LPI日本支部、新しい理事を紹介。インタビューを通じて課題を語ってもらった

Linuxに関する認定試験制度を推進するLinux Professional Institute(以下、LPI)のエグゼクティブディレクターであるG. Matthew Rice氏がパートナーとのミーティングに合わせて来日した。Rice氏の来日に合わせて、ThinkITでインタビューを実施した。
恒例となっているLPI日本支部でのインタビューだが、今年は新たに理事としてBrian Clemens氏が就任したことが大きな変化となった。2023年に理事として就任した中原道紀氏、コミュニケーションディレクターの伊藤健二氏も加わって最新のアップデートを行った。
最初に今回新たに理事として就任したクレメンズさんの自己紹介をお願いします。
Clemens:私はRocky Linuxのメインテナーとして働いていましたが、2024年の6月にLPIの理事として仕事を始めました。現在は東京に住んでいますが、最初に日本に来たのは米軍の兵士として座間に駐留していた約10年前ですね。退役後は一般の企業で働いていましたが、最初のトランプ政権ができる前、つまりトランプが大統領選に出るかどうかというタイミングで「これは悪いことが起こる、アメリカにはいたくない」と思って日本に移住を決めました。周りの知り合いは「トランプが大統領になるわけはない」と悪い冗談であるかのように言っていましたが。
実際には現実になってしまいましたね。ITの仕事に就いたのはどういう流れですか?
Clemens:退役してからITに転身した感じですね。その中でRocky Linuxのコミュニティに参加するようになりました。
Rocky Linuxへの貢献ということですが、Rocky Linuxを選んだのはどうしてですか?
Clemens:大きな理由はRed Hatが寡占しているLinuxの状況に違和感を持っているからですね。Rocky Linuxは実際にはHPCの領域では大きなシェアを持っています。しかしながら現在はそのことがあまり知られていないというのが実情なんです。それを変えたいと思います。またLPIに関してもLinuxの認定試験はやはりRed Hatが大きな認知を獲得していますが、ベンダーに偏らないLinuxの知識を得るためにはLPICが最適であるということを、日本国内でももっと知られて欲しいと思います。
Mattさんから何かアップデートはありますか?
Rice:デジタルバッジをLPIの認定試験の証書として使うようになったことですね。もともとデジタルな証書であるOpen Badgeの仕様はMozillaが最初に開発して公開したもので、それを様々なITベンダーが採用していたわけですが、LPIとしてもデジタルバッジにして欲しいという会員からの声に応えた形になります。日本をはじめとしてドイツでも紙の証書を欲しがる人が多いんですが、紙を置き換えることで管理が簡単になり、コストも抑えられます。
日本ではITの認定試験は大変人気がありますし、企業も認定試験の取得を推奨しているので、助かる人は多いと思います。しかし認定試験はあくまでもベースの知識を獲得するためには有効だと思いますが、実際のITの現場で働くためには充分ではないのではないかと思いますが?
Rice:それはその通りです。私も複数のLPIの資格を持っていますが、それ以上にエンジニアとして働いた時に現場で得た知見のほうがずっと多いと思いますね。
認定試験でエンジニアの底上げができたとしてもコミュニティとしてそれが機能するか?というと違うような気がします。例えばZABBIXのコミュニティでは、トレーナーはトレーナー志望者を養成するトレーニングの対面での実施を必須としています。その仕組みによって「私はあの人に教えてもらってトレーナーになった」という言わば学校の先輩後輩のような絆ができているんですよ。それによって社外の人ともZABBIXのコミュニティで繋がることによって困った時にも助けてもらえるし、自分が助けることもできるという本当の意味のコミュニティが醸成されていると思います。
中原:認定試験だけでは足らないということに関連しますが、最近、とある教育機関にお邪魔して先方と話をした時に、認定試験で最低限の知識は得たとしてもその先で実際に現場で学ぶという機会を作ることが大切だと感じました。
それはインターンシップ的な何かですか?
中原:それだけに限りませんが、業界と教育機関が一緒になって何かの仕組みを考えることが大事だと思いますね。片方からだけのアプローチではなく一緒に何かをやるという発想です。
伊藤:それに関してはLPIとしては日本に限らず海外でいろいろチャレンジをしています。例えばモンゴルでは、日本の高専と同じような教育施設を作ろうというプログラムに参加しています。そこに参加しているLPIのパートナーのエンジニアは、以前は南三陸高校でLPICの認定試験に合格することを目指して高校生にLinuxを授業で教えていました。またタイでも同じように高専を作ろうというプロジェクトが始まっています。
日本では少子化が問題となっていますが、アジア、特に東南アジアはまだまだ若い人が多くてみんなITを学びたいという意識が高いんですね。これまでは先進国からの仕事として製造業が盛んな地域でしたが、若者にとってのやりたい仕事としてITが挙げられているからだと思います。それくらい意欲が高いですね。事実アジアパシフィックという視点だと、ベトナム、タイ、インドネシア、インド、韓国という国では多くの認定エンジニアが出てきていますね。中国圏というか台湾では新しいパートナーが加入していまして、現在、認定試験の繁体字への翻訳プロジェクトが始まっています。
南三陸高校に関しては以下の記事を参照されたい。
●参考:南三陸の商業高校がLinuxの認定試験に挑む。志津川高校が始めたチャレンジを定点観測
伊藤さんに伺いますが、LPI日本支部としての最近のアップデートは?
伊藤:日本ではパートナーの数が100を超えたというのが最近のニュースですね。これは教育機関から企業も含めて103社というのが正確な数字ですが。Year on Year(前年比)では10%程度の伸びだと思います。最近ちょっと伸び悩んでいるかもしれません。傾向としてはEssentialという入門編の試験を取るエンジニアだけではなくその上の試験、LPIC-2や3を取得するエンジニアが増えていることですね。Linux Essentialの取得者も増えているので、その発展として上の試験を取りたいということだと思います。
年次のパートナー・ミーティングの前に行ったインタビューだったが、それぞれ多方面に話が飛びながらもITエンジニアの底上げ、オープンソースへの理解を深めるための施策を語らった時間となった。
2023年のインタビューは以下を参照してほしい。
●参考:LPI日本支部の新しく任命された理事とエグゼクティブディレクターにインタビュー
ちなみに日本に在住するClemens氏は「ちいかわのファンである」とコメント。タブレットにはちいかわ(ハチワレ)のステッカー、バックパックにはちいかわの小さなぬいぐるみを着けていたことはメモしておきたい。「お気に入りのラーメンは?」という質問には「ラーメンではなくつけ麺が好みで、お店としてはつけ麺屋ごんろくが好き」と答えていた。
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