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不可能性・不確実性が高い領域に投資しイノベーションを起こす。日本中の大学ファンドがいま注力する「DeepTech」とは

2019年11月12日(火)
あくやん

10月15日(火)、総合型モノづくり施設・DMM.make AKIBAと日本企業とのイスラエルスタートアップ連携を推進するAniwo社が、世界的に注目が集まってきているDeepTechをテーマにイベントを開催した。

先端技術に興味があるエンジニアや起業を目指す人、またVCが集まり、実際にDeepTech分野で活動するスタートアップやその技術発展を支える著名人から話を聞くことができた。

会場となったDMM.make AKIBAの上村遥子氏は冒頭の挨拶で「DeepTechはこれから国内でももっと注目されていく分野になる。様々な視点からDeepTechについて知ることで、自分たちの事業にどのように展開できるのかを掴むきっかけにしてもらいたい」と述べた。

DMM.make AKIBA コミュニティマネージャー兼エバンジェリスト 上村遥子氏

DeepTechに挑戦するスタートアップ

DeepTechについて、Aniwo社の松山英嗣氏は「研究開発から商用ベースに載せるまでに多くの時間を必要とすることと、莫大な資金が必要になること」と定義し、イスラエルの「ヘルスケア」「アグリ/フードテック」「バイオ/ナノテクノロジー」「オートモーティブ/スマートモビリティ」の4つに絞って今回講演を行った。

Aniwo / Head of Japan 執行役員 事業開発担当 松山英嗣氏

イスラエルでは軍役義務が終了した後にギャップイヤーとして世界を見て周る。その後大学に進学し、グローバル企業に務め起業する人が多くいるという。その基礎には軍役のために受ける先端技術に関する高度で密な教育と、世界中に広がるイスラエル・ユダヤ人ネットワークが強みとしてあるそうだ。DeepTech領域のスタートアップも年々かなりの勢いで増加しており、2018年ではスタートアップ約6500社のうちヘルスケア分野だけでも約1200社にもなる。

イスラエルのスタートアップを支えるエコシステム

日本では今のところDeepTechに分類される取り組みの多くは大手企業内で研究が進められていることが多いものの、近年新たなイノベーションを起こそうと起業するスタートアップが出てきている。

日本はスタートアップが生まれる環境としてまだ未成熟だが、その中でも力強いスタートアップが生まれてきている

そうした日本発スタートアップの代表として、株式会社Rhelixa(レリクサ)と株式会社CYBO(サイボ)から彼らの取り組みや挑戦について各社の代表から紹介があった。

株式会社Rhelixa

ゲノムやエピゲノム情報に基づき後天的な身体の症状を改善に導くヘルスケア事業を行う株式会社Rhelixa。代表取締役・仲木竜氏により2015年2月に設立し、2018年10月には2億5千万出資を受けている。今後、エピゲノムによりあらゆる生体の異常が事前にわかる世界を実現しようとtoCに向けたサブスクリプションでの提供を狙い開発を進めている。

株式会社Rhelixa 代表取締役社長 仲木 竜氏

株式会社CYBO

株式会社CYBOは、細胞を高速撮像し、AIの深層学習を用いた画像解析によりリアルタイムで細胞を識別・分取できる世界初の基盤技術の事業化を進めている。この技術は昨年に科学ジャーナルCELLに論文掲載されたもので、これを活用することで従来の顕微鏡とセルソーターという異なる研究ツールを一元化し、創薬や細胞療法、診断などに広く応用が期待される。実用化を目指し更なる開発を進めると共に、現在は展示会などで積極的に技術を紹介するなどしてユーザの掘り起こしに力をいれていると代表取締役・新田尚氏は語った。

株式会社CYBO 代表取締役 新田尚氏

学校発のDeepTechを支える取り組み

スタートアップにとって投資は切り離せないものではあるが、特にDeepTech領域においても長期的な研究開発継続のため資金調達は大きな課題となる。しかし、DeepTechの芽になる研究の多くは事業化にはまだ到底至らないため一般的には投資対象にならない。大手企業内の研究であれば資金は他の事業から調達することができるが、例えば学校内で行われている研究において試作機を開発する資金が必要な場合に、国からの補助や研究資金だけでは実現が難しい。

