連載 :
  インタビュー

ChefのCEOらが日本市場参入とパートナー戦略を語る

2017年4月11日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
ChefのCEOらが来日。ThinkITのインタビューに応じて、日本市場への本格参入やコンプライアンスチェックを自動化するテストフレームワークなどについて語った。

Chefは、サーバーなどの構成管理と自動化を実現するプロビジョニングツールとして広く使われているオープンソースソフトウェアだ。今回、Chefの本社からCEO、CMO、APAC担当のセールスディレクターなどが来日し、ThinkITのインタビューに応えた。日本市場への本格参入や、新たに投入するコンプライアンスをチェックするテストフレームワークの概要、そしてコミュニティの重要性などについて語ってもらった。

まず自己紹介をお願いします。

チェニー氏:ケン・チェニーです。チーフマーケティングオフィサー(CMO)としてマーケティングを担当しています。かつては、HPでエンタープライズ向けのソリューションのマーケティングをやっていました。

クリスト氏:私はバリー・クリストです。ChefのCEOに就いてもうすぐ4年になります。ケンとはマーキュリーインタラクティブとLikewiseでも一緒に仕事をしていました。Appleで働いていたこともありますので、日本にはもう50回くらい来ています(笑)。

トゥック氏:ポール・トゥックです。私はメルボルンから日本を含むアジアパシフィック(APAC)地域のセールスの責任者です。2016年の6月まではレッドハットで働いていました。

では今回の来日の目的を教えてください。

クリスト氏:まずはクリエーションラインなどのパートナーや顧客と会い、Chefを拡げること、そしてもうひとつが日本での法人の設立に向けた調査をするということですね。日本は、Chefにとって関係が深いのです。ChefのDSL(Domain Specific Language)はRubyなのですから。また最近のソフトウェア開発のエリアでは「かんばん」が流行っていますが、これも日本がオリジンなのはご存知だと思います。私達は、日本には大きな興味を抱いているのです。

ChefのCEOバリー・クリスト氏

ChefのCEOバリー・クリスト氏

トゥック氏:特に楽天やヤフージャパンなどの日本のエンタープライズ企業がChefを使ってくれていることは重要です。他の日本の企業にも、もっとChefを使っていただきたいと思っています。

チェニー氏:日本のテック関連のイベントでも、Chefは人気があります。例えばDevOps Dayというコミュニティイベントもありますし、その中でセッションを持っていたりします。楽天テックカンファレンスでも、Chefのエバンジェリストであるマイケル・ドゥシーが登壇します。

日本法人の立ち上げはいつごろでしょうか?

クリスト氏:まだ調査をしている段階なので、もう少し時間が必要ですね。

パートナーに関してですが、クリエーションライン以外には?

クリスト氏:Chefは、AmazonやMicrosoftともとても良い関係を続けています。MicrosoftのカンファレンスでChefのセッションが行われることもありますし、AWSのカンファレンスでも同様です。Web系の最先端のソリューションを構築するパートナーとして、クリエーションラインはAWSやMicrosoft Azureとともに非常に重要です。ただし他のトラディショナルな企業向けにも訴求していかなければいけないと思います。それらの企業にリーチするために、HPEやIBMとも協業を進めています。昨日、日本アイ・ビー・エムの人たちとミーティングをしましたが、非常に良い話し合いが持てました。

つまりWeb系の企業向けにはクリエーションラインのようなパートナー、大企業向けにはHPEや日本アイ・ビー・エムというように使い分けるということですね。

クリスト氏:そうです。ただ現在の先端的な企業が行っていることは、将来的には大企業でも起こると思います。今から数年後には、多くの大企業でデジタルトランスフォーメーションに向けて、現在楽天やヤフージャパンで行われているような手法でソフトウェアが開発され実装されていくと思います。

例えばUSでGEが自身を変革しているような形でしょうか。

クリスト氏:その通りです。実のところ、GEはChefのトップ5カスタマーでもありますので、それは正しいと思います。GEによれば、「Chefは社内で一番使われているソフトウェアである」とコメントしてくれています。

日本市場でのチャレンジは?

クリスト氏:企業が自身でデジタルトランスフォーメーションを起こすことをバランス良く支援すること、ですね。従来的な企業がソフトウェアをベースにイノベーションを起こすことは、トレンドというよりももはや生き残るために必要なことなのですが、我々のようなベンダーは往々にして強制的になったり扇動的になったりしがちなのです。

チェニー氏:例えばサーバー数百台を一度にデプロイすることは、マニュアルでは不可能です。しかし自動化することでそれが可能になるということは、すでに実際に行われています。そういう部分に関しては、技術だけではなく組織的な変革が必要であるということを認識してもらうことが必要です。

ChefのCMOであるケン・チェニー氏

ChefのCMOであるケン・チェニー氏

クリスト氏:そういう変革を一度に行うこと、それよりも前にまず理解してもらうことは難しいのです。なので、小さなモデルから少しずつ行うことが必要です。

トゥック氏:ニュージーランドのWestpacという銀行でも同じことが起こっています。小さなチームを組織して自動化やDevOpsを実行できることを証明して、それを社内の他のプロジェクトに適応する、小さく始めて早く失敗する、失敗の原因を直して素早くサイクルを繰り返す、それを実際に行っています。

ChefのAPAC担当セールスディレクターであるポール・トゥック氏

ChefのAPAC担当セールスディレクターであるポール・トゥック氏

クリスト氏:オープンソースソフトウェアにとってコミュニティというのは非常に重要な要素で、それがなければソフトウェアは進化しないと思います。ですので、ベンダーだけではなく顧客が参加してくれるコミュニティを作ることがとても大事だと思っています。いつかは、楽天やヤフージャパンのエンジニアとニュージーランドのWestpacのエンジニアが一緒に語り合えるという機会を作りたいですね。

Chef以外の2つのプロダクト、HabitatとInSpecについて教えてください。

クリスト氏:Habitatは、2016年に発表したアプリケーションのオートメーションを実行する次世代のオープンソースのプラットフォームです。アプリケーションを実行するための環境定義をアプリケーションと一緒にパッケージすることで、どこにそのアプリケーションを持っていってもすぐに動かせる、ということを実現します。InSpecはソフトウェアのコンプライアンスをテストするフレームワークで、これもオープンソースソフトウェアです。

これまでは、ソフトウェアを開発した後でそのソフトウェアが企業のコンプライアンスに適合しているかを、分厚いバインダーやPDFなどのマニュアルを用いて行っていました。InSpecは、それをソフトウェアで実行するというものです。

日本法人の立ち上げの際にはぜひもう一度話を聞かせてください。ありがとうございました。

インタビューを通じて、Chefが日本のIT部門の状況や、開発部門と運用部門が分かれておりDevOpsが難しいことなどをよく理解していることが感じられた。同時にRuby、かんばんなどの日本発のものに対する敬意も感じられたChefのVIPたちであった。日本法人の立ち上げが楽しみである。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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