PMOに「向いている人」と「向いていない人」の特徴

2024年3月26日(火)
甲州 潤 (こうしゅう じゅん)
第4回は、PMOに「向いている人」と「向いていない人」について、それぞれどのような特徴があるのかを解説します。

はじめに

本連載をお読みいただいている方の中には、「PMO(Project Management Office)の仕事は何となく分かったけど、果たして自分はPMOになれるのだろうか」「PMOってどんな人に適性があるのかな」と疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。そこで今回は、エンジニアからPMOに転身し、フリーランスのPMOとして長く活動してきた私が考える、PMOに「向いている人」と「向いていない人」の特徴について解説していきたいと思います。

PMOに向いている人の特徴

さっそくですが、私が考える「PMOに向いている人」とはこのような人です。

  • 自己管理ができている人
  • プロジェクトを自分事で考えられる人
  • 仕組み化がうまい人

1つずつ、理由とともに解説しましょう。

まず「自己管理ができている人」と聞いて、「えっ! PMOってどちらかというと他人の管理が仕事じゃないの」と思われたかもしれません。しかし、PMOは他のメンバーと同じようにプロジェクトに直接関わる当事者でもあります。そのため、何よりもまず自分を律しなくてはなりません。

「プロジェクト内のミーティングに遅刻をしない」「提出物の納期を守る」といったことはPMOだからこそ守っていく必要があるのです。どんなプロジェクトでも自分事化して考える。そのうえで自分のスケジュールや抱えているタスクをきちんと管理する。それで初めて、他のメンバーのマネジメントができる。私はそう考えています。

次に「プロジェクトを自分事で考えられる人」を挙げました。これも、前述の当事者意識に関わる部分です。PMOというポジションは、実はプロジェクトが失敗に終わったとしても、PMOが全責任を問われることはまずありません。プロジェクトの成功可否に対して責任を負うのは、PMもしくはお客様自身だからです。

そのため、PMOは「自分はやるべきことを遂行したが、メンバーが動かなかったので失敗したのだと思います」といった言い訳もしようと思えばできてしまいます。

しかし、本当にそれで良いのでしょうか。そもそもプロジェクトを「自分には責任がないから」と他人事のように捉えるPMOのマネジメントでは、メンバーはタスクを完了できないでしょう。言うまでもなく、プロジェクトもうまくいくはずがありません。自分もプロジェクトの一員であり、「メンバーの管理は自分が責任を持って取り組むのだ」という感覚を強く持つこと。これができる人はPMOに向いています。

最後に「仕組み化がうまい人」ですが、この根底にあるのが「自分やメンバーがいかに効率良く仕事を進められるか」という意識です。例えば、メンバーの1人が急にお子さんの具合が悪くなり会社を休むことになったとします。メンバーは上司に休む旨をメールや電話で伝え、上司はメンバーの仕事の進捗を確認し、他のメンバーに情報を共有している状態だとします。

この一連の流れを見て、優秀なPMOであれば「これは仕組み化が必要だ」と気づくでしょう。メンバーも上司も休みの連絡に手間と時間がかかり、効率が悪いからです。

ではどうすれば良いか。私なら、メンバー内で共有カレンダーを作り、出社できないときは自分のステータスを変えるだけで良い、いちいち連絡は不要といった仕組みを作ると思います。さらに個々の仕事の進捗まで見られる仕組みにすれば、誰でも瞬時にメンバーの状態が把握できます。

メンバー1人ひとりが本来業務に注力できるよう、手間やストレスはできる限り排除して環境を整える。これもPMOの重要な仕事の1つであり、腕の見せどころでもあるのです。

向いている人の逆? だけじゃない!
PMOに向いていない人とは

「じゃあ、PMOに向いていない人は?」と問われれば、前項でお伝えした特徴と真逆の人……と言ってしまえばそれまでなのですが、今回、私が最もみなさんにお伝えしたいことこそ、この「PMOに向いていない人」の特徴です。

実はこれ、「仕事ができない人」にも直結しています。ぜひみなさんにもご自身を振り返ってみていただきたいのです。では、いったいどんな人なのでしょうか。それはズバリ、「自分の基準でしか考えられない人」です。

これは「私中心で世界は回っています!」のような、いわゆる“自己中”の意味ではありません。分かりやすく例えると「私ができたのだから、同じ努力をすればあなたもできるはず!」といった考え方を持つ人です。

確かに、誰かが成功した方法を踏襲すれば、うまくいく人もいるかもしれません。しかし、すべての人にマッチするわけではありません。それができたら誰も苦労しないですし、できないからみんな困っているのです。

仕事によくある風景で例えるなら、「マニュアルを作ってみんなそれに従えば良い」「マニュアルがあるんだからできるでしょう?」という考えでプロジェクトを進める状態を指します。このような方、あなたの周りにもいませんか? 意外といますよね。

