起業ファイナンスの基礎知識

2024年7月10日(水)
株式会社Fivot「Flex Capital」事業部
第1回の今回は、ITエンジニアが起業する上で事前に知っておくべき資金調達としてのファイナンスの概要と、その資金を効率的に活用・管理する際のファイナンスについて説明します。

はじめに

「起業ファイナンス」とは新しくビジネスを始める際に必要な資金の調達および管理を指し、資金調達、資金管理、予算作成、収支管理など広く含まれます。「ファイナンス」というと、いわゆる「資金調達」である、銀行からの借入やベンチャーキャピタルやエンジェル投資家と呼ばれる投資家から資金を調達する場面のみを指す場合があります。しかし、ファイナンスとは本来は資金調達だけではなく、事業を行う上での資金繰りや日々の収入支出の管理も指します。そういった意味で、ファイナンスとはビジネスの成長と成功に不可欠な要素であり、起業家が直面する最も重要な課題の1つです。

しかし、いざ起業しようという時点でそこまでファイナンスについて深く捉え、計画や実行に移せる人は決して多くなく、成功した起業家でも必ずしもファイナンスに長けているとは限りません。とは言え、何も知らずに起業して事業をスタートするのと、少しでも基礎を理解しておくのとでは、いざ資金調達に挑む場面や投資の意思決定の場面において大きな違いを生むはずです。

第1回の今回は、ITエンジニアが起業を検討する上で、事前に知っておくべき内容を取りまとめ、今後の意思決定の一助となることを目指します。前半では起業をしてビジネスを立ち上げる際に必ず必要になる資金調達としてのファイナンスの概要を取り上げ、後半でその資金の効率的な活用、管理としてのファイナンスを説明していきたいと思います。

ITエンジニアが
ファイナンスを知っておくべき理由

ITエンジニアにとって、ファイナンスの知識は技術的なスキルと同じくらい重要です。技術的な観点に注力しすぎるあまり、資金面で苦労するITエンジニア出身の起業家は多く存在しますが、スタートアップを立ち上げる場合、資金調達の方法や資金管理のノウハウは欠かせません。強みとする技術力やプロダクトを自らの手で生み出すことができる能力をビジネスの世界でより有効に活用するためには、どうしてもファイナンスの知識は避けて通れないからです。

起業のためのファイナンスの基礎

ビジネスの資金を手当てするには、いくつかの選択肢があります。

自己資金

「自己資金」とは起業家自身が持っている資金を指します。これは、貯金や個人的な資産を活用してビジネスを始める方法です。自己資金を使うことで、外部からの借入れや投資家への依存を減らすことができます。しかし、自己資金だけでは大規模な事業展開は難しい場合が多いため、他の資金調達方法と併用することが一般的です。

【メリット】
  • 他者への返済義務がないため、自由に資金を使える
  • 意思決定をすべて自由に行える
【デメリット】
  • 起業するまでに時間がかかる
  • ビジネスモデルによっては事業開発が困難
  • 失敗した場合に個人の財産を失う可能性がある

公的融資・銀行融資

日本政策金融公庫や商工組合中央金庫、日本政策投資銀行など政府が運営する金融機関からの融資を「公的融資」と言います。公的融資の中でも起業時に活用しやすいのは日本政策金融公庫が提供する「創業融資」です。公的融資は動き出しから実際に資金が得られるまで比較的時間がかかることが多いのですが、創業融資に関しては申込から融資実行まで1ヶ月で完了するケースもあり、スピード感を持って対応してくれる点もメリットです。

民間の銀行からの融資は「銀行融資」と呼ばれます。銀行融資の場合はプロパー融資と信用保証付き融資に大別でき、起業時の早い段階から活用できるのは信用保証付き融資です。

プロパー融資では銀行自身が大きくリスクをとって融資を行う一方で、信用保証付き融資では公的機関である信用保証協会が融資の保証を行うため、銀行から見た際のリスクが低く、融資のハードルが低いと言われています。

