テスト自動化のMagicPodのCEO伊藤氏にインタビュー。テスト自動化の未来を語る
ノーコードのテスト自動化ツールをクラウドから提供する株式会社MagicPod。そのCEOである伊藤望氏にインタビューを行った。
伊藤さんがテストツールを作るに至った経緯を教えてください。
私は新卒で会計ソフトを開発するワークスアプリケーションズに入社して、1年くらい固定資産管理のモジュールの開発を行っていました。そこで開発しながら品質が上がらないということに対して、テストができていないからではないかという不満がありました。ユニットテストのコードを書いてそれを使うというのもありましたけど、みんな使いません。そこで画面の操作を覚えてそれを自動化してテストするツールなら使ってくれるんじゃないかという発想はあったので、それなら今の状況をなんとかできるんじゃないかと思ったのが最初ですね。それで当時の上司との面談の際に「テスト自動化をなんとかしたい」と訴えたら、じゃあ企画書持ってきてと言われまして。頑張って書き上げて持って行ったら本当に持ってきたって驚かれたんです。持ってこいというから持って行ったのに。
で、その提案書が認められて最初は一人で開発を始めました。当時のワークスはWindowsプラットフォームで言語はDelphiでしたが、テスト自動化ツールはほとんどなく、あっても精度が低いものでした。それでユーザーインターフェースの上でオブジェクトを認識して操作を実行するっていうモジュールはあっけなく作れちゃったので、これは簡単にできるって思ったんです。でもそこからは結構苦労しました。そこで3年くらいテスト自動化の社内向けのツール開発をやってそろそろ起業しようということで、2012年にMagicPodを設立しました。
当時はDelphiをここまで極めたエンジニアはいないんじゃないか? と思うくらいには隅から隅まで知り尽くした上で開発していましたけど、それって他で使えないんじゃってことで、ブラウザーをプラットフォームとしてテスト自動化ツールの開発を始めました。しかしWindowsと違って、それぞれのブラウザーの内部のAPIが100%公開されているわけではないので苦労しましたね。最初はSeleniumのサポートとかもやっていてコミュニティで活動していました。最初に作った製品はあまり上手く行きませんでしたが、ここ最近はかなりイイ感じにビジネスも伸びています。
イイ感じになってきたのはどういう理由ですか?
10年前はテスト自動化の話を大企業の情報システムに持ち込んでも「うちはテストはマニュアルでやっているから間に合ってる」みたいなことを言われましたけど、最近はテスト自動化は当たり前、みんなやってるからうちもやるみたいにはなってきましたね。MagicPodの製品はクラウドベースなので、めんどうなインストール作業は必要ありません。特に国内のモバイルアプリのノーコードテスト自動化は、独り勝ちに近い状態です。ノーコードでユーザーインターフェースから操作するだけでテストが作れるので、エンジニアではない人でもテストを作れる点が大きい気がします。
あとクラウドベースのサービスを使うっていうことに抵抗がなくなってきているのは感じますね。何がなんでもオンプレにインストールして使うという発想が減ってきていると感じます。
東日本大震災の時にオフィスが被災して社内のコンピュータが軒並み使えなくなってデータが復旧できないっていう状況から一気に、クラウドでデータ保護したほうが地震が多い日本には向いてるんじゃ? という気運が高まった記憶があります。
ワークスアプリケーションズでも震災の時にテスト自動化チームだけはAWSを使っていたため、他のチームは「サーバーの復旧が!」と慌てていましたが、うちのチームは何の問題もなかったってこともありましたね(笑)。あと4~5年前くらいからAIを使ってテストを実行するっていうマーケティングメッセージを使い始めた辺りから、テスト自動化というのがかなり効果的になってきたというのはありましたね。
テスト自動化をSaaSで提供しているわけですが、価格のモデルは?
