというセッションからスタートした。そしてレッドハットの斎藤氏がカジュアルな語り口で、日本企業とクラウドネイティブなソフトウェアの代表であるKubernetesとを対比して、リアルな問題点を提起するという流れとなった。ベンダー側のいわゆるセールスピッチに飽きている参加者には良い刺激になったのではないだろうか。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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