大学における研究を支援するため、文科省が取り組みを進めている

実はそうした研究シーズの事業化を支援する大学連携VCが東京大学、京都大学、東京工業大学、大阪大学、東北大学などの国立大学に始まり私立大学でも立ち上がってきている。このDeepTechを支援する取り組みについて話をしてくれたのは、東京工業大学唯一の連携ファンドである、みらい創造機構の取締役・共同創業者である金子大介氏だ。

みらい創造機構 取締役・共同創業者 金子大介氏

みらい創造機構は2017年10月に13社から資金調達し33億円のファンドを組成した。大手金融機関に加え、デンソー、アステラス製薬、東急不動産ホールディングスなど事業会社6社も参画している。投資対象は主に3つで、1つ目が技術や特許を活用した東工大“発”スタートアップ、2つ目が在学生や卒業生が起業した東工大“卒”スタートアップ、3つ目が共同研究などで関わる東工大“着”スタートアップだ。現在、DeepTech分野を含めた幅広い領域の19社に投資している。また投資先のスタートアップが、東京工業大学が持つ知的財産権のライセンスを取得する対価として現金ではなく新株予約権を付与し、資金は研究開発にあてるといった事例もでてきているとのこと。

学校の持つ様々な資産をビジネスに活かせるような体制を整えている

このような取り組みにより資金面の課題を気にせず研究を進めることができ、また研究成果を活かした事業が生み出しやすくする環境が整ってきている。今後、日本発DeepTechスタートアップが加速し増えていくことが期待できそうだ。

いま事業会社やVCが
DeepTechに注目する理由とは

「学問の世界(研究)は、哲学・サイエンス・テクノロジーで成り立っていて、そこから先どのように事業化するかというビジネス面は別の領域の話でした。それらを別々ではなくまとめて深掘りしていこうよという取り組みがDeepTechの概念なのではないかと考えています」と語ったのは、株式会社高専キャリア教育研究所の代表取締役・菅野流飛氏だ。

株式会社高専キャリア教育研究所 代表取締役 菅野流飛氏

これまでビジネス面だけを見て企業やVCからスタートアップに対し投資が行われてきたが、今後はビジネスサイドだけを見て判断するのでは将来的に社会が先細りしてしまうため、研究開発領域の動きにも注目していく必要があるという。菅野氏はさらに「不可能性・不確実性が高い領域に飛び込んでこそイノベーションが生まれる」と話し、続けて「そういった、不確実性を突破するための高度な教養と圧倒的な現場力が必要となるケースで、高専生のニーズがどんどん増えている」と、実践主義の高専教育と先端技術を活用する現場との結びつきが深くなってきている状況を伝えた。

哲学・サイエンス・テクノロジー・ビジネスのターンをまとめて深掘りしていく

イベントの最後には、松山氏をモデレーターに金子氏、仲木氏、新田氏、菅野氏によるパネルセッションが行われ、ここでは人材と資金調達についての話題が振られた。

登壇者たちによる人材や資金調達に関するパネルセッション

新田氏は人材について「日本でDeepTechに携わっている人材が少ないということはありません。大企業の研究所などではDeepTech分野の研究がたくさんやられていますが、ベンチャーや大学と違ってその活動が顕在化しにくいだけです。将来的な人材の調達先としては、こうした既存企業でキャリアを積まれた方は有力な候補です。先ほどの菅野さんのお話にありました高専生にも興味があります。また企業のリタイア人材には多くの優秀な方がいらっしゃいます」と述べた。

大手企業のなかや高専など、DeepTechを支える技術人材は日本に多くいると語る新田氏

同じくスタートアップ視点から仲木氏も「優秀な人材を見つけるという点においては、あまり困ったことはありません。弊社が実体験としてリクルートにおいて困った部分は、どのような人が必要かを見極めるところにありました。スタートアップでは、常に事業を見直しながら柔軟に方向修正を行っていく必要があります。その中で、数ヶ月、数年先の動きを想定してどのようなスキルを持った人間を採用するかを決めないといけず、それは簡単ではありません。どのような人間が必要か定まった先には、様々な方法で優秀な人材を見つけることは可能です。挑戦的な領域に挑みたいと考えている優秀な人材自体は少なくないという認識です」と話があり、スタートアップにおける雇用の課題が垣間見えた。