【メリット】
  • 意思決定を原則として自由に行える
  • 比較的コストが低く資金が調達できる
【デメリット】
  • 代表者個人の連帯保証を求められる場合がある
  • 返済の義務がある

エンジェル投資家

「エンジェル投資家」とは、個人としてスタートアップに資金を提供する投資家です。彼らは通常、まだプロダクトもできあがっていないような初期段階で投資を行い、資金だけでなく経験や人脈も提供します。エンジェル投資家は、企業の成長ポテンシャルに高い期待を持って投資するため、過去の実績や裏打ちされたビジネスモデルではなく、目指す世界の大きさや夢といった、ビジョンに対して投資を行うことが多々あります。

【メリット】
  • 資金だけでなく、経験やネットワークを提供してくれる
  • ビジネスの成長に対する高い期待とサポートが得られる
  • 事業の実績が全くなくても資金を得られる場合がある
【デメリット】
  • 株式の一部を譲渡する必要がある
  • 投資家の意見や方針に、事業が影響を受ける可能性がある
  • あくまでも個人投資家であるため、信用できる相手か慎重に選ぶ必要がある

ベンチャーキャピタル

「ベンチャーキャピタル」(VC)は、新しく設立された新興企業に対してリスクを伴う投資を行う専門の投資会社です。VCは企業の成長ポテンシャルを見込んで大規模な資金を提供し、ビジネスの急速な成長を支援します。通常、VCは企業の株式を取得し、一定期間後にリターンを期待して投資を回収します。

【メリット】
  • 大規模な資金調達が可能
  • 専門的なアドバイスやネットワークの提供が受けられる
【デメリット】
  • 株式の一部を譲渡する必要があり、契約等で事業運営について一定の制約が課されることが多いため、経営の自由度が制約される
  • VCのリターン要求が高いため、事業の成長プレッシャーが強くなる

ベンチャーデット

「ベンチャーデット」は、主にVCから資金を調達済みのスタートアップ企業に対して、融資を通じて資金を追加提供する方法です。先述の公的融資や保証付き融資は受けられるものの、まだ事業のリスクが高くプロパー融資を受けることが難しかったり、銀行融資の枠だけでは高い成長を持続するのに投資資金が不足したりするような高成長スタートアップが活用する手法です。

銀行融資よりも金利が高く設定されたり、新株予約権という形で株式の一部を譲渡する契約が付随されたりします。成長を持続するための必要な資金を調達しながら、株式の放出を抑えられるため、VCなどの投資家からの資金と組み合わせることで効率的な資金調達が実現できます。

【メリット】
  • 株式の放出を抑えることができる
  • 銀行融資が受けられない赤字の状態でも利用できる場合がある
【デメリット】
  • 銀行融資と比べて金利が高く設定されることが多い
  • 資金の出し手によっては、契約によって事業運営に対する一定の制約を課されることがある

クラウドファンディング

「クラウドファンディング」は、インターネットを通じて多数の個人から資金を集める方法です。プラットフォームを通じてビジネスアイデアやプロジェクトを公開し、支援者からの小額の資金を積み上げていきます。クラウドファンディングは、プロジェクトの認知度を高めるとともに、資金調達の手段としても有効です。

【メリット】
  • 数多くの個人投資家から資金を調達するため、同時に認知獲得のPR効果が得られる
  • プロダクトのファンを株主に迎えることで、よりロイヤリティを高めることができる
【デメリット】
  • プラットフォームの利用手数料が発生する
  • 必ずしも目標の金額を調達できるとは限らない

資金調達のプロセス

事業概要と事業計画 = ビジネスプランの作成

効果的なビジネスプランを作成することは、資金調達の成功に不可欠です。ビジネスプランには、事業の概要、目標市場、競合分析、収益モデル、資金使途などを明確に記載します。先ほど取り上げた手段の如何を問わず、銀行融資や公的融資を含む全ての投資家は、このプランを基に事業のポテンシャルを評価します。