テストに限らずSaaSの価格体系を決めるのは難しいと思います。10年前に起業した時から思っていることがあって、「テストを多くのエンジニアに使ってもらうためには、端末の台数とかデータ量とか実行回数で課金してはいけない」ということだったんです。これをやるとテスト自動化がエンジニアの中に拡がらないし、使い始めてもその制限というか課金がネックになって使ってもらえないと信じてました。
そのためMagicPodの課金は「作成したテストの数」で課金されるようになっています。こうすれば開発チームの全員が使って何回テストを実行しても料金が跳ね上がることはありません。
どこかのデータベースの会社のようにCPUのコア数とか、某パブリッククラウドのようにデータ転送量では課金しないと。
そうです。でもテストの数にしたのはもう一つ意味があって、むやみやたらにテストを作らないで欲しいという思いも入ってます。テスト数が無制限、実行回数で課金っていう方法だとテストの数だけが増えてテスト実行回数が増えないというアンチパターンになると思っていますから。あとエンタープライズ向けにはセキュリティに関する機能が追加されていますので、それはまた別途という感じですね。
MagicPodの将来計画は?
今までのMagicPodのテストはノーコード、つまりアプリケーションの操作画面をマウスで選択していってAIがオブジェクトを自動判定したり、修正に自動で適応したりするといった形で、コードを書かないでテストを作っていきます。しかしエンタープライズ系のエンジニアには、テストをコードで書きたい、それをGitなどで管理したいというニーズがあるんですね。そのニーズがあるのは把握していましたが、今のMagicPodのソリューションではそれができません。そこで、「ノーコードでテストを作りたい、でもテストをコードとしても管理したい」という2つのニーズを満たすためにどっちでも可能なようにしたいと思っています。
つまりユーザーインターフェースを見ながら生成するテストの手順をコードに変換する、コード化されたテストからユーザーインターフェースに変換するみたいなことがどっちもできるツールにしたいと思っています。
最近の流れで、システムの脆弱性というか攻撃に対する防御力みたいな部分をテストでやって欲しいという声はありませんか? つまりSQLインジェクションされても大丈夫なようにテストを実施して欲しいというニーズですが。
それについては他の脆弱性スキャナーと組み合わせて実行する形が良いのかなと思っています。アプリケーションのテストと同時に脆弱性スキャナーを実行してその結果を確認するみたいな流れで。CIのワークフローの中で実行できるようにMagicPodのソリューションは連携が可能なようになってます。今のところ、そういう声はまだあまり多くはないですね。
他には「システムに負荷をかけるテストとかを実装して欲しい」という声は聞いてますね。つまりブラウザーを100台用意して負荷テストするとみたいな話ですけど、今でも単純に100台まで複数実行すれば可能ですが、あんまりクールじゃないというか、よりスマートなやり方があるんじゃないかとは思います。他にも前回のテストに比べて今回のテストだとここで性能が落ちてますよみたいな分析を見せてあげる機能などが必要かもしれません。
それってNew Relicとかのオブサーバビリティのツールベンダーも狙っている領域ですね。Mablの取材の時にもテストとアプリケーション性能モニタリング(APM)の境界はぼやけ始めているみたいなコメントがありましたが、最後はそこに向かうと。
MablはStackdriverの開発元だった人がやっているので、そういう部分に行くのかなとは思います。エンドユーザー寄りというかエキスパート向けなソリューションというか。MagicPodはできるだけ専門家というか誰でも使えるテスト自動化を目指している
ちなみにMagicPodの人員はどんな感じですか?
今はエンジニアが7割っていうちょっと偏った形なんですが、最近、営業担当とかマーケティング担当が入ってホームページも良くなってきたのでそれは続けていきたいと思っています。マーケティング担当が入ってユーザー事例とかエンジニアの自己紹介とかがコンテンツとして公開されているのでそれも読んで欲しいですね。
競合のMablの創業者がStackdriverを開発しその後、Googleに売却したことを踏まえると日本発のベンチャーで独立系、コードとしてテストを書くのではなくノーコード、モバイルで大きなシェアを持っていることなど、MagicPodがユニークなポジションにいることは間違いない。この先、相互変換や並列化などのチャレンジをどうやって克服していくのか、要注目だ。
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