連載 [第38回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

LFが「LF Research調査レポート」日本語版を公開、オープンソースのクラウドネイティブ技術を推進するCNCFの日本における正式コミュニティを設立

2023年11月30日(木)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、Linux Foundationが発表したレポートと最新の動向について紹介します。

LF Research調査レポート「オープンソース メンテナーズ」日本語版

まずは、LF Research調査レポート「オープンソース メンテナーズ」日本語版から紹介しましょう。このレポートは、オープンソースを保守する技術者(メンテナー)を理解するために重要なOSSプロジェクトのうち、トップ200に含まれていると特定されたプロジェクトの32人に行ったインタビューの記録です。

【参照】LF Research調査レポート「オープンソース メンテナーズ」日本語版を公開
https://www.linuxfoundation.jp/blog/2023/10/japanese-version-of-open-source-maintainers/

これら32人は、豊富な経験を持つ開発者やエンジニアですが、年齢や国籍などさまざまな背景を持っていましたが、ほとんどのメンテナーは非常に大規模または小規模な企業で働いており、中規模の企業で働いているメンテナーはいませんでした。また、企業に所属せずにオープンソースプロジェクトにのみ従事しているメンテナーは1名でした。

では、そもそも、彼らはどのようにメンテナーになっていったのでしょうか。かなりの割合で、彼らは大学でコンピューターサイエンスやソフトウェアエンジニアリングを専攻しており、十分な学問的な背景を持っていました。その後、ソフトウェアの開発業務に従事したり、大学の研究室で自らの問題を解決するためといった理由でオープンソースに取り組む場合が多いようです。

本レポートでは、コントリビューターを「コードを書いてプロジェクトに提出する人」と定義し、メンテナーを「コードレビュー、トリアージ、テスト、セキュリティ、ビルドとインフラストラクチャ、リリース管理など、プロジェクトの管理に従事する人」と定義しています。今回の回答者の75%がこれらの両方を務めており、コードの貢献だけをしている人はいませんでした。また、メンテナーが1人しかいないプロジェクトは1つで、今回の調査のプロジェクトは複数のメンテナーによって運営されていました。さらに、多くのメンテナーは最初コントリビューターとしてプロジェクトに参画し、その後コア コントリビューターになり、最終的にメンテナーへと進む道をたどっていました。

インタビューを受けた人のうち、2人を除く全員がプロジェクトへの時間の投資を支援する企業にフルタイムで雇用されていました。つまり、オープンソースの開発自体が業務であり、仕事の合間に対応しているわけではないということです。しかしながら、雇用主とプロジェクトの関係はさまざまで、雇用主にとって戦略的なプロジェクトに時間の一部を費やすことを理解した上で雇用された例もあるようです。

このように、メンテナーのさまざまな面が記述されているレポートなので、将来メンテナーを目指したい技術者やオープンソースプロジェクトがどのように運営されているのかといった話題に興味のある方は、ぜひご一読ください。

LF Research調査レポート「持続可能性のためのオープンソース」日本語版

次に、LF Research調査レポート「持続可能性のためのオープンソース」日本語版を紹介します。2015年に国連が発表した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で、17の具体的な目標(SDGs:Sustainable Development Goals)を掲げましたが、この目標達成を支援するものとして、オープンソースソフトウェア、オープンデータ、オープンAIモデル、オープンスタンダート、オープンコンテンツなどがデジタル公共財(DPG)として定義されています。

【参照】LF Research調査レポート「持続可能性のためのオープンソース」日本語版を公開
https://www.linuxfoundation.jp/blog/2023/11/japanese-version-of-open-source-for-sustainability/

ここから、いくつか興味深い取り組みを紹介していきます。

まず「目標 1: 貧困をなくそう」からです。このアプローチの1つが包括的な金融ネットワークを構築するBakongプロジェクトです。世界銀行によると、カンボジアは国連の後発開発途上国リストにランクインしており、2021年には成人の67%が銀行口座を持っていませんでした。カンボジア国立銀行は、リテール決済システムを近代化することで銀行口座を持たない国民にリーチするだけでなく自国通貨riel(KHR)を普及させ、銀行以外の決済サービス事業者の規制遵守コストを削減したいと考えていました。

そこで、同行は役割に応じたアカウントベースの許可制を備えたHyperledger Irohaブロックチェーンフレームワークを選択しました。このプロジェクトでは、ベテランのブロックチェーン開発者で、Hyperledger Irohaコードベースの主要な貢献者でもあるHyperledger Foundationメンバーのソラミツと協力しました。このプロジェクトは2019年に試験運用を開始し、カンボジア国民であればリテール銀行口座の有無にかかわらず誰でもBakong口座を開設でき、女性にとってプラスとなりました。試験運用は成功し、取引にかかる時間は5秒未満、ネットワークのスループットは毎秒2,000件を超え、銀行間送金の手数料は大幅に安くなりました。

次に「目標 3: すべての人に健康と福祉を」です。グローバル ヘルス イノベーションを改善するためにOSSを構築、推進、維持するLF Public Healthは、COVID-19のパンデミックの間、いくつかのソリューションを立ち上げました。

1つ目のCOVID Credsはオープンスタンダードに基づくプライバシー保護クレデンシャルや、その他の関連技術を公衆衛生目的で相互運用を可能とすることに焦点を当てたCOVIDクレデンシャル イニシアチブです。2つ目のCOVID GreenはオープンソースのCOVID-19 Google Apple暴露通知(GAEN)アプリで、接触者追跡のためのものです。3つ目のCOVID Shieldはプライバシーを最優先したオープンソースの暴露通知ソリューションで、AppleとGoogleによる暴露認識技術でした。最後はHeraldプロジェクトで、COVID-19を制御するための疫学的要件に従って独自のオープンソース クロスプラットフォーム近接検出ソリューションを構築しました。

このほかにもさまざまな取り組みが紹介されていますので、SDGsの達成にオープンソースがどのように連携できるかという話題に興味のある方は、本レポートを一読いただくと良いと思います。

CNCF Japan Chapter「Cloud Native Community Japan」を設立

最後に、Linux Foundationは、日本の有志が「Cloud Native Community Japan(CNCJ)」を立ち上げたことを発表しました

【参照】CNCF Japan Chapter「Cloud Native Community Japan」の設立
https://www.linuxfoundation.jp/blog/2023/11/launch-of-cncf-japan-chapter-cloud-native-community-japan-2/

これは、オープンソースのクラウドネイティブ技術を推進するCloud Native Computing Foundation(CNCF)の日本における正式コミュニティとして活動する組織になります。CNCFにはメガクラウドをはじめとした多数の企業がメンバーシップやイベントのスポンサーという形で投資することでその活動をサポートしており、CNCFの場で行われるオープンソースでの技術開発に積極的に参加し、コントリビューションするとともに自社のプロダクトに取り入れる好循環が回っています。しかしながら、日本企業からのコントリビューションは限定的でCNCFのイベントでの登壇数も少ないなど、クラウドネイティブの技術開発に貢献できているとは言えません。この現状を変えることが今回のCNCJの設立目的となります。なお、詳しくは、2023年12月1日にキックオフミーティングが開催されます。

これまであまり積極的でないと思われていた日本からの貢献を支える組織ができたことはとても喜ばしいことで、今後の活動に大いに期待したいと思います。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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