会社や仕事は「プロジェクト」で成り立っている

2023年12月5日(火)
甲州 潤 (こうしゅう じゅん)
第1回は、「PMO」という職業について、その役割と誕生の背景、またどのような仕事をするのかについて解説します。

はじめに

「PMO」(ピーエムオー)と聞いて、みなさんはどのようなイメージを持ちますか。システム関連のプロジェクトに参画したことのある方であれば、

「そういえば、参加したプロジェクトにそんなポジションの人いたな」
「あの議事録書くだけの人?」
「課題管理表の期限が切れたらメール送ってくる人でしょ?」
「管理職ですよね?」
「PMのわきにくっついて事務処理する人でしょ?」
「口うるさく“あれやれ”“これやれ”と言って書式やルールを押し付けてくる人ですよね?」

などなど、もしかしたら、こんなふうに思われているかもしれませんね。

しかし、PMOの本質的な役割は上記に挙げたものだけではありません。確かに議事録を書いたり、課題の進捗管理をしたりしますが、もっと広い視野でプロジェクトと関わるのです。そんなPMOという職種は、今多くの企業からニーズが高まりつつあります。

本連載では、企業のSEからフリーランスのPMOとなり、さまざまな企業の大規模プロジェクトに関わってきた私が、PMOとはどのようなポジションで、どのような仕事をするのか、分かりやすく解説していきます。

PMOの役割と誕生の背景

PMOとは「Project Management Office」の頭文字を取ったものです。プロジェクトと名が付くので「プロジェクトを取り仕切る人」「プロジェクトの進行管理をする人」などを想像されると思いますが、どちらも正解です。

プロジェクトの全体像を把握して適切な進捗管理を行なったり、効率化を図るべく業務環境の最適化を行なったりするほか、社内チームやときに他企業までも横断しマネジメント業務の調整や支援などを行います。それらを通して「プロジェクトを成功に導く」ことこそが、PMOの最も大事な仕事です。

プロジェクト内において、PMOはプロジェクトの総合的な責任を担うPM(プロジェクトマネジャー)を補佐する役割を担います。プロジェクトの管理業務はPMの業務に該当しますが、規模が大きくなればなるほど業務量が増えていき、PMひとりだけでは手が回らなくなります。

管理業務だけならカンタンと感じるかもしれませんが、昨今の業務は細分化や複雑化しています。これらはPMが片手間で作業できるレベルではないため、プロジェクト内でPMOを設置する企業が増えているのです。

では、なぜ今PMOの存在がクローズアップされているのでしょうか。90年代までは今ほどプロジェクトが複雑化していなかったこともあり、プロジェクトの進行やマネジメントもすべてPMに委ねられていました。しかし、現在は1つのプロジェクトに関わる企業やメンバは多岐にわたります。

例えば、システムを作るにしてもユーザー企業やベンダー企業のほか、営業代行企業、Web制作会社など専門分野に特化した企業と関わる場合もあります。また、チームメンバもさまざまな世代や経験値を持つ人が混在し、中途採用者や日本以外の国籍を持つメンバーなど多様な人たちと一緒に働くことが当たり前となりました。つまり、プロジェクト進行にあたっての課題や確認・決定事項などが多様化し、その量も多くなってきたわけです。

そこで誕生したのが、従来のPMの仕事だったマネジメント業務を担うPMOです。細分化・複雑化するプロジェクトにおいて、メンバ1人1人の役割ややるべきこと、優先順位などを整理し、プロジェクトに携わる関係者たちや企業との間に入って対話や橋渡しも担います。

PMOはもともと多民族国家の欧米において一般的な職種でしたが、日本でも2000年以降、徐々に浸透し始めています。とは言え、まだまだ国内のすべての企業にPMOが行き渡っているわけではありません。企業から注目されニーズはあるものの、まだPMO人材は市場にそれほどいないのが現状です。そのためプロジェクトが思うように進行できない、失敗してしまう企業が少なくないのではないかと考えています。

PMOは「エンジニアのキャリアの1つ」ではない

ところで「PMOはエンジニアが就く仕事」と認識している人がよくいらっしゃるのですが、これは誤りです。基本的には、プロジェクトを円滑に進めることができる人は誰でもPMOになれるのです。

ただ、システム開発などIT業界におけるプロジェクトでは、エンジニアがPMOを担うパターンが非常に多いのも事実です。エンジニアリングやシステム開発の知識、経験が備わっているエンジニアであればシステムが完成するまでの全体の流れをわかっていますし、プロジェクトに関わるエンジニアたちとも同レベルで対話ができるからです。急なトラブルや変更が起こった際も状況の理解が早いためスムーズに解決できるのです。

また、私の知り合いの会社ではデザイナーがPMOの役割を担っています。進捗管理はもちろん、クライアントの交渉、スケジュール管理までを引き受け、多くのプロジェクトを成功に導いています。まぎれもなくPMOと言っても良いでしょう(ただし、デザイン関係では「ディレクター」と呼ばれることもあるため、必ずしもPMOという呼ばれ方をしない場合があります)。このように、知らず知らずのうちにPMOとして仕事をしている人たちもいるかと思います。