投資家へのプレゼンテーション

投資家へのプレゼンテーションは、ビジネスプランの内容を効果的に伝えるための重要なステップです。プレゼンテーションでは、事業のビジョン、成長戦略、競合優位性などを明確に伝え、投資家の関心を引くことが求められます。

デューデリジェンス

「デューデリジェンス」とは、投資家が企業の実態を詳細に調査するプロセスです。これには、市場調査、財務状態、ビジネスモデル、知的財産、法的安定性、経営陣の背景などが含まれます。デューデリジェンスをクリアすることで、投資家の信頼を得ることができます。

交渉と契約

資金調達の最終段階では、投資条件や契約内容を交渉します。融資の場合には、返済期間や金利、連帯保証の有無などが主な条件となります。ベンチャーキャピタルなどの株式の発行を伴う調達の場合、発行する株式数、株価、事業への制約、投資家へのリターンの返し方などが含まれます。交渉の結果、双方が納得できる条件で契約を締結することが重要です。

資金調達後のファイナンス

ここまで、ファイナンスのうち、資金調達についての説明をしてきました。ここからは、資金を効率的に活用し管理するためのファイナンスについて紹介します。

たとえ資金調達に成功したとしても、その資金を最大限活用し、ビジネスとしての成長を実現しなければ意味がありません。多くの資金をベンチャーキャピタル等の投資家から調達しながらも、持続的なビジネスモデルの構築まで至らず、事業を清算せざるを得なくなったスタートアップは数多く存在します。

効率的な資金の活用には、支出した資金がどれほどの効率で利益を生んでいるのかを正しく計測し、事業のどの箇所を改善するべきで、どの箇所により多くの資金を投下するべきなのかを把握することが必須です。そのためには、以下に挙げるような考え方が有効となります。

予算の作成と管理

予算の作成と管理は、事業計画を実行するための重要なツールです。予算は、収益目標や支出計画を具体的に示し、経営判断の基準となります。定期的に予算と実績を比較し、必要に応じて修正を行うことが重要です。

予算を作成する際には、支出が必要な項目やプロジェクトの優先順位をつけていくことが必要です。最初から全てを実現できれば良いですが、それだけの手元資金があることは少なく、資金の制約の中で順序をつけながら予算を使っていくことになります。

KPIの策定と管理

「KPI」とは「Key Performance Indicator」の略称です。事業のパフォーマンスを表す重要な指標のことで、行なっている事業の特性や事業のステージによって、どのようなKPIを設定するのかは異なります。例えば売上高や利益率であったり、受注残や問い合わせ数、アプリのダウンロード数であったりします。適切なKPIを設定して正しく管理することで、事業が正しい方向に進んでいるか、十分に利益は確保されているかを確認しながら事業を進めることができます。

キャッシュフローの管理

キャッシュフローの管理は、企業がどれだけの資金を何に使っていて、どのようにその資金が回収されているかを把握するために不可欠です。「キャッシュフロー」とは企業の現金の流れを指し、収入と支出のバランスを取ることが求められます。適切なキャッシュフロー管理は、突発的な資金不足を防ぎ、事業の安定運営を支えます。

キャッシュフローの管理にはいわゆる「資金繰り」が含まれます。資金繰りとは、短期的な資金管理を指し、日々の収入と支出のバランスを取ることを言います。例えば得意先への仕入支払いを発注から1ヶ月後の支払いではなく、2ヶ月後にしてもらうことで、支出が遅くなり資金繰りが改善します。逆に、得意先からの入金を納入時にするのではなく受注時にするなどできれば、資金繰りは同様に改善します。

おわりに

起業ファイナンスは、ビジネスの成功に不可欠な要素です。適切な資金調達とファイナンス管理を行うことで、企業は安定した成長を遂げることができます。特にITエンジニアにとって、技術的なスキルとともにファイナンスの知識を持つことは、思わぬ落とし穴を回避しながら事業の競争力を高めるために重要です。

著者
株式会社Fivot「Flex Capital」事業部
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