教育改革実践家の藤原氏、年俸0円Jリーガーの安彦氏が講演。ランサーズ主催の「新しい働き方フェス2019」レポート
9月23日(月)、CROSS DOCK HARUMIにて、全国フリーランス共創コミュニティ「新しい働き方LAB」の公式コミュニティマネージャーたちが中心に企画・運営を手がけた働き方イベント「新しい働き方フェス2019 ~自分の新しい可能性に出逢う1日~」が開催された。
多様な働き方の選択肢があることを知り、また自分の働き方について新たなヒントや一歩踏み出す勇気を得てもらいたいという趣旨のもと、会場は展示をはじめ、座談会やワークショップ・セミナーなど多彩なコンテンツで盛り上がった。
自分のやりたいことを体現!「多彩な働き方ショー」
開催に先立ち、自分の得意なことを軸に働いている「多彩な働き方ショー」が開かれた。登壇者の1人で、ゲストハウスのオープン資金をクラウドファンディングで調達したというはま氏は「クラウドファンディングなどで限られたスペースに自分の想いを端的に書くにはライターの経験が役立った」など、資金調達成功の裏には複数の仕事による相乗効果があったそうだ。
他の登壇者からは「初めは1つ軸足になるメインの仕事を確立した上で、やってみたいことをやっていったら繋がった」「2つの仕事があるから生計が立てられる」といった声も。また、想定以上に1つの仕事に時間を割かれてしまった経験から、「どの仕事をメインに時間を確保するか時間管理が必須になってくる。『時間がない』という方がいるが、何気なく過ごしている時間を一度見直してみると時間は意外とあるもの」とアドバイスもあった。
趣味や好き・得意をいかに仕事に繋げるか
そして、趣味を仕事に繋げていく方法として、「その趣味の仕事が自分に合うかを明らかにするためにも、実際に数ヶ月試してみると良い。初めはひとつの仕事を深く丁寧にやっていくことが望ましい。いきなり独立を考える人もいるが、 好きなことよりも「稼ぐこと」が使命感になってしまう傾向が強い。長期スパンできるかと、『お金をもらわなくても継続できるか』が大事。まずは趣味の延長で、自分の生計を立てながらできる範囲で始めてみると良いのでは」「副業でなく複業(2つの本業)を持つ」と意識することで成長の度合いも違ってくる」といった、実践者ならではのアドバイスもあった。
フリーランスだからこそ「仲間」が大事
また、フリーランスはフリーランス同志で連絡を取り合ったりしていても、基本的に1人で仕事をすることが多い。孤独や寂しさを紛らわしたり、さまざまな業界の情報交換をしたりするにも、弱音を吐いたり本音で話せる仲間づくりも大切であるという。
自分をレアカード化してAIに負けない人へ
続いて、教育改革実践家の藤原和博氏による「自分らしく生きるために~必ず食える1%の人になる方法~」の基調講演を聴講した。
藤原氏は「誰もが100万人に1人の人材になれる可能性がある」と強調した上で、仕事もAIと人間とで役割分担されてくる今後において、重要なのは「情報編集力」だという。どのような仕事がAIに代わり、どのような仕事が人間の仕事として残るのか。これまでは「情報処理力」が重視されてきたが、今後は多様化が進み、生き方に正解のない成熟社会が深まると言われている。「仮説を立て、やってみないと分からない時代だからこそ、自分の考えと他者の考えを合わせて答えを導き出す『情報編集力』が大切だ」と語った。
ここで、この20年で姿を消した切符切り(駅の改札口で切符を切る駅員)の仕事を例に、駅の改札からホームまでの間で次に見なくなるかもしれない仕事について数人によるグループディスカッションと、自分の意見を相手に納得させるよう「納得解」を自己と他者との間で導いていくディベート方式のディスカッションが行われた。
「AIに取って代わられるのは、時給の安い仕事より時給3,000~5,000円の仕事から。今後は誰でもできる仕事をするコモディティ会社員と、『ぜひこの人に!』と仕事が殺到するレアカード仕事人のどちらかに分かれていくだろう。だからこそ、ひとりひとりがレアカード化することがとても大切になってくる」と藤原氏は言う。
レアカード化するための方法として、ニーズのあるキャリアとキャリアの掛け合わせがユニークであればオンリー1になりやすい。1つの仕事で5~10年勤続した場合、合計で10,000時間働いたことになり、その時点ですでに1つの軸足ができている。同ジャンルの職種では希少性は小さくなる。「より自分のことをレアカード化するのであれば、これまでの経歴とは全く違う仕事を軸足に歩み出して欲しい」と、藤原氏は三角形の体積を例に解説した。
「自分の人生は自分で決める」
― 自分らしい働き方への挑戦
続いては「自分らしく働く、自分らしい人生」をテーマに、ランサーズを立ち上げた秋好陽介氏と、「年収0円Jリーガー」というこれまで聞いたことのない肩書きを持つ安彦考真氏によるスペシャル対談があった。本対談のきっかけは「これからの働き方を模索する本イベントの参加者にとって、安彦氏の話は参考になるだろう」と秋好氏が思ったことだとか。