冒頭でお伝えしたように、私はSEからPMOになった1人です。「優秀な人が揃っているのに失敗するプロジェクトがあるのはなぜだろう?」そんな素朴な疑問がPMOを目指すきっかけとなりました。今では、さまざまな企業にPMOサービスを提供する会社を経営しています。一度PMOとしてプロジェクトのお手伝いさせていただくと、「また甲州さんにお願いしたいです!」とお声がけいただくことも多く、とても嬉しく、またありがたく思うとともに、PMOのニーズの高さを肌で感じています。

“プロジェクト概念”を持つことがはじめの1歩

さて、ここまでお読みいただき、「なるほど~。でも、自分は大きなプロジェクトに関わらないし関係ないな…」と思ったみなさん。どうか、そんなふうに思わないでください。

そもそも、PMOが管理するプロジェクトは大規模なものばかりではありません。身近な仕事の中に数多く存在する、規模の小さなプロジェクトもPMOの守備範囲です。

例えば、新規事業の立ち上げや製品のモデルチェンジは「事業を軌道に乗せる」「納期までにニーズを満たす」といったゴールを目指し、業務を進めていく1つのプロジェクトです。

また「日々の営業活動」「定期業務」なども立派なプロジェクトです。営業活動の場合は「今月10件の新規契約を取る」と決めたら、「1週目は30人のアポイントを取ってヒアリング」「2週目は●件の契約を獲得」といった推進計画を立てたり、営業チームのメンバーそれぞれの進捗を管する必要がありますよね。他にも「毎日●個の業務をミスなく遂行する」「標準の品質を維持する」といった、社内に置かれた基準を達成することもプロジェクトと捉えられるでしょう。

つまり、どのような方でも必ず何らかのプロジェクトに携わった経験があるはずですし、おそらく現在も携わっています。私たちが毎日関わる仕事、私たちが普段目にする商品やサービス、もっと言えば私たちが所属や取引をしている会社自体も、すべてさまざまなプロジェクトによって成り立っているものなのです。

これまでの仕事を振り返ってみてください。「あのプロジェクトは失敗だったな…」「うまくいかなかったな…」と感じたことはないでしょうか。例えば「進行管理がうまくいかず、納期に遅れてしまった」「チーム内やお客様との間で行き違いがありトラブルになった」など要因はいろいろあるかと思いますが、これらの多くは「PMOの存在」や「PMO的な意識」があれば解決できると私は思っています。

PMO的な意識の具体的な話は、今後の連載の中で解説していくとして、まずみなさんには「すべての仕事はプロジェクトで成り立っている」という“プロジェクト概念”をぜひ持っていただければと思います。この概念を持つことができれば、チームメンバや他企業と連携して仕事を進めていく際に「このプロジェクトを成功させるには、自分はどう動くべきか」「どうすれば業務がより円滑に回るか」といったことが誰かに聞かなくても自らわかり、行動できるようになります。それがPMOへのはじめの1歩にもなるでしょう。

また“プロジェクト概念”をチームメンバーやクライアントなど、プロジェクトに関わるすべての関係者と共有することもPMOの大切な仕事です。「目の前の仕事はプロジェクトであり、PMOはその全体の進行を管理する役割である」という認識が浸透していないと、もし何かプロジェクトに問題が起きた場合に「PMOが取り仕切るのはシステム会社の中だけでしょう」「うちには関係ない」といった勘違いがプロジェクトの進行に支障をきたす恐れがあります。

発注者側と受注者など、人と人、企業と企業の間にPMOが入り、そうした認識のズレをなくしお互いに目線を合わせて業務に向き合える環境を整えることは、プロジェクトを成功させる前提条件と言えるでしょう。そうした意味でも、PMOはプロジェクトにおいて重要なキーパーソンとなるのです。

おわりに

第1回の今回は、ここまで以下のような内容を解説してきました。

  • 時代の流れ、多様なメンバーの中で業務が専門化、複雑化してきているため、PMだけでは管理がしきれなくなってきている
  • PMOとはプロジェクト全体を横断的に把握し、プロジェクトを成功に導く人である
  • プロジェクトとはゴールに向かってみんなで達成するもの。そこに規模は関係ない
  • PMOを目指せる人はSEやITエンジニアに限らない。さまざまな分野からPMOになることも可能

PMOとはどのような職種なのか、またPMOが活躍するプロジェクトはみなさんの身近な場所に数多く存在していることがご理解いただけたでしょうか。PMOはプロジェクトの一員でありながら、プロジェクト全体を俯瞰するポジションでもあります。そんなふうに、自分が関わる仕事を主観と客観で見られるようになると、間違いなく仕事の効率や質は改善していきます。

ぜひ今後の連載でさらにPMOの知識を深め、より良い仕事につながるヒントを受け取っていただけたら嬉しく思います。

著者
甲州 潤 (こうしゅう じゅん)
株式会社office Root (オフィスルート) 代表取締役社長
国立高専卒業後、ソフトウェア開発企業でSEとして一連の開発業務を経験し、フリーランスに転身。国内大手SI企業の大規模プロジェクトに多数参画、優秀な人材がいても開発が失敗することに疑問を抱く。PMOとして活動すると多数プロジェクトを成功へ導き、企業との協業も増加。2020年法人化し企業課題と向き合う。【著書】『DX時代の最強PMOになる方法』(‎ビジネス教育出版社)
URL: https://www.office-root.com/become-excellent-pmo/

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