恥ずかしながら、実はかつての私もそういう人間でした。「マニュアルがあって、やり方が分かるんだからその通りやればできるじゃん。簡単だしみんなできるよ! なぜできないの?」と思っていたのです。まさしく「PMOに向いていない人」の考えの持ち主でした。

では、なぜ私がその考えを改められたかというと、ある出来事で気づきを得たからです。

それは、システム刷新のためのプロジェクトを担当したときでした。数百人のメンバーが関わっていたので、例えば作業の仕方が大きく変わるような局面では、特に入念に準備をしました。メンバー全員が作業について同じ理解を持っていないとプロジェクトが進んでいかない状況だったため、「すべての人が理解できるようにしよう」と決め、対応に当たりました。

中には、ITに明るくないメンバーもいます。その人たちのために他のメンバーやお客様と一緒にディスカッションを重ねながら、「これくらいやさしく書いたら分かりやすいだろう」「この説明があれば一通り理解できるよね」という資料を作り上げました。

「これならみんな完璧に分かるだろう」とプロジェクトメンバー全員に展開したところ、大半のメンバーは理解してくれたものの、それでも全員が理解するには到達しなかったのです。しかも「この部分が分からないのですが……」というメンバーが想像以上にいました。それもITがまったく分からないような人たちではなく、普段仕事でパソコンなどを使いこなせるような方たちからの声があまりにも多く、びっくりしたのです。

と同時に、たくさんの人に何かを伝えたい場合、「これをやれば絶対にみんな理解できる、伝わる」ことはない。「分からない人が一定数はいるのだ」と気づきました。

とは言え、そのような人たちも直接会話をすれば理解してもらえるケースがほとんどであることも分かりました。少し補足をしたり、相手にとってもっと分かりりやすい例え話を出してみたり、工夫すれば結果的に伝わることも実感したのです。

それからは伝えたいことがある場合、いったんは全体に展開し、理解が難しい人にはグループ対応や個別対応でフォローすることをプロジェクト内に浸透させました。

このように書くと「PMOって効率良く仕事を進めることが任務でしょう? そこまでメンバーに寄り添わないといけないの?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。たしかに、個別対応などは手間や時間がかかって効率が悪いように見えます。

しかし、関わる全員が理解しないままプロジェクトを進めてしまい、後から重大な誤りが見つかる方が大変です。それならば、最初に時間をかけても共通の理解を持っておく方が、結果として効率的なのです。つまり、PMOがプロジェクトを成功に導くためには、プロジェクト始動時にそうした寄り添いが発生する可能性まで想定しておくことがとても重要なのです。

「物事を額面通り受け取る人」も
PMOに向いていない人の特徴

もう1つ「PMOに向いていない人」を挙げるなら「相手から言われたことをそのまま受け取って、真面目に取り組んでしまう人」、いわば物事を額面通りに受け取るような人です。

具体的に言うと、100件の問い合わせが来た場合に「自分が1件ずつ解決していけば良い」といった思考を持つ人を指します。大量の問い合わせを1つひとつ、残業しながら必死で返す。もちろん解決方法としては間違っていませんし「丁寧に頑張って取り組んでいる」と見られて評価も上がるかもしれません。しかしPMOとしては残念ながら不向きと言わざるを得ません。そんなことをPMOや他のメンバーがしていたら、いつまでたっても本来業務に注力できないからです。

それでは、私ならどうするか。まず100件の問い合わせをざっと見て、「これは大体同じことを言っている」と判断される問い合わせごとにグループ分けをします。その中から急ぎのものとそうでないものを分けます。すると、すぐ取り掛かるのは半分くらいになります。

それから「このグループの問い合わせは社内のFAQに載せて全員に周知しよう」「この問い合わせをしてくる人たちには、この対処方法を共有しよう」などと、グループ単位でどんどん片付けていきます。すると50件が30件になり、10件になり……とタスク量は減っていくはずです。最後は「直接話して理解してもらおう」といった細やかな対応も必要になるかもしれませんが、たくさんのタスクをこうして振り分けて効率良く組み立てられる人は確実にPMO向きです。

なぜ100件の問い合わせを例に出したかというと、これも私が実際に100件の問い合わせを1件ずつ片づけた経験があるからです(笑)。「こんなのどう頑張っても終わらない……」「もう無理だー!」そんなシーンに直面したことを機に、私は「もっと効率良くするにはどうしたらよいだろう」という思考に変わりました。

これは、最初にお伝えした「(プロジェクトを)自分事で考えられる」にもつながっていくと思っています。「たくさんの問い合わせがきちゃったんだから、どうしようもない」とただ目の前の仕事を片付けるのはある意味、他責志向です。確かに100件の問い合わせがきたのはあなたのせいではありません。しかし、それを「じゃあ、自分はどう解決できるのだろうか」という自責志向に切り替えるだけで、業務のスピードや質はグンと変わってくると思います。