スタートアップは初期の雇用方針を決めることが難しいと語る仲木氏

菅野氏も「研究者が起業した場合に、高専生もそうですがエッジのたった性格の人が多くビジネススキルで問題があることが多いです。投資家を口説きにいったはずなのに、なぜか自慢話をして帰ってきてしまうなんていうこともあります。技術的なエッジと性格的なエッジ両方についてこられるビジネス、ファイナンスの人材が必要ですね」とコメントした。

研究者たちの壮大な夢をどう狭めずにビジネス化するかが課題と語る菅野氏

また新田氏から「DeepTechお金もかかりますが、それよりも本質的に時間がかかる。分野にもよるでしょうが、VCなどの投資家が期待するようなスピード感で急成長することは難しい事もあります。お金はあればあるだけ開発に使えてしまうので、資金を調達しすぎるのもお金と時間のバランスで考えると難しいですね。コツコツと売上を上げて収益を出しながら、並行して長期的な開発を進められれば理想的と思います」と、資金調達の内容によって事業展開が大きく変わってしまう問題が指摘された。

DeepTechでは早期に売上を立てることが理想と語る新田氏

この指摘を受けて、金子氏は「事業会社との連携がDeepTechの成長において重要だと思っています。アプリサービスやゲームなどは自社だけでも立ち上がりスケールして成功することが可能ですが、DeepTechは1社だけではビジネスが完結せず様々なステークホルダーとの協調が必要です。そのため、弊社でもファンド組成時に6社の事業会社にLPとして参画頂きました。ファンド投資の側面でいうと、現在、ファンドは年々増加傾向にあり、VEC(ベンチャーエンタープライズセンター)の貯往査によると、VCファンドの新規組成金額は年間約2000億円ずつ増えているような状況です。その様なリスクマネー過多の状況では事業が進めば進むほど投資資金が殺到しますので待っていると投資危害を逃す、或いは時価総額が高騰した後の投資となってしまいます。DeepTechは事業化して成功するまでに時間はかかりますが、特に初期段階への投資については、その後のラウンドにおけるマクロ的なリスクマネーの供給余力を踏まえると投資機会が大きいのではないでしょうか」と、DeepTechが時間をかけることへの理解を示すとともにそこに投資価値があると会場に訴えかけた。

初期のDeepTechスタートアップは小さなファンド、事業会社にとっては投資向きであると語る金子氏

* * *

研究に携わる人とそれをビジネスとして活かす人たちとでは、これまでとそして今現在の一部も大きな認識の差があるようにおもう。一方からは技術的なことが理解しづらく、また一方からはビジネス面での解決ができないままでお互いの領域を理解し合えないまま、それぞれの役割だけを果たそうとしてはないだろうか。その状態からは何も革新的な取り組みは生み出せないのではないか?と疑問を感じ、活動を起こしているのがDeepTechなのだろう。

参加者から「技術的な理解度が浅い人がビジネスをやろうと入ってきても、話がかみ合わずやりづらいのでは?」と質問があったが、登壇者たちからは「関わる人を狭めてしまうと展開も狭まってしまう。技術的な理解がない人ならではの意見を取り入れることで、自分たちではこれまで考えもしなかった活用方法が生み出されるきっかけになる」と返答があり、その答えこそがDeepTech分野への期待と指針を示していると感じた。

デジタルハリウッド卒業後、デザイナーとして企業でWebサービス・アプリの制作をしながら個人ブログで執筆活動を開始。それをきっかけに並行してライティング業務に携わるようになり、イベント、ガジェット、旅といったジャンルの記事を担当。現在はフリーランスで、スタートアップやIoTプロダクトの広報も行なっている。https://www.akuyan.to/

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