Cloud Native Community Japanキックオフミートアップ レポート
2023年11月8日に、CNCFのJapan Chapterとして、Cloud Native Community Japan(CNCJ)が設立されました(CNCFからの英文アナウンス、Linux Foundationからの日本語アナウンス)。筆者も発起人として携わっております。12月1日に、活動開始を宣言するキックオフミートアップが、サイバーエージェントのセミナールームで開催されました。こちらは100名以上収容可能の大きな箱ですが、満席となり大盛況でした。2時間足らずの時間に5セッションが開催され、かなり濃密なイベントとなりました。この記事ではセッションの内容をレポートします。
CNCJの趣旨を紹介
冒頭筆者よりご挨拶としてCNCJの趣旨を紹介しました。
背景として、グローバルではCNCFおよびCNCFのOSS開発に名だたる企業が参画し、技術革新を起こしています。一方、日本においては、CNCFのOSS開発貢献(OSSコントリビューション)について、活発な個人はいらっしゃるものの、企業のレベルではさほど活発でないことを挙げました。その上で、CNCFと日本のコミュニティのハブとして、日本におけるクラウドネイティブの普及促進を図るとともに、本分野のOSSコントリビューションおよび技術革新を促すことを目的とした団体であることを紹介しました。筆者としても、本団体の活動を通じて、OSSコントリビューションの機運を、エンジニアコミュニティおよび日本企業の間に高めていきたいと思っています。
CNCJでは今後もミートアップを開催していく予定です。CNCJ公式ページの「Join」より登録いただければ、ミートアップの情報がメールで届くようになりますので、興味のある方はご登録をお願いします。
CNCF CTOによる基調講演
CNCF CTOのChris Aniszczyk氏より「Welcome to Tokyo」と題した基調講演がありました
日本におけるCNCFのメンバー企業の紹介(24社、うちPlatinumは1社、Goldが3社)があり、日本におけるCNCFプロジェクトに対するOSSコントリビューションの紹介がありました。日本のOSSコントリビューションは世界で8位、シェアは約2%であり、今後開発者が増えていくことを期待しているということでした。日本で主に開発が進められているCNCFプロジェクトとしては、SandboxプロジェクトであるPipeCD、GraduatedプロジェクトであるFluentdなどが挙げられていました。ちなみにPipeCDについては、会場を提供いただいたサイバーエージェントの開発者を中心に開発されており、開発者の方々よりイベント中に「利用者と開発者を広げたい」と話がありました。
後半はここ数年のCNCFでホットな技術トピックの変遷が紹介されました。2017年にはWasm(WebAssembly)が誕生しました。2018年はOSSのサーバレス技術(Knative、microVM)、2019年は軽量なKubernetes(K3s)とObservability標準(OpenTelemetry)、2021年にはeBPF(extended Berkeley Packet Filter)が成熟し、2022年にはWasmが成熟。そして次に何が来るかについては、FinOps ※1 向けのOpenCost、開発ポータルのBackstageをはじめとしたさまざまなものが挙げられていました。
※1 FinOps Foundationによる定義では、エンジニア・財務・ビジネスチームのコラボレーションを通じてクラウド利用の価値を最大化するフレームワークとプラクティスのことを指す。クラウド利用コストの最適化などの効果が期待できる。
最後に、以前KubernetesのSIG UIチェアを務めておられ、現在はCNCFのJeffrey Sica氏が壇上に呼ばれ、日本の開発者への感謝の言葉がありました。
KubeCon + CloudNativeCon 2023 NAをダイジェスト
サイバーエージェントの青山氏より、「KubeCon+CloudNativeCon North America 2023 Overview」と題して、2023年11月にシカゴで開催されたKubeCon+CloudNativeCon North America 2023(KubeCon NA 2023)のダイジェストが紹介されました。青山氏は日本のクラウドネイティブのパイオニアとして知られており、CNCJの発起人の一人でもあります。
KubeCon NA 2023は11月6日~9日にシカゴで開催され、現地参加者8,972名、バーチャル参加者4,694人であり、日本からの参加者は50~60名程度と推測されます。
