テスト自動化をSaaSで展開するmablが日本での活動を本格化。創業者にインタビューを実施

2022年8月9日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
テスト自動化のソリューションをSaaSで提供するmablの創業者が来日。説明会の内容と個別に行ったインタビューの内容を紹介する。

テスト自動化のソリューションをSaaSで提供するmablの創業者が来日し、メディア向けに説明会を行った。この記事では説明会の内容に加えて、個別に行ったインタビューも紹介する。

mablの創業者、左がIzzy Azeri氏、右がDan Belcher氏だ

mablの創業者、左がIzzy Azeri氏、右がDan Belcher氏だ

mablは2017年に創業したベンチャーで、SaaSベースのテスト自動化サービスを提供している。2人の創業者はモニタリングツールのStackdriverを開発していた経歴を持ち、StackdriverがGoogleに買収された後にmablを創業した。同社ではSeleniumを第1世代のテストツールとして位置付け、mablはそれを代替するソリューションであると訴求している。日本展開を本格的に行うために、GitHubやElastic、Auth0の日本代表だった藤田純氏をエンタープライズセールスの責任者として迎え入れ日本での展開を開始した。

エンタープライズセールスを担当する藤田純氏

エンタープライズセールスを担当する藤田純氏

「テストはソフトウェアのライフサイクルの中で重要なプロセスではあるものの、これまではあまり注目されてこなかった」説明会は、セールスとマーケティングを担当するAzeri氏のこの言葉から始まった。特にDevOpsの拡大に伴ってテストの市場、つまり企業がテストに費やすコストが増大していることを指摘。QAプロセスのアウトソーシングに740億ドル(約10兆円)のコスト、そしてテスト自動化ソフトウェア市場の規模も35億ドル(約4700億円)となっていると語った。注目すべきはオープンソースのテスト自動化ツールであるSeleniumを使っている企業や組織が4万社も存在する点だとして、Seleniumの機能を置き換えるSaaSのサービスを提供することで成長を狙っていることを解説した。

Azeri氏は日本市場の参入について世界で3番目の経済大国であることを主な理由として挙げたが、実際には日本では先進的なユーザーがmablを使ってテスト自動化を進めていたこと、その結果としてオーガニックにユーザーが拡がっていたことを理由に挙げた。日本よりも市場として大きいと思われる中国を対象としないのか? という質問に対しては「求めているユーザーがいる場所を最優先する」として、日本の次はヨーロッパを狙っていることを明らかにした。

インタビューに答えるAzeri氏(左)とBelcher氏(右)

インタビューに答えるAzeri氏(左)とBelcher氏(右)

加えて個別のインタビューでは、「中国はインターネット検閲の影響でSaaSとしてのビジネスがやりづらいこと、またユーザーのサインアップも難しいこと」などを挙げた。エンジニアリング担当のBelcher氏の「Googleのサービスが使えない場所でSaaSをやるのは難しい」という言葉が、中国でのSaaSビジネスの難しさを表していると言えるだろう。

またパフォーマンスレポーティングが将来の計画に入っていることについて「パフォーマンステストについては本番環境でなければ意味がないのでは?」という質問をしてみた。それに対しては以下のように答えた。「パフォーマンステストは例えばWebアプリケーションの場合、ブラウザーに表示を行うコードのどの部分で最も時間がかかっているのか? を確認することができる。これは開発環境においてパフォーマンスについてもテストすることで、本番環境で行うよりも早い段階で問題点を見つけることを意味している。テストを行うランナーはデベロッパーのノートPCでも実行できるので、開発段階でパフォーマンステストを行う意味は大きい」さらに「その意味ではNew RelicなどのAPM(Application Performance Management)と同じような領域に入っているのでは?」という質問には「APMとテスト自動化の境界線はすでにぼやけていると言える。デベロッパーからみれば早い段階で問題点が見つけられるのは良いことだ」と回答した。

セキュリティに関するテスト(ペネトレーションテストなど)についても構想はあるが、現在はアクセシビリティテストやAPIテストなどを優先していると回答した。「ユーザーがmablを使ってセキュリティに関するさまざまなテストを行っていることは把握している。実際にユーザーと話し合ってみると、我々の想定以上の使い方をしていて驚かされるよ」とBelcher氏は語り、ユーザーの希望を聴き続けることを約束した。

パンデミック前に来日した際に、すでに最も初期のユーザーだったnoteとはミーティングを行い、今回も個別にミーティングを行って機能要件などについてディスカッションを行ったという2人の創業者だったが、「実際にユーザーからリアルな声を集めることができるのは大変有意義だった」と語った。

noteの事例:DevOpsの導入に賭け、継続的テストによって、より自信を持ってリリースできるようになったnote株式会社

オープンソースではなくサービスとして提供されるmablのソリューションについて、ユーザー同士が意見を交換するユーザー会的な活動をもっと拡げていきたいとAzeri氏は語っていた。エンタープライズ向けのサービスに対して多くの経験を持っている藤田氏がその期待に応えていけるのか、注目したい。ちなみにすでにコーポレートサイトは日本語化が行われている。

公式サイト:https://www.mabl.com/ja/

Azeri氏とBelcher氏の名刺。両名ともco-founder(共同創設者)だ

Azeri氏とBelcher氏の名刺。両名ともco-founder(共同創設者)だ

最後に名刺交換を行った際に「どちらも共同創業者というタイトルですが、これでは日本の肩書を重んじるビジネスマンは不満かも?」とコメントすると「私たちはもう15年以上も一緒にビジネスしているから誰が何をするのかはお互いわかりきっているが、外からみれば必要かもね」とコメントした。ボストンから来日して毎日顧客とのミーティングばかりだったという両名だが、今後の展開に期待したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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