自分を理解するための効果的な手法
「ジョハリの窓」を実践しよう

さてPMOに向いている人、向いていない人についていろいろと説明してきましたが、ご自身を振り返ってみて当てはまることはありましたか? おそらく多くの方は「自分がどんな人間なのかよくわからない……」と思っていらっしゃるのではないでしょうか。

そこでおすすめしたいのが「ジョハリの窓」という手法です。詳しくは私のブログで解説しているので、ご興味があればのぞいてみてください。

▼チームビルディングでファシリテーターである私が二番目に話すこと|ジョハリの窓
https://blog.office-root.com/facilitation/johari-window/

簡単に説明すると、他人からの指摘をもとに「他人から見た自分」と「自分から見た自分」を分析し、その差異を認知することで、コミュニケーションの円滑化、組織の活性化につなげるものです。

人間は「開放」「盲点」「秘密」「未知」という4つの窓を持っているというのが、この手法の大前提。この中で自分も他人も知っているのは「開放の窓」だけです。あとは他人だけが知っている「盲点の窓」、自分だけが知っている「秘密の窓」、自分も他人も知らない「未知の窓」です。

「自分のことは一番自分が知っている」と思いがちですが、実は他人だけが知っている自分もある。むしろそうした部分の方が、はるかに大きいのです。それを理解するためにジョハリの窓は役立ちます。

では、具体的に何をするのかというと、周囲の人に自分について指摘をしてもらうのです。そして、その指摘をオープンマインドで素直に聞く。これだけです。

しかし、実際やってみると、正直かなりつらい作業です(笑)。例えば「甲州さんって、いつもハッキリものを言い過ぎですよ」なんて言われたら、めちゃくちゃ傷付くじゃないですか。「いや、自分はそんなつもりじゃないよ」と言い返したくもなってしまいます。

しかし、そこをグッとこらえて「そうなんだ。そう見えていたんだね。ありがとう」と受け止めることを目指します。ここで反発したりイラッとしたりすると、その人からはもう指摘してもらえなくなってしまうからです。逆に「この人にはざっくばらんに伝えて良いんだ」と周りに思われると、いろいろな人からたくさんの指摘をもらえるようになります。日頃から「自分と仕事をしてやりにくいことがあったら遠慮なく言ってくださいね」など、指摘をしやすい環境づくりも大切です。

本当に大変ですが、自分が知らない自分を自覚するには、他人から指摘をしてもらうほかありません。でも安心してください。最もつらいのは1回目だけです。それからは徐々にうまく受け止められるようになってきますし、何より確実に自分が変わっていくはずなので、難易度は高くともチャレンジする価値は十分あります。

ジョハリの窓の素晴らしいところは、自分の悪い部分だけでなく、良い部分も自覚できることです。例えば、自分では「これは自信がないんだよな……」と思っていることも、他人からは「いやいや、これできるってすごいことだよ!」と見られている。こうしたことは本当によくあります。コンプレックスだと思っていたことが、実は他人はまったく気にしていなかった。そんなこともあるでしょう。

ジョハリの窓は主に「1:1」のコミュニケーションを想定していますが、私はこれこそチームで取り組むべきだと思っています。何でも言い合える環境で、お互いが知らない自分を自覚しながら成長できる。これはプロジェクトの成功にもつながっていくのではないでしょうか。

おわりに

第4回の今回は、以下のような内容を解説してきました。

  • PMOに向いている人は自己管理や仕組み化ができて、プロジェクトを自分事で考えられる人
  • 「自分もできるから相手もできる」「言われたことを愚直に取り組もう」と考える人は向いていない
  • 自分がどんな人間か自覚するには、ジョハリの窓に挑戦してみよう!

PMOに興味がある方にもう1つ添えるとすると、例えば「○○のスペシャリストになりたい!」といった明確な目標がある方にはPMOは向いていないかもしれません。 むしろ「今、何を目指したら良いのか分からない」という方ほど向いていると思います。私もそうでしたから。

実際にPMOになって分かったのは、PMOを経験すると人や仕事の調整力、交渉力や課題解決力など、幅広いスキルが身に付けられるということ。これらはどのような分野の仕事でも使える、いわば“ポータブルスキル”だと思っています。そのスキルを持って初めて「次は何を目指そうか」と考えてみても良いのではないかと私は思っています。

次回は、PMOに求められる役割やPMOのさまざまな種類について解説します。どうぞお楽しみに!

著者
甲州 潤 (こうしゅう じゅん)
株式会社office Root (オフィスルート) 代表取締役社長
国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動すると多数プロジェクトを成功へ導き、企業との協業も増加。2020年法人化し企業課題と向き合う。【著書】『DX時代の最強PMOになる方法』(‎ビジネス教育出版社)
URL: https://www.office-root.com/become-excellent-pmo/

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