6日にはCo-locatedイベントと呼ばれる併設イベントが開催されており、今回は合計28ものイベントが開催され、前回の19より大幅に増加しています。併設イベントから見て取れる注目すべきトレンドとしては「Platform Engineering ※2」が挙げられていました。
※2 Platform Engineeringとは、CNCFのPlatform WGの定義によると、デベロッパーと運用管理者のコラボレーションの基盤として、共通のプラットフォームを構築・運用し、プラットフォームのユーザーに提供するプラクティスを指します。
CNCFよりCNCF Platforms White Paperが公開されたこともあり、本分野への関心が高まっており、KubeCon NA 2023のCo-locatedイベントでは、BackstageConが開催され、次のKubeCon EU 2024ではPlatform Engineering Dayが開催されるということでした。
Keynote(基調講演)は、AI・カーボンニュートラル・コミュニティが主なトピックであり、その中でも特筆することとして、NTTの須田氏がTop Committer/Maintainer 2023を受賞されたことが紹介されました。会場には須田氏もいらっしゃっており、大きな拍手に包まれました。この賞は、年に1名ですので、本当に凄いことです。
後半は、KubernetesのGateway APIに関するセッションを駆け足で紹介されていました。Gateway APIは、従来のIngressの課題を踏まえて当初はIngress v2として開発されていたものでしたが、2023年10月31日にGAリリースされました。KubeCon NA 2023でも、「Gateway API: The Most Collaborative API in Kubernetes History Is GA」というセッションにおいて、開発者の方よりGAまでの試行錯誤の過程が紹介され、また「What's Happening with Ingress-Nginx!」では、最もメジャーなIngress実装の一つであるNGINXのGateway APIへの対応状況が紹介されたことなどが語られました。Gateway APIの現在と今後について、より詳しく知りたい方は、青山氏による記事を参考にしてくださいということです。
KubeConを代表とするCNCFが主催するイベントでは、まさにグローバルのOSSコミュニティで何が起こっているかを知ることができ、OSSコントリビューションのヒントを得ることができます。CNCJでは、CNCFに関連するイベントの状況を国内コミュニティの方々と協力しながら共有していきたいと考えています。
OSSコントリビューションの基本を紹介
NECソリューションイノベータの武藤氏、解氏より「コントリビューションのWhyとHow」と題して、OSSコントリビューション活動の基本が紹介されました。武藤氏はKubernetes SIG UIのChairかつCNCF AmbassadorでありCNCJの発起人の一人です。解氏はCNCJのオーガナイザの一人です。
武藤氏からは「なぜOSSコントリビューションをするのか?」が語られました。オープンソースの定義やライセンス、OSSを責任持って使うためにはコストがかかるといったOSSの基本をおさらいし、OSSコントリビューションの理由・動機が紹介されました。一つ目の動機はリスク回避の手段です。OSSに不具合があった場合のパッチ投稿などが挙げられ、短期的な価値として企業にも理解が得られやすいものです。二つ目の動機としては、社会貢献と開発者満足度の向上を通じ、エンジニアの育成・採用に繋げていくものですが、これについては時間がかかります。最後にOSSコントリビューションを通じイノベーションを起こし、自らの事業・顧客・社会のすべてに貢献できることが強調されていました。
そして解氏からは「では実際にどのようにOSSにコントリビュートするのか?」という「How」が解説されました。手軽に始められるコントリビューションとして、OSSのバグフィックスおよびコミュニケーションをどう行うかの手順がKubernetesコミュニティを例として紹介されました。ここで強調されていたことが、「GitHubでのコミュニケーションを難しく考えない」ことです。CNCFの行動規範では「よき市民であること」が明記されているため、皆さん優しく対応いただけけるとのことでした。
本講演は、Kubernetesコミュニティへのコントリビューションの入門としては大変よい内容になっていましたので、ぜひ当日資料をご覧いただければと思います。また、コントリビューションのハンズオンをCNCJの中でも行っていく予定である話も聞きましたので、楽しみです。
