OSI参照モデルを紐解いていこう ー第3層(ネットワーク層) ①ネットワーク層の役割とIPアドレス
はじめに
皆さん、こんにちは。ネットワークスペシャリストの左門です。本連載では、難しいネットワークを、身近な事例に置き換えながらわかりやすくお伝えしていきます。
第4回と第5回では、第2層(データリンク層)について説明しました。第6回の今回からは、第3層(ネットワーク層)に入ります。ネットワーク層の役割と、ネットワークを学ぶ上で重要なキーワードであるIPアドレスについて解説します。
今回も、身近な事例として、引き続き郵便を題材にします。
郵便局では何を見てハガキを振り分けるのか
第1回でこんな話をしました。
郵便局の皆さんが、相手にハガキを届けるとき、何の情報を基にするでしょうか? それは、ハガキの表(おもて)に書く住所と名前です。ITのネットワークの世界では、名前に該当するものはMACアドレスで「住所」に該当するものが「IPアドレス」です。この2つの情報を使って、相手にフレーム(またはパケット)という手紙を送ります。
ネットワークを勉強した皆さんであれば、IPアドレスはネットワークには欠かせないものだと認識していると思います。でも、一度考えてみてください。IPアドレスがないと通信ができないのでしょうか。
例えば、MACアドレスだけではダメなのでしょうか。実は、IPアドレスがなくても通信することはできます。IP(Internet Protocol)はネットワークプロトコルの1つにすぎません。古いWindows OSではNetBEUIというプロトコルがありました。このプロトコルではIPアドレスを使いませんが、ファイル共有などの通信が可能でした。ただ、NetBEUIは小規模なネットワークでしか利用できません。今はインターネットを使って世界中の莫大な数の端末と通信します。この規模で通信するには、IPアドレスで通信相手を判断するTCP/IPのプロトコルがとても便利なのです。
では、なぜIPアドレスがあると便利なのでしょうか。郵便で考えるとなんとなくわかりますよね。例えば、近所に住む山田一郎さんにハガキを届けるとすると、住所がなくても名前だけで届けられます。でも、遠く離れた県にいる山田一郎さんハガキを送る場合は簡単ではありません。ポストにハガキを投函しても、郵便局の人は山田一郎さんが北海道にいるのか、大阪にいるのか、全く見当がつきません。
そこで「住所」です。ハガキに住所が記載されていて、山田さんが北海道にいるなら、郵便局の人は、北海道の郵便局に向かってハガキを送ります。ネットワークのパケットも同じです。IPアドレスを見て宛先の人がどこにいるかを判断し、その方向のルータに向かってパケットを送るのです。
ネットワーク層の役割
第4回では、第2層(データリンク層)としてイーサネットを解説しました。イーサネットでは、宛先MACアドレスの情報をもとに、セグメント内でデータを送受信します。
しかし、ネットワークはセグメント内にとどまらず、別フロアや国内の別拠点、さらには海外拠点、インターネットへと拡がっています。このような、異なるネットワーク間の通信を可能にするのがネットワーク層の役割です。そのために、次のような機能が提供されています。
- IP アドレスを使い、異なるネットワーク間の通信を可能にする
ネットワーク層では、宛先の識別にIPアドレスを使います。このIPアドレスの情報をもとに、異なるネットワークの機器にデータを送り届けます。 - 宛先までの最適な経路を選択する
データを送る経路は1つとは限りません。例えば、北海道に行くには飛行機以外に車や電車での経路もあります。複数の経路から最も適切な経路を選択することをルーティングといいます(ルーティングに関しては第7回で解説します)。
IPアドレスとは
IPアドレス(IP address)とは、第1回でも述べた通り、IP通信における住所(address)の役割です。ネットワーク上で通信する際には、この住所(IPアドレス)をもとに通信をします。IPアドレスは「192.168.1.105」「203.0.113.11」などと表記されます。
コンピュータの電子回路は、電気信号によるONとOFFしか判断できません。ONを「1」、OFFを「0」に対応づけ、0と1の2進数で処理します。よって、IPアドレスも「1100000010101000000000010110」のような32ビットの2進数ということになります。
しかし、このような0と1の羅列では人間にはわかりづらく、覚えるのも大変です。そこで、人間が理解できるように、WindowsなどのOS上では8ビットずつ(オクテットと言います)に「ドット(.)」で区切って10進数で表記します。
以下に、2進数のIPアドレスを10進数に変換した例を示します。
4つに区切った各部分を順に、第1オクテット、第2オクテット、第3オクテット、第4オクテットといいます。オクテットには8という意味があり、8ビットごとに区切っているため、このように呼ばれます。
ネットワークアドレスとホストアドレス
IPアドレスは、ネットワーク部とホスト部と呼ばれる2つの部分から構成されます。世界中には、数えきれないほどのネットワークが存在します。そのうちの「どのネットワークか」を示すのがネットワーク部です。そして、その中のどの機器(ホスト)かを示すのがホスト部です。ネットワーク部とホスト部の桁数は、ネットワークの規模によって変動します。
似たような例が、電話番号の市外局番と市内局番です。人口が多い東京の市外局番は03と2桁で、市内局番は4桁です。一方、京都市は市外局番が075と3桁、人口が少ない小笠原諸島は市外局番が04998の5桁で市内局番は1桁です。このように、人口が多いエリアでは市外局番を短くして、利用できる番号を増やしているのです。
では、ここで「192.168.1.105」というIPアドレスを、ネットワーク部とホスト部に分けた例を紹介します。
IPアドレスを2進数で表記したときに、ホスト部をすべて0にしたアドレスをネットワークアドレスといいます。ネットワークアドレスは、ネットワーク自身を示すIPアドレスです。この例では「192.168.1.0」がネットワークアドレスです。そして、ホスト部の105がホストアドレスです。ホストアドレスは、ネットワーク内で重複しないように割り当てます。
「わかりやい例だ」と思っていただけるか自信はありませんが(笑)、ネットワークアドレスとホストアドレスを住所で考えてみましょう。例えば、「東京都千代田区神田神保町1丁目105番地」のうち「東京都千代田区神田神保町1丁目」の部分が特定のエリア(ネットワーク)を示すネットワークアドレス、「105」という番地が個々の建物(ホスト)を示すホストアドレスと考えることができます。
ネットワーク部とホスト部の区切りの表記
では「192.168.1.105」というIPアドレスがあったとして、どこがネットワーク部で、どこがホスト部なのでしょうか。何らかの方法で区切りの位置を明記しないといけませんね。その区切り位置を表記する方法には2つあります。
【方法1】サブネットマスク
サブネットマスクは、IPアドレスのネットワーク部とホスト部の区切りを示す32ビットの値です。次に示すように、IPアドレスのネットワーク部のビットをすべて1に、ホスト部をすべて0にすることで、どこが区切りかを示します。
例えば、23ビットまでがネットワーク部であれば、23ビットまで1、それ以降を0とします。
今回の場合、サブネットマスクは「255.255.254.0」です。
【方法2】プレフィックス
プレフィックス表記は簡単です。ネットワーク部の長さ(ビット数)を「/」の後に記載し「192.168.1.105/23」のように表記します。ネットワーク部の長さは、プレフィックス長ともいいます。
グローバルIPアドレスとプライベートIPアドレス
IPアドレスには、グローバルIPアドレス(global IP address)とプライベートIPアドレス(private IP address)の2種類があります。グローバルIPアドレスはglobal(世界的な)という言葉のとおり、世界とつながるインターネットの通信で利用できます。
プライベートIPアドレスはprivate(私的な)という言葉のとおり、企業内や家庭内のような私的なネットワーク(LAN)内でしか利用できず、インターネットでは使えません。その代わり、プライベートIPアドレスとして指定されたIPアドレスの範囲内であればLAN内で自由に利用できるため、A社のLAN内の機器とB社のLAN内の機器に同じプライベートIPアドレスを割り当てることが可能です。
一方、グローバルIPアドレスは、同じIPアドレスを重複して割り当てることはできません。そのため、世界ではIANA(Internet Assigned Numbers Authority) / ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)、日本ではJPNIC(Japan Network Information Center:日本ネットワークインフォメーションセンター)という組織が、IPアドレスが重複しないように一元管理しています。
おわりに
みなさん、ネットワークを理解するに際して最も重要なIPアドレスに関して、理解を深めていただけたでしょうか。
次回も、今回に引き続きネットワーク層について解説します。次回は、ネットワーク層の役割の1つである「宛先までの最適な経路を選択する」という観点で、ルーティングを取り上げます。
左⾨ ⾄峰 著 |
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