プロサッカー選手を目指し、高校3年の夏休みに新聞配達で貯めたお金で単身ブラジルへサッカー留学をした安彦氏。本来1ヶ月の滞在は3ヶ月になり、帰国後サッカー選手のプロテストを受けるも不合格。その後、15年ほどはプロサッカー選手から遠のいていた。
しかし、39歳の時「本当にこのままで良いのか」と自分の人生に本気で向き合い、仕事を辞めて再びプロサッカー選手への道を進むことに。ついに40歳でJリーガーとなった。現在はJ3のYSCC横浜にて現役選手として所属している。
39歳でサッカーの世界に戻ろうと決意したきっかけは「社会からドロップアウトした引きこもりや発達障害の子どもたち、通信制高校の教員をしている中、『この子たちを何とかしたい』という自分の志が、いつの間にか『今の生活を維持するためにしている仕事』にすり替わっていたことに気づいたこと」だという。1年ほど世間の考える幸せと自分の幸せの差異に葛藤している中、ある子どもとのやりとりが安彦氏を動かした。
新しい働き方を模索する子どもたちには「10回の素振りより1回のバッターボックスだぞ。1回クラウドファンディングでもやってみたら」と勧めていたが、これまで自分で実践したことはなかったという。そんな中、ある教え子に「1,500円の本を買うためにクラウドファンディングしたら300円しか集まらなかった」と言われた。その瞬間、実際にバッターボックスに立った彼を目の前に、膝から転げ落ちる想いだったという。「これまでの自分の後悔を丸ごと取り返すために、Jリーガーになる」と、その日のうちに仕事を辞めることを決意。責任ある教師の仕事ではあったが、「自分の人生に嘘をついて生きる方が嫌。子どもたちにこんな道もあると知らせたい」とJリーガーへチャレンジする道を選んだ。
また「Jリーガーになる」と思いを強くする一方で「お金を捨てたかった」という安彦氏。「『収入が減るとやりたいこともできない』という怖さから仕事を辞められないことに疑問を感じ、一度収入をゼロにしてみたかった」とその理由を語る。そして2017年8月、ついに人生初のクラウドファンディングを敢行。「自分の人生を生きるには、自分の気持ちに素直になるべき。『自分の人生を生きることが僕の職業だ』」と安彦氏は熱弁した。
そして、会場からの「当時の生徒にいま、伝えたいことはあるか」という質問に対し、「2つある。『今を一生懸命生きる』こと、相手を敬う気持ちを持った上で、人は自分の正解を語る生き物だから『自分の周りの大人の言うことを一度疑ってみる』こと。人生の豊かさは決断の数で決まる。自分の人生は自分で決めて歩んで欲しい」と締めくくり、対談は終了した。
リアル座談会でフリーランスのお悩みを解決!
会場内では「ネットじゃ聞けない!リアル座談会」も開催されており、その中で株式会社Ponnuf 代表取締役 山口拓也氏による「フリーランスになるときにぶつかる壁と乗り越え方」に参加した。
山口氏は人生の方向性を考え、必要なスキルを学び仕事で実践する、1ヶ月間の地方移住型フリーランス体験プログラム「田舎フリーランス養成講座」を主催している。山口氏の定義する「フリーランス」とは「do(やりたいこと)とbe(仕事・生活)を自由に選べる人」。昨今では、会社員でもフリーランス的な生き方をしている人も増えている。本講座の参加者がフリーランスになりたい主な理由は「やりたいことを仕事にしたい」「仕事に糸目をつけず家族と一緒にいる時間を増やしたい」などがあるのだとか。
「フリーランスになることに壁はない」と断言する山口氏。会社は成果を出さなくても給料がもらえるが、安定した給料を継続的にもらえるかは分からない時代でもある。「フリーランスは成果を出せば給料は上がる。『フリーランスという会社に転職します』とフリーランスになっても良い」と山口氏はいう。そもそも「なぜフリーランスになりたいのか?」が大切で、実力があれば会社の中でも自由になれるだろうし、たくさんお金を貯めておけば、仕事を辞めた後に自由を手にすることができる。
また、山口氏は「フリーランスになったときにぶつかる壁」として「稼げない / 本当はやりたいことでない / 時間の使い方の不自由さ / 将来の不安」などを挙げたが、「これは会社員でも同じ」とバッサリ。「会社員よりチャレンジすることや決断すべきことが多くなるのがフリーランス。それゆえ、専門性より隙間を狙える柔軟さや幅広さが大事になってくる」と強調した。
このほかにも、会場内にはフリーランスクリエイターの作品が展示されていたり、実際にエンジニアやデザイナーの仕事を体験できるワークショップが開催されたりと、1日に及ぶ新しい働き方フェスは、終始盛況だった。
* * *
本イベントに訪れた参加者の多さに、新しい働き方を模索している人が増えていることをひしひしと感じた。フリーランスを実践している人の声で多かったのは「自分の生活を確保した上で、少しずつ試してみる」こと。フリーランスという働き方が自分に合うか分からなくて踏み出せないという人も多いだろう。そんなときは、数ヶ月でも「フリーランスに転職してみよう」と試食するような感覚でやってみることを筆者もおすすめしたい。
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