Keycloakの最新状況の紹介
日立の田畑義之氏より「Keycloakの全体像」として、4月にCNCF Incubating ProjectになったKeycloakの最新状況が共有されました。田畑氏は、Keycloakへのコントリビューターであり、多数のカンファレンスでKeycloakの普及活動を行っており、CNCF Ambassadorでもあります。11月のKubeCon NA 2023でCNCF Ambassadorグッズをもらえたとのことで、写真のようにCNCF Ambassadorジャケットを着用しての登壇でした。
KeycloakとはIAM(Identity and Access Management)を担うOSSであり、シングルサインオンやAPI認可サーバなどの機能を提供します。イベント時点ではGitHub star数が18K以上、CNCFプロジェクトのvelocity(成長速度)でも7位と非常に活発なプロジェクトであることが紹介されました。また、日本でもメンテナである日立の乗松氏を中心にコントリビューションが活発ということでした。
次いでKeycloakが実際にどのように動作するのか、シングルサインオンおよびAPIの認可の流れについて図解で説明されました(詳細は講演資料を参照)。これらユースケースにおける最新の開発動向(2023年11月23日にリリースされたKeycloak 23の注目機能)としてFAPI 2.0、OAuth 2.0 Demonstrating Proof of Possession(DPoP)、Passkeys、Lightweight Access Tokenが紹介されました。これらの中でも特に注目すべきはPasskeys(パスキー)です。パスキーにより、FIDO2を用いたパスワードレス認証の導入が加速すると期待されています。Keycloakもパスキーに最低限対応しており、現在はUIなどの改善の開発が進められています。
Keycloakについては、日本に開発者が多くいることもあり、今後もCNCJでも定期的に情報共有を行っていこうと考えています。余談になりますが、筆者の所属においてKeycloakのコントリビューションをどう業務として進めてきたかについては、12月12日のCloud Native Days Tokyo 2023で紹介していますので、興味のある方はこちらも参照ください。
日本語翻訳プロジェクトの紹介
最後のセッションとしてLINEヤフーの北村氏、日立の西島氏より、CNCFのドキュメント日本語訳プロジェクトの紹介がありました。時間が押していることもあり駆け足での紹介となりました。
北村氏からは、彼が主導するKubernetes SIG Docsの日本語サブプロジェクトの紹介がありました。英語のドキュメントのファイル数が1465あるうち、日本語化が済んでいるものはまだ364件であり、貢献者募集とのことでした。具体的な貢献方法も講演資料に記載されていますので、興味のある方はぜひ参照いただければと思います。
西島氏からは、彼が主導しているCNCF Glossaryの日本語化について紹介がありました。CNCF Glossaryとはクラウドネイティブに関する用語集です。85の用語の内13件の翻訳が終わっていますが、まだまだ不足しており、貢献者募集中とのことです。貢献方法は簡単で、https://github.com/cncf/glossaryに、他の日本語のPull Requestにならって、Pull Requestを出すだけです。慣れていない方でも、西島氏らがやさしく誘導してくれると思います。また、西島氏達は他のCNCFのドキュメント(TAG Security/App delivery)の翻訳も検討しているとのことです。日本語プロジェクトの状況についても、CNCJのミートアップなどで共有していければ、ということでした。
おわりに
最後にLinux Foundation/CNCFのスポンサーにより、簡単な懇親会が開催されました。クラウドネイティブに限らず他分野(セキュリティなど)のコミュニティの方々もいらしており、参加者は幅広く交流を深めることができたのではと思います。本イベント直後に早速CNCF Glossaryに日本語訳Pull Requestが出てきたりしており、主催側としても嬉しい限りです。OSSコントリビューションに興味のある方の出会いの場・交流の場を目指しておりますので、引き続きCNCJをよろしくお